杉並区商店街支援補助金の事業評価シートを「補助金等及び補助事業等の事業評価基本条例の試案」の目線で見てみる

 今回は”事業補助”ですが、私には、この種の補助金の制度形成に携わった経験がありませんので、既存のものをチェックしていく形式で行うことにします。にいがた減税会さんが「事務事業評価シート検討会」で取り上げた事業の内、杉並区のものが該当するので、これを見ていきます。

 まずは、条例案該当部分を再掲します。
(事業評価の制定の基準)
第6条
地方公共団体の長は、次の各号に定める事項に基づき事業評価を定めなければならない。本条に定める事項に反する事業評価は無効とする。
① 補助事業等により達成する目的を明らかにすること
② 事業評価は、補助事業等の事務を遂行した結果(以下、「補助事業等の結果」という。)を考慮して、補助事業等の遂行に関する事情を判断すること
③ 補助事業等の結果は、補助事業等により達成する目的と因果関係を有する科学的、合理的な統計 ・資料に基づき計算した数量に基づくこと
④ 補助事業等の結果は、補助金等の交付と補助事業等により達成する目的との間に因果関係を有すること
⑤ 事業評価は、直近3~5年以内の補助事業等の結果を比較すること
⑥ 事業評価は、補助事業等において達成しようとする事務の目標を政府又は第三者が作成した 科学的、合理的な 統計・資料に基づき明示すること

 評価シートに落とし込むために、もう少し具体的な表現にすると、以下のようになると考えます。(私が解釈したもので、横山先生の監修を受けているわけではありません)
① 評価シートに記載する補助事業の目的は具体的なものであること
② 評価シートに記載する評価結果は、アウトカム指標の達成度を考慮して判断すること※
③ 評価シートに記載する指標はアウトカム指標を含むこと※
④ 評価シートに記載する指標は補助事業との因果関係が明確なこと
⑤ 評価シートは直近3から5年の評価の推移がわかるものであること
⑥ 評価シートに記載する目標値は統計数値等に合理的な根拠を持つものであること
※は、シルバー事業の時から変更しています。

 チェックリスト風に整理すると、以下のようになりますでしょうか。

ア 補助事業の目的に具体性はあるか[①]
イ 事業目的に沿ったアウトプット指標の選択となっているか[④]
ウ 事業目的と関係性をもったアウトカム指標が設定されているか[③④]
エ アウトカム指標と事業との因果関係は明確か[④] 
オ 各指標(インプット、アウトプット、アウトカム)の3-5年の時系列変化がわかるものとなっているか[⑤]
カ 目標値は合理的な根拠を有するか[⑥] 
キ 評価結果は、アウトカム指標の達成度を考慮して記載されているか。[②]

 評価シートを見ていった感想は下表のとおりです。詳しい説明は表の下に記載します。

 なお、評価シートはこちらのP3-4です。

ア 補助事業の目的に具体性はあるか
 評価シートでは、以下の二つです。
(1)イベント助成等により商店街のにぎわいづくりを促進するとともに、装飾灯LED化や防犯カメラ設置の助成により、安全・安心に買い物ができる環境を整備します。
(2)地域特性にあった商店街活性化事業や、外部の企業・団体による商店街サポート事業等を支援し、将来のまちづくりにつなげます。
 事務事業としては、目標が抽象的に過ぎるものがあります。具体的には下記のとおりです。
・ ”にぎわい”がある商店街とは具体的にどういう状況でしょうか。通行量とか具体的な内容が事務事業レベルの目的には必要です。。
・ LED化と安心安全はどうつながるのでしょうか。杉並区の調査結果(P132)によると、商店街に臨むことで”安全安心”は28%ですが、その具体的な内容を精査しているようすはありません。
・ 防犯カメラの設置は、安全安心につながります。
・ ”将来のまちづくりにつなげる”も抽象的に過ぎます。
 ”にぎわい”なら、通行量アップとか、売上高アップとか、具体的な指標設定につながるような目標を置くべきです。
 ”安全安心”も、治安に関することなのか、衛生に関することなのかで、対処策は違ってきます。
 ”将来のまちづくりにつなげる”これは抽象度がカンストしていて、アイデアも出てきません。

イ 事業目的に沿ったアウトプット指標の選択となっているか
 評価シートでは、以下の二つです
(1)商店街チャレンジ戦略支援事業費補助(イベント事業)件数
(2)装飾灯LED化及び防犯カメラ設置補助商店街数
 (1)は単なる事業実施ではないか、という感じもあります。イベント内容がメニュー化されていれば、コンサート実施件数等で整理できますが、そういった性格のものではないので、イベント件数でOKと考えました。
 (2)は二つに分けた方が良いと思います。LED化は夜間の照度、防犯カメラはカメラの設置率など、紐づくアウトカム指標が違ってくるはずです。
 主な取組に挙げている事業を網羅していませんが、杉並区はアウトプットを計測する必要がない付属的なものという評価なのでしょうか。その割には大きな金額が支出されているように感じます。
※ これは行革の掛け声の中で、対象者が同じ事業を内容が違うにも関わらず、無理くりに1つにまとめて、表面上のやった感を出した影響ではないかと推測します。

ウ 事業目的と関係性をもったアウトカム指標が設定されているか
(1)商店街を必要と考える区民の割合(区民意向調査による)
(2)商店会加盟店舗数(前年度末の杉並区商店会連合会加盟商店会の店舗数) 
 商店街が必要かどうかと聞かれれば、商店街で嫌な思いをした人以外は”必要”と答えると思います。指標としては、まったく、不適当に感じます。アでも述べましたが、通行量や売上高といった具体的な指標を設定すべきです。イベント実施直前の売上や通行量との比較を報告させればよいだけなので、それほど難しい話ではないと思います。
 (2)については、ある程度の妥当性があると感じますが、事業と直接結びつく数字ではないと考えます。
 又、本事業の効果を確認するためには、実施直前直後の比較という短期指標に加えて、1年後程度の中期的な通行量や売上の比較といった指標も必要になると思います。
 アウトプットにはあった安全安心に関するアウトカムがありません。杉並区の調査(P171)では統計があるので、なぜ、指標として使わないか不思議です。
※ R1からR2で指標(2)の数値が大きく伸びています。これについては、R3の評価シート(P3-4)には算定方法の改定の影響があることが記載されていますが、R4の評価シートにはまったく記載がありません。R2の実績値もR3シートの4,850がR4シート(P3-4)では5,562になっており、まともに統計がとれているのか疑念が生じるレベルです。 

エ アウトカム指標と事業との因果関係は明確か
 (1)については問題外、(2)については、事業と直接結びつく内容に変更すべきでしょう。又、LEDや防犯カメラなどに関する指標が設定されていません。

オ 各指標の3-5年の時系列数値がわかるものとなっているか
 これは3年分の経過がわかるようになっています。インプットはかなり詳細です。

カ 目標値は合理的な根拠を有するか
 目標値に対する説明は、一切、ありません。

キ 評価結果は、アウトカム指標の達成度を考慮して記載されているか。
 事実関係が淡々と記載されているだけで、分析的な文言はありません。


 イベント補助と設備補助が一つの事業に入ってしまっているので、焦点が分散して、分析もやりにくかったです。次は、事業目的がすっきりしたものを選びたいと思います。