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ベランダに目を向けて
トマトの鉢植えを見かけた。
初めて行く街への出張でのことだ。
見渡す限りの風景は、全て私の知らないものだった。
当たり前だろう。私はこの街に来たことが無いのだから。
けれど赤く小さな果実を見た時、私はふっと思い出す。
小さな頃の、夏の景色を。
かつて私もああやって、夏にはトマトを育てていた。
暑い夏の太陽を浴びる、赤い赤い果実たち。見た目に反してその口当たりはひんやりとして、甘くはなかったけれど、忘れられない味だった。
あのベランダの家庭も、きっと似た思い出を作るのだろう。
といっても……今はもう、夏はその勢いを失った時期だったけど。
時期と言えば、不思議だったことがある。
トマトの和名を聞いた時、小さな私は思ったのだ。
「それはちがう。イメージに合わない」
果たして何を理由にそう感じたのか。
味も見た目も覚えているのに、赤い実が持つ日本の名前を、私は結局思い出せなかった。
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