東北2023秋 その1
------この本を親愛なる我が家族、友人、担当のタルン書房トット氏、そして賢明なる読者諸氏に捧げる。
2023年11月 破滅的日常の曼谷にて------
Day1 盛岡ステージ
東京駅から乗り込んだ秋田新幹線は、北上するにつれ秋の気配を車窓から感じさせてくれた。関東平野を通り抜け東北に入ると、山々にある樹木は緑の中に黄色や赤が混じるようになり、目的地の盛岡では鮮やかな紅葉が出迎えてくれた。
長いこと泰に暮らしており、現地での仕事の関係上、秋の日本に一時帰国するのはおよそ20年ぶりとなってしまった。春の日本を感じるときは毎年のようにあったが、秋の日本は本当に久しぶりである。同じ日本とは言っても新鮮だ。四季を持つお国柄は有り難い。
緑、黄、赤。多様な色彩の樹木が為す景色は美しくもあり、冬への確実な準備で寂しさも漂わせる。若い頃に感じた紅葉へのそんな気持ちを思い出しながら、盛岡駅からタクシーに乗り込みホテルへと向かった。
「お客さん、ご旅行ですか。」
「そうです。泰から来ました。紅葉狩りです。」
「今年は暖かくて紅葉は未だなんですよ。山の奥の方に行けば、少しは見れるかもしれませんね。」
「••••••。」
そうなのだ。本当は全くもって秋らしい風景に出会えていなかったのだ。東北の樹木は輝く太陽に照らされ新緑を煌々としているような有り様だ。ホテル室内では冷房をセットする有り様だ。
温暖な気候に打ち負かされた私は、上着を脱ぎ捨て盛岡の飲食街をとぼとぼと歩き食道園を目指した。盛岡冷麺発祥の有名店だ。ここで焼き肉、ビール、盛岡冷麺の三重奏を奏でることに見事成功し、盛岡三大目的の一番目「盛岡冷麺を食す」を完遂した。盛岡冷麺を食すことは人類長年の夢と希望であったのだ。自己充足感に満たされながら、東北旅行初日を終えるのだった。