この秋出会ったサク&甘い「秋王」は 福岡オリジナルの甘柿、“秋の王様”でした。
こんにちは。note編集部員Nです。
JA全農の「みのりみのるプロジェクト」(https://www.minoriminoru.jp/)では、ごはんがしっかり食べられる食事メニューがそろう「みのる食堂」や、旬の野菜・果物を使ったスイーツやサンドイッチなどの軽食を提供する「みのりカフェ」など、国産農畜産物をふんだんに使う飲食店を全国で20店舗運営しています。お店では全国のJAや県とコラボして、そのとき旬を迎える食材を使ったフェアも開催。11月から「みのりカフェ三越銀座店」(東京都)、「みのりカフェアミュプラザ博多店」「みのりカフェ福岡パルコ店」(福岡県)の3店舗で福岡県産「秋王(あきおう)」柿のフェアがスタートしたのですが…、
「え!!なにこれ、このサク&なめらかで甘うまい柿は!!?『秋王』??初めて食べたッ!!」
―というわけで、今回はこの福岡県産甘柿「秋王」について、JA全農ふくれん 園芸部 果実課の柿担当Sさん&Tさん(以下、ふくれん)に話を聞きました。
福岡県オリジナル品種「秋王」
部員N:今回のフェアの主役、「秋王」について教えてください。
ふくれん:「富有柿」と「太秋(たいしゅう)柿」から生まれた福岡県のオリジナル品種です。2001(平成13)年に福岡県が育成をはじめ、12(平成24)年に品種登録、15(平成27)年から販売をスタートしました。太秋のサクサクとした食感や果汁の多いところ、富有の鮮やかな色や高い糖度を受け継ぎ、大玉でほぼ種が入らない完全甘柿です。秋王は甘みが強くパンチがあるので、タルトやスムージーにしても十分存在感があります。甘みが強いため、砂糖などを加えなくてもおいしく食べられると思います。
部員N:たしかにこの強い甘みは独特ですね。果肉はサクッとしていながらも、なめらかで…。大玉で食べ応えもありますし、とても幸せな気持ちになります。
ふくれん:大きくて色味がよいので、贈答用に使われることも多いですね。
部員N:今回初めて秋王を食べましたが、あまりスーパーの店頭では見かけないような…。
ふくれん:秋王は栽培が難しく、なかなか結実しない(実がつかない)のが誕生当初からの課題なんです。そのため、まだまだ収穫量が確保できていません。生産者やJAと協力して、年々改善してきてはいますが、ほかの柿のように収穫量が劇的に増えるというところまではいっていません。もう少し収穫量が増えれば、もっとたくさんの人に知ってもらえると思うんですが…。
部員N:実がつきにくいんですか?
ふくれん:花が咲いて実がつくところまではいくんですが、そのあと成長していく過程で、「生理落果」といって落ちてしまう割合が高いんですよ。枝に残る数が少ないので、収穫できる実も少なくなってしまいます。
部員N:生理落果とは?
ふくれん:秋王は種が入りづらいので、樹が実の方に栄養をやらずに落としてしまうんです。種があれば樹は子孫繁栄のために栄養をまわしますが、種がない(子孫がいない)ので、樹は役に立たない実は落としちゃう。自分(樹)が大きくなるために栄養分を使おうとします。おまけに皮が薄く葉がスレて実に傷がつきやすかったり、きれいな形にならなかったりと、とてもデリケート。他の柿と比べて、よりこまめな管理が必要で手のかかる品種なのです。でも、抜群においしい。
部員N:なるほど。生産者さんが手塩にかけて育てた貴重な「秋王」…、出会えたことに感謝して大切に食べたいと思います。
ふくれん:今は東京、大阪、福岡の市場に出荷しています。主に果物専門店に並ぶと思いますので、見かけたらぜひ食べてみてください。
部員N:そんな「秋王」ですが、2021年11月1日から11月21日まで、全農の直営飲食店「みのりみのる」でパフェやタルト、フルーツサンドなどで登場しています。お近くの方は、お買い物にいらした際に、ぜひお立ち寄りください。
登場店舗:みのりカフェアミュプラザ博多店/みのりカフェ福岡パルコ店/みのりカフェ三越銀座店
詳しくはこちら https://www.zennoh.or.jp/press/release/2021/86167.html
秋王
「太秋」と「富有」を親に持つ、福岡県オリジナル品種。
品種名は「福岡K1号」で、2012(平成24)年に品種登録。
主な出荷時期:10月下旬〜11月中旬
主な出荷先:東京、大阪、福岡
全農が運営する産地直送通販サイト「JAタウン」の「博多うまかショップ」でも、数量限定で販売しています。
https://www.ja-town.com/shop/g/g8001-N-800165-0011/
福岡県の柿について
部員N:ところで福岡県は甘柿では全国1位、柿全体でも全国3位の柿主産地ですね。福岡の柿について教えください。
ふくれん:福岡県は日中と夜間の温度差があって、紅くてかたいおいしい柿ができると、100年ほど前から本格的に栽培に取り組んでいます。主な産地はJAにじ、筑前あさくら、くるめなど筑後川流域です。福岡の柿は9月上旬に「西村早生」からスタートして、「早秋(そうしゅう)」「太秋」、ちょっと時期がかぶって「秋王」があり、「早生富有」「富有」と、品種リレーします。また、特殊な袋に入れて冷蔵した「冷蔵柿」もあるので、2月上旬まで出荷が続きます。
部員N:早生富有と富有の違いは何ですか?
