データが農業を強くする!農家の頼もしい右腕「ライトアーム」の開発者が描く未来とは
全農広報部note編集部員のYです。
農家の減少や高齢化で今注目されているのが「スマート農業」。ここでいう「スマート」とは「ハイテク化された」という意味です。
確かに農業の現場はハイテク化されていません。それはなぜか?農業の現場は多様だからです。米・野菜・くだもの・畜産では、それぞれ設備も必要とされる技術もまったく違います。さらに、地域や気候、品目や品種、生産規模によっても課題はさまざまです。そして一つの農産物をとってみても、出荷されるまでには種まきから収穫まで数多くの工程があります。
ですから「これさえあれば農業の問題は全部解決!農業の完全自動化!」みたいなのは現実的ではないんです。
最近のスマート農業の潮流としては、一つの課題(アスパラの収穫、水田の農薬散布)に特化した製品や、生産工程のデータを収集して「見える化」する生産管理の効率化ツールなどが提供されています。その多くが「完全に自動化する」ではなく「人と協業する」「人の判断を補佐する」もので、現場実装の実現性が高いものです。
そんな「人の判断を補佐する」ツールのひとつに、「RightARM(ライトアーム)」があります。農業生産額が全国有数の宮崎県(きゅうりは全国1位!)に本社を構えるスタートアップ企業、「テラスマイル株式会社」が提供しています。今回はそのテラスマイルの生駒代表にインタビューしながら、「スマート農業」の今について考えてみました。
農家の「頼もしい右腕」となるツール、ライトアームについて教えてください
ライトアームは、農業経営にとって重要なさまざまなデータを1つの画面で管理し、農家さんの所得向上や経営に役立てるために「見える化」するツールです。
ライトアームには4つの機能があります。1つめは、農場内外の様々なデータを取り込むゲートウェイという玄関口です。2つめはそれを蓄積するデーターベースがあり、サーチエンジンを積んでいるので、蓄積した情報を検索する機能を持っています。3つめが検索した情報を活用するアプリケーションで、例えば出荷予測などがあります。そして最後に、シミュレーター。ユーザーであるジェイエイフーズみやざきではシミュレーターを開発して露地野菜やお米を収穫する順番をわかりやすく見える化しています。
例えば農作物が運ばれて選別・箱詰めされる選果場には、いつ、どんなサイズで、どのような品質のものが出荷されてきたか。そしていくらで売れたかといったデータが蓄積されています。IT化、デジタル化が進む中で、そのデータを活用して販売力強化やコスト削減を図るという、製造業では一般的に行われてきたことが、農業の現場では活用しきれていないという現実があります。また農場内にはセンサーとか、最近だとロボットとか、いろいろなICTやIoTが導入されていいますが、畑で得られたデータと選果場のデータをしっかりひもづけていかないといけません。
今後、人件費はあがるし、配送費もあがる。小売りも寡占化されていきどんどん大きくなって、自分たちにとって都合のいい条件を生産者へ出してくる。これは資本主義の原理ですが、だったら農業者側もデータを活用して強くしていかないと、日本の農地もしくは農業者を守れない、というところを考えて作られたのが「ライトアーム」です。
経営判断を手助けするための思考型BI(ビジネスインテリジェンス※)という概念を掲げていますね?
はい、ライトアームは答えそのものではなく、農家さんの意思決定をサポートするシステムです。例えば、気象予報は今までだと「一週間後どうなるんだろう」という予測だけが活用法でした。ライトアームではデータを蓄積できるので、例えば日射量の4月上旬の値を足すとその積算が出ます。それを昨年のデータと比べた場合、例えば露地野菜や果菜類に重要な日射量は25%減になっています、と。じゃあ一昨年どうだった?三年前は?と、過去の情報を見ることができます。4年前の数値と近いということがわかったら、就農3年目の方の勘と経験はないとみた方がいい。熟練者の方は、近いところだと4年前の樹の状態が近いかもしれないですよ。そんな話をすると、農家さんの意思決定が定まっていく。これが「思考型BI」です。ライトアームというBIそのものが考えるのではなく、農家さんが考えを促すというか、手助けするという感じです。
※:BI(ビジネスインテリジェンス)とは、情報システムに蓄積される様々なデータを利用者が自らの必要に応じて分析・加工し、業務や経営の意思決定に活用する手法。そのためのシステムをBIツールという。
スマート農業では、全部をAIが意思決定する設計思想もありますが、ライトアームは1つクッションを置いていると思います。その理由は何かあるのですか?
