How Supply Chain Transparency Boosts Business Value①(サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める)

目次

序論:サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める
 1:監査は始まりの一歩でしかない
 2:SCを可視化するためのいくつかの障壁を乗り越える
 3:透明性が新しいビジネス機会を作り出す
結論:その先に向けて

参考文献
https://sloanreview.mit.edu/article/how-supply-chain-transparency-boosts-business-value/?social_token=f753a7c951e7ec867b0e8c8f7845c5a1&utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=sm-direct


<序論>
サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める

サプライヤーの可視性を高めることは大変な労力が必要だが、それ以上に、新しいビジネス機会の獲得などのメリットを享受できる
2020年11月、Amazon、NIKE、IKEA等の大企業の経営層は、商品・サービス調達にあたり強制労働を用いた可能性があるして、英国議会から召集がかかった。英国の下院議員、ビジネス・エネルギー・産業戦略省の職員らが、中国・ウイグル自治区と新彊地区の人々を強制労働についての調査をを受けての召集だ。サプライチェーンの可視性をどのようにして保つか、また現代の奴隷制度にどのようにして排除するか、英国議会が大企業の経営層へ直接問いただす形となった。

ビジネスの調達状況が厳しく精査される昨今、サプライチェーンの透明性は多くの業種で企業の必須責務となっている。英国の現代奴隷法 (*1)、米国のカリフォルニア州サプライチェーン透明法(*2)などの、サプライチェーンの透明性に関する法制が近年敷かれているが、これらだけが透明性を求める風潮を作り出したのではない。特にアパレル、家電、飲食などの消費財では、サプライチェーンにおいてより良い労働環境作りと企業行動を行うよう、あらゆる方面からプレッシャーを受けている。

商品やサービスがどこで、そしてどうやって作り出されているのかについて、消費者の関心は増している。消費者はこれらを可視化し公表している企業は応援するが、そうでない企業は批判する。1000人以上の方が亡くなったバングラデシュの縫製工場ビル、ラナ・プラザの倒壊を受けたFashion Revolution(*3)や、衣服生産に関わる労働環境改善を求めるClean Clothes Campaign(*4)など、労働環境の改革が叫ばれ、より透明性を保つこと、透明性を測る規格を設けることをアパレル企業に迫った。この風潮は消費者のみならず投資家にも影響を与えており、彼らは環境容量 (プラスチックなどを自然が分解・浄化する能力の限度)、社会、コーポレートガバナンスに反する事件に批判的だ。米国では、企業が2015年から2019年の間にこれらの事件によって失った時価総額は5千億米ドル (日本円で約50兆円) 相当とも言われている。

消費者や投資家などの透明性を求める風潮が強まる中、サプライチェーンの透明性とは、単に消費者への情報開示を高めるという単純な問題ではなく、企業が全体として可視化に取り組むことが求められる。しかし、例え一次サプライヤーに限って透明性を高めるだけでも、多大な労力と時間が必要となる。こうした取り組みは特に規制などで定められていないことが多く、「まずい事」が起きた時だけ行われることが多い。そのため、経営層に、通常時から積極的にサプライヤーの透明性を高めるよう巻き込みコミットさせるのは難しい。

法規制、消費者、投資家などからの、高まるサプライチェーンの透明性への要求を満たすために、企業はサプライチェーンを可視化する、効率的で効果的な方法を探し出さないといけない。この記事では、サプライチェーンの透明性を高める、または改善するための画期的な方法をエビデンス付きでご紹介する。

(*1) 2015年3月に現代奴隷労働や人身取引に関する法的執行力の強化を目的とした「2015年現代奴隷法」が制定され、同年7月末に施行されている。2015年10月からは、サプライチェーンからの奴隷制排除のため、年間売上高が一定規模を超え、英国で活動する営利団体・企業に対し、奴隷労働や人身取引がないことを確実にするための対応につき、声明の公表を義務付けた。これは日本企業も対象となりうる。(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/01/aa1e8728dcd42836.html)

(*2) カリフォルニア州サプライチェーン透明法(The California Transparency in Supply Chains Act of 2010、以下「CTSCA」)は、2012年1月1日に施行されたカリフォルニア州法である。CTSCAは、企業のサプライチェーンにおける奴隷制や人身売買への取り組みを消費者や企業に開示し、顧客が購入の意思決定をする際にこの情報を考慮できるようにすることを目的とする。脅迫・強要による労働力の搾取や児童労働は世界各地で発生しており、それらの労働力が日本企業のサプライチェーンに組み込まれる可能性もある。CTSCAは、奴隷制や人身売買への取り組みを直接企業に要求する法律ではなく、あくまで、どのような取り組みを実施しているかについて、所定の情報を公開することを要求するものである。(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/01/e386703c87743757.html)

(*3) 2013年4月24日、バングラデシュの衣服の縫製工場が入っていた8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊し、1100人名以上が死亡、2500人以上が負傷した。この事件を受け、自分たちの衣服の生産に従事している人たちの労働環境や彼らに適正な賃金が払われているかを訴えるアクションが、Fashion Revolutionである。(https://wakeupjapan.jimdofree.com/join/social-actions/fashion-revolution-week/)

(*4) 衣服やスポーツウェアの生産に関わる世界中の労働者の労働環境を改善するために取り組んでいる国際NGO (https://cleanclothes.org)

次回

次回は、『1:監査は始まりの一歩でしかない』をご紹介します。

いいなと思ったら応援しよう!