キャップレートの求め方-株式評価と不動産評価の意外な類似性
(全裸不動産 全裸幡随院)
不動産評価は、不動産投資の経済的価値を決定するプロセスの中の一つです。“キャップレート”と呼ばれる“還元利回り”ないしは“収益還元率”は、収益を生み出す不動産を評価するための重要な指標となります。“純営業利益(NOI=Net Operating Income)”は、資金調達コスト及び税金のコストが追加される前の、収入を生み出す不動産の収益性を測定するのに必要な数字です。
投資目的での不動産購入の際の評価にあたっては、まずは最低限押さえておかねばならない数字ということになります(但し、不動産投資における各種数字とりわけキャップレートは人為的な評価という介入があり、市場に現れた客観的数字とまでは言えない面、注意が必要です)。
株式の評価には“絶対評価”と“相対評価”の2つの基本的な評価方法が存在しますが、不動産の評価についても当てはまる側面があります。特に、どういう点が似ているかというと、将来の純営業利益(NOI)を適切な割引率で割り引くという発想が、株式評価におけるディスカウント・キャッシュフロー(DCF)評価法に似ているからです。
不動産投資家が不動産評価を行う際に置く重要な仮定の1つは、この“キャップレート”と呼ばれる還元利回りを選択することです。還元利回りは不動産の収益還元率であり、価値上昇分や減価償却費を差し引いたものです。平たく言えば、不動産の“現在価値”を決定するために純営業利益(NOI)に適用されるレートです。
例えば、不動産が今後10年間で10000万円のNOIを生み出すと予想されると仮定します。14%の還元利回りで割り引かれた場合(今時の東京都心で、不動産の市場価値は、単純な収益還元方式で計算すると、約7143万円。もし6500万円で売られている場合、得です。しかし、販売価格が8000万円の場合、損な取引ということになります。
先ほども言った通り、キャップレート(還元利回り)の決定は、収入を生み出す不動産を評価するために使用される重要な指標の1つです。問題は、その見つけ方です。企業の“加重平均資本コスト(WACC)”の計算よりも多少複雑ですが、投資家が適切なキャップレート(還元利回り)を見つけるために使用できる方法はいくつかあります。3つほど紹介しておきます。少々、小難しい表現ですが、やっていることは大したことありません。この3つとは、①ビルドアップ法、②市場抽出法、③投資バンド法です。
キャップレート(還元利回り)を計算するための一般的なアプローチの1つが、①ビルドアップ法と呼ばれるアプローチです。金利から始めて、適切な“流動性プレミアム”(ここでは、不動産の非流動性という意味です。流動性が低い、つまりは換金しにくいもしくは換金速度が遅い資産に対して、投資家が要求する上乗せの期待収益率です。要するに、流動性が低く換金するまでに時間がかかるのならば、投資家としてはそれを我慢できるだけの対価をよこせというものです)、プレミアムの回収、“リスクプレミアム”(リスクプレミアムという言葉を耳にした人は多いかと思いますが、表現が小難しいために何を意味しているのかわからないという人もいますので、確認しておくと、投資家がリスクを伴う投資を行う時に得る収益の内、リスクを伴わない投資と比較して余分に得られる収益部分のことを意味します。要するに、リスクを背負った分の見返りとして得られる報酬部分です)を加味して、不動産市場の全体的なリスク・エクスポージャーを明らかにします。
6%の金利、1.5%の非流動性率、1.5%の回収プレミアム、2.5%のリスク率とすると、キャップレート(還元利回り)は11.5%(6%+ 1.5%+ 1.5%+ 2.5 %)。純営業利益(NOI)が2000万円の場合、収益還元の考え方で求められる不動産の市場価値は1億7391万3000円です(もっとも、不動産の価値を算定するのに、収益還元の考え方を絶対視するのは問題です。最近は主流の考え方でしたが、以前は逆にほどんど無視されていました。それが立場が逆転して、収益還元の考え方を絶対する風潮が不動産市場で蔓延しました。いずれも極端な考え方であろうというのが私の個人的な見解です)。
この計算は、単なる足し算です。但し、複雑な点は、キャップレート(還元利回り)の個々の要素の正確な見積もりを評価する点にあります。とりあえず、ビルドアップ法の利点は、割引率の個々の構成要素を定義して正確に測定しようとする点だと理解しておきましょう。
②の市場抽出法は、同等の収入を生み出す不動産に関する現在の利用可能な純営業利益(NOI)及び販売価格情報があることを前提としています。時価総額法の利点は、キャップレート(還元利回り)が直接所得の時価総額をより意味のあるものにすることです。
ある投資家が、駐車場を購入しようとしているとします。純営業利益(NOI)を5000万円期待しています。この地域には、以下の3つの収入を生み出す駐車場があると仮定します。
【駐車場❶】の純営業利益(NOI)は2500万円、販売価格は3億円。利回りは8.33%。
【駐車場❷】の純営業利益(NOI)は4000万円、販売価格は3億9500万円。利回りは10.13%。
【駐車場❸】の純営業利益(NOI)は1億8500万円、販売価格は2億円。利回りは9.25%。
これら3つの物件の平均利回りをとると、9.24%の還元利回りが市場の合理的な表現になります。この利回りを使用して投資家は検討している不動産の市場価値を決定できます。駐車場への投資機会の価値は、5億4112万5500円です(くどいようですが、収益還元の考え方を絶対視するのはまずいというのが私の主張ですが)。