ふくれん:早生富有というのは富有の枝替わりで、富有よりも早く熟期を迎えます。正確には「松本早生富有」といって、松本さんが見つけたと言われています。この早生富有と富有、一般の方が見てもほとんど見分けがつきません。柿のプロが見れば、早生富有の方が若干果実の腰が低い(高さが低い)とわかりますが、それ以外の違いはほとんどありません。福岡県では10月までは早生富有、11月頭からは富有というように、出荷時期を県下で合わせています。
部員N:「冷蔵柿」とは冬場に店頭で見かける、袋に入って売られている富有柿(写真奥)のことですか?
ふくれん:そうです。冷蔵柿は11月の上旬から11月いっぱい、旬の状態がいい時期に収穫した富有柿を特殊な袋に入れて低温で冷蔵貯蔵します。この袋は柿の呼吸量を抑え、鮮度を落とさずに保存することが可能です。福岡の富有柿は早生富有を含めると10月中旬から2月上旬までの長期間、安定して出荷できることがポイントです。
部員N:そのおかげで、冬場でもおいしい富有柿が食べられるんですね。
福岡を代表する柿たち
富有
岐阜県が発祥の完全甘柿で、日本で最も多く生産されている。
甘くてしっとりした食感で食べ応えがある。
主な出荷時期:早生富有10月中旬〜11月上旬/富有11月上旬〜12月上旬/冷蔵12月中旬〜2月上旬
太秋
富有に「次郎×興津15号」を交雑して育成した完全甘柿。
ほかの柿と比べ色は薄めだが、サクサクとした食感で果汁が多い。
生産量は福岡県が全国1位。
主な出荷時期:10月中旬〜11月中旬
早秋
伊豆×「興津2号×興津17号」。広島生まれの完全甘柿で早生種。
紅色が濃く、柿らしい姿をしている。しっとりとした食感でおいしい。
主な出荷時期:9月下旬〜10月中旬
西村早生
不完全甘柿。最も早く出荷できる甘柿で、ちょうどお彼岸の時期に収穫期を迎える。
主な出荷時期:9月中旬〜10月上旬
部員N:ところで…「完全甘柿」「不完全甘柿」とは??
ふくれん:もともと柿には「タンニン」という渋み成分があるんですが、それが水に溶けて人間の舌で感じるか感じないかの違いです。「完全甘柿」っていうのはタンニンが水に溶けないので渋みを感じない、「不完全甘柿」はガス処理やアルコール処理などをして、その渋みが水に溶けないようにすることで甘く食べることができます。
部員N:福岡では富有、太秋、早秋、秋王の完全甘柿と、不完全甘柿の西村早生を主に出荷しているんですね。西村早生は渋抜きしてから出荷するのですか?
ふくれん:西村早生は、開花時期の天気が良ければ種がきちんと入って渋柿にはならないので、開花期の天候次第というところがあります。生産者によって、ある程度実が大きくなれば、形を見て渋が入っているか入っていないかがわかるので、その時点で渋が入っているものは落として、甘柿を残します。最終的には生産者が出荷時に選別したり、選果場で光センサーを通して判別したりして、渋柿を外して出荷しています。
部員N:収穫したものを渋抜きするのではなく、栽培や選別の時に渋柿を外しているんですね。西村早生から冷蔵柿まで続く福岡の柿リレー。逃さず堪能したいと思います。ありがとうございました!
こちら、紅葉する福岡の柿畑。一面に紅色の絨毯が広がるよう。私の地元・富山ではあんまり見かけることがなかった景色なので、あまりのきれいさにびっくりです。
*:*:*:*:*:*:*:*: コラム 柿の豆知識 :*:*:*:*:*:*:*:*
柿の種類
柿には「甘柿」と「渋柿」があり、甘柿は「完全甘柿」「不完全甘柿」、渋柿は「完全渋柿」「不完全渋柿」に分けられます。
写真は左から、筆のような形をした不完全甘柿「筆柿」、完全甘柿の「次郎」と丸っこい「富有」、不完全渋柿の「たねなし柿」、実に筋が入っている完全渋柿「西条」、不完全渋柿「紀ノ川」です。
完全甘柿
種の有無に関係なく熟して甘くなるもの。甘みが強い。
富有、次郎など
不完全甘柿
種が多く入ると甘く、少ないと渋く感じるもの。
炭酸ガスやアルコールを使って渋抜きをしたり、センサーで選別したりして出荷する。
西村早生、筆柿など
完全渋柿
種の有無に関係なく、常に渋いもの。
干し柿やあんぽ柿などにも使われる。
西条、あたご など
不完全渋柿
渋柿だけど種が入ると種の周りにゴマができてその部分が甘くなる。
ゴマはシブオール(渋み)が不溶性になって固まったものなので、ゴマが入る=渋みが抜けた印。
刀根早生(とねわせ)、平核無(ひらたねなし)など
左のピンクの皿から、不完全甘柿「筆柿」、白いお皿:完全甘柿「次郎」(上)・「富有」(下)、黒いお皿:完全渋柿「西条」、黄色いお皿:不完全渋柿「たねなし柿」(上)・「紀ノ川」(下)の断面図です。
食と農のWEBマガジン「Apron(エプロン)」
なるほど全農 日本の秋の味覚【柿】でも渋柿や甘柿のことを紹介しています。
https://apron-web.jp/naruhodo/8304/
柿の代表的な品種は20種類ほど。甘柿は東海・近畿以南、渋柿は寒い地域で優良なものが多いと言われています。ちなみに私の地元・富山県では、南砺市で「三社柿」という大きめの渋柿を使った「干柿」や「あんぽ柿」などを生産しています。
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