1つはやはり、農業者さんをリスペクトしているというのが強いです。データにはいろいろな要因があり、特にAIは固定された情報に対しての予測は立てられますが、状況が変わったときに弱いのです。例えば天候とか相場価格とか競合産地の状況とか。でも、農家さんはそこで経験に基づく思考を働かせられるじゃないですか。そういった気象適応、経営判断をしてきたのが農家さんで、だからこそ日本の農業は今も、小さい面積ながらも、ちゃんと持続的に経営できています。この前提をしっかり理解していかないと、すべてを自動化というのは学術的にも無理だということがわかります。
ライトアームを最初に導入された農家さんはどのようなきっかけで?
例えば、データをみることが好きで、農業経営者はデータを見ていかないと勝ち残れないと思っていた方。あと人材を雇用している方。雇用者の時給もどんどん上がっているので、自分の所得が少なくなるのは困るよね、と。そういう方々は、データを見て所得を増やさないと、という思考は持っていたようです。
実際にライトアームがどのように使われているのか、具体例を紹介してください。
わかりやすい例では野菜の加工事業を行っている事業者の活用事例です。冷凍野菜を作っているジェイエイフーズみやざきさんでは播種と収穫の計画を作っていますが、露地野菜は天候に左右されます。種をまくタイミングが雨でずれたら、収穫はどのような傾向になるか。今までは計画と実績の差を見える化していなかったので、「計画通りにこないじゃないか」といつも原料担当と製造担当とがケンカをしていました。それが種まきの段階で製造計画をシミュレーター機能を使って修正できるようになった。
そしてもう一つが、JA日向の人材育成。同じ部会員でもAの方の所得は900万円で、Bの方は500万円です。Bの方を底上げしていかないと、産地として量が確保できないから、それをあげるためにデータを見える化して思考する生産者になってもらう。今までは、「俺の背中をみて学べ」でしたが、そうじゃない世界を作りたい。
また、JA宮崎経済連で使われているのは、出荷されたものを高く売る、もしくはコストを下げるといったときに、高く売るためにはやはり予測による予約販売が必要です。また輸送コストを下げるためには、同じ予測データを活用して、トラックの配車を予約することです。ちゃんと高く売る、コスト下げる。
それと、今試験的にとり組んでいるのは労働時間の分析です。作業者が端末に作業を入力すると、月間の作業量が記録されます。今まで作業量はインタビューや細かく記帳するかしかありませんでした。簡易にICカードをピッとやって選択していくと、「この週は収穫が27%、誘引が27%かけているんだね。じゃあコストとしては時給800円だと今いくらかかっているのだな」ということを目で見ることができます。
生駒社長のライトアームの世界観としては、今は完成形の何割ですか?
まだ3割満たしていないです。ライトアームの全体像を作っていて、農業データを活用するためには、現状分析、進捗、振り返りの3つのピース、ここはできたと考えています。次は、JAの営農指導員さんが診断する仕組みを作らなければいけません。ここまで作って6割。そして、その次にはSDGsを目指した、例えば重油を電力にかえるとか、ソフトウェアに関する金融サービスを作るとか、金融連携、電力連携など異業種と連携する。ここまでを2025年までにできれば私のお役はご免かなと思っています(笑)。
ライトアームが完成したとき農家さんは、どんな経営していると想像していますか。
そうですね。1つは新規就農したときに自分がやった作業に対しての評価が、ちゃんとJAから返ってくる世界もあるだろうし、2つめは高齢者の方の引退に伴いハウスが空いて、ハウスを買ってほしいと言ったときに、ここのハウスを買ったらどんな経営ができるのか、お金が足らなければ、いくら融資してここ改修するから、どれくらいのライフスタイルだったら返済できるのかということがわかる、そんな世界もあるでしょう。
以前講演会で営農指導員さんたちに聞いた話です。「自分たちも農家の経営分析をエクセルでやっているけれど限界がある。でも産地の若手の経営者をもっと応援したい。そこの手間がかかる部分をライトアームが支えてくれたら、ぼくらはより現場に出て支援できる」やっぱり、その言葉があったから、今があります。
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AIが農業をするというファンタジーのような世界ではない。高い生産性を実現する農業経営者と出荷されたものを高く売る責任のあるJAが一緒に競争力を強めて産地として勝ち残っていくためにスマート農業を活用する。本来JAに求められている生産指導や担い手を育成するというところにより注力するための体制を目標にしているというのは、JAグループにとって親和性が高いと感じたインタビューでした。
テラスマイル株式会社
https://www.terasuma.jp/