③の投資バンド法では、キャップレート(還元利回り)は負債と自己資本の両方を使用する不動産の個々の利率を使用して計算されます。この方法の利点は、資金調達された不動産投資に最も適切なキャップレート(還元利回り)であるという点です。
最初のステップは、“減債基金係数”を計算することです(将来の目標額を貯めるために、毎年の必要積立額を計算するのに使う係数)。これは、将来のある時点で一定の金額を確保するために、各期間に取っておかなければならないパーセンテージです(細かいことは割愛しますが)。
さて絶対評価モデルは、資産の本源的価値を取得するために将来の入金キャッシュフローの現在価値を決定します。最も一般的な方法は、“配当割引モデル(DDM)”及びお馴染みの“ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法”です。対して、相対評価モデルでは、2つの比較可能なものの価格を収益に応じて同様に設定する必要があることが示されています。株価収益率(P/E)などの比率を、同じ業界内の他の企業と比較して株価が過小評価されているか過大評価されているかを判断するのに利用している株式投資家もいることでしょう。あれは、そうとは意識せずして相対評価モデルを適用しているのです。
この株式評価法と同様に、不動産評価分析でも両方の手順を実装して可能な値の範囲を決定する必要があります。割引純営業利益に基づいて不動産価値を計算する式の詳細については割愛しますが、いずれにせよ純営業利益(NOI)は営業費用を考慮した後、税金と利息の支払いを差し引く前に物件が生む収益を反映しています。
但し、費用を差し引く前に、投資から得られる総収入を決定する必要があります。予想賃貸収入は、近隣の同等の物件に基づいて予測することができます。適切な市場調査により、投資家はテナントがその地域で支払っている価格を判断し、同様の1平方メートルあたりの家賃をこの物件に適用できると想定できます(ここに、評価という人為の介入する余地が出てきて、時には実態を歪めてしまうことすらあります)。
家賃の予測増加は、計算式内の成長率で説明されます。高い空室率は不動産投資収益に対する潜在的な脅威であるため、資産がフル稼働していない場合は、ストレステストまたは控えめな見積もりを使用して放棄された収入を判断する必要があります。運営費には、保険料、管理費、維持費、光熱費など建物の日常業務を通じて直接発生する費用が含まれます(確認するまでもないかもしれませんが、減価償却費は総費用の計算に含まれていません)。不動産の純営業利益(NOI)は、利息、税金、減価償却および償却前利益(EBITDA)と同様になります。
こうしてみると、キャップレート(還元利回り)による不動産投資からの純営業利益(NOI)の割引は、配当の伸びに合わせて調整された適切な必要収益率による将来の配当ストリームの割引に類似しています。株式投資に手慣れた方ならば配当成長モデルに精通しているでしょうから、すぐに類似点を見つけることできるかもしれませんね。
ちなみに、“総所得乗数アプローチ”というものもあります。総収入は、営業費用を差し引く前の総収入です。但し、正確な総収入の見積もりを取得するには、空室率を予測する必要があります。例えば、不動産投資家が1万㎡の建物を購入した場合、比較可能な不動産データから、近隣の1㎡あたりの平均月収は1000円であると判断できるとします。投資家は当初、総年収が1億2000万円(1000円×12ヶ月×1万㎡)であると想定する場合がありますが、空室が存在する可能性があります。空室率が10%であると仮定すると、年間総収入は1億800万円になります。同様のアプローチが“純営業利益(NOI)アプローチ”にも適用されます。
不動産の価値を評価する次のステップは、総収入の乗数を決定し、それを総年収で乗ずることです。総収入の乗数は、過去の販売データを使用して見つけることができます。比較可能な物件の販売価格を見て、その値を総年収で割ると、その地域の平均乗数が得られます。
このタイプの評価アプローチは、比較可能なトランザクションまたは倍数を使用して株式を評価するのと似ています。株式投資家の多くは、企業の収益を予測し、その1株当たり利益(EPS)に株価収益率を乗じます。不動産の評価も同様の方法で行うことができるでしょう。
これらの不動産評価方法はどちらも比較的単純に見えます。但し実際には、これらの計算を使用して収入を生み出す資産価値を決定することはかなり複雑です。第一に、純営業利益(NOI)、キャップレート(還元利回り)に含まれる保険料、比較可能な売上データなど、数式に入力する必要な情報を取得するのは時間がかかります。第二に、これらの評価モデルは、信用危機や不動産ブームなど不動産市場で起こりうる大きな変化を適切に考慮していません。その結果、経済変数の変化による影響の可能性を予測に入れるためには、更に分析を行う必要があります。特に、日本の不動産市場は株式市場より流動性がなく透明性が低いため、十分な情報に基づいた投資決定を行うために必要な情報を入手することが難しい場合があります。
とは言うものの、大規模な開発のための不動産を購入するために通常必要とされる多額の設備投資のため、この複雑な分析は、過小評価された資産の発見に繋がれば、大きなリターンを生み出す可能性があります(それも株式投資と同様ですね)。したがって、必要な情報を調査するために時間をかけることは、その労力に見合う価値が十分にあります。意外なことに、この点でも不動産の評価は株式投資の際の分析と類似した点があるということです。