夜の帰り道に
受験勉強をしていた頃は、いつも帰ってくるのが遅かった。
遅かったといっても、家の最寄りの駅に着くのが大体夜9時くらいで、そこから家までは自転車で10分くらいだ。
帰り道は引くほど田舎道なので、街灯の灯りなんてほとんど見えなかった。
その帰り道の途中に、私はヘッドフォンを首にかけて音楽を聴きながら自転車を漕いでいた。
その時に毎回決まって聴く曲が、
前回の記事にした Daniel Powter の 「Bad Day」 。
そして、Vanessa Carlton の 「A Thousand Miles」 だ。
私は普段、洋楽はほとんど聴かない。
なんならこの2曲くらいしか聴かない。
でも、この2曲だけは、毎回毎回帰り道に聴いてしまうのだ。
「A Thousand Miles」。
この曲を初めて聞いたのは、高校3年生になる年の春休みだった。
この頃の私は、高1の頃に通っていた高校を出て、別のところに通っていたのだが、何故だか前の高校時代に所属していた部活の新入生歓迎会用のPVを作成する担当になった。
確かに今でもその部活動の仲間とは仲がめちゃくちゃ良いし、学校を変えたあとも部活には参加させてもらっているから、その代償でもあるのだろう。
そのPVで使う音源を探している時に、この曲に出会ったのだ。
初めに聴いた時は、爽快感があってとても聴き心地が良いというだけの印象だった。
それで、色々な曲を聴いた上でこの曲が1番私が作った映像に合うだろうと思って決めたのだった。
だから、実際この曲に強い思い入れがあるからとか、そういう理由ではなかった。
そして、部活動を完全に引退して、それから急にこの曲を何回も思い出すようになった。
部活動での思い出を振り返るたびに、この曲が頭の中に勝手に流れるのだ。
あれ、こんな素敵な曲だったっけ?
聴けば聴くほど、思い出を掘り起こせば掘り起こすほど、この曲がどんどん好きになっていった。
「A Thousand Miles」という曲のサビをなんとなく和訳すると、
「今夜あなたに会うためだったら私は1000マイルだって歩けるよ。もし、会えるならね。」
という風に、少し切ない歌詞なのだ。
でも、これを爽快感のあるメロディーに乗せて歌うと、不思議と清々しいような気持ちになれるのである。
部活が終わって、中々みんなに会えることが少なくなってしまった。
ただ、この歌は、私たちの今までの思い出を覚えていてくれるし、それを思い出させてもくれる。
この歌が私たちを繋いでくれている。
そして、この歌を聴けば何回でもみんなを近くに感じることができる。
さらに、この曲を聴けば、田舎の街灯の少ない夜の帰り道だって暗くなくなる。
だから、夜に独り、少し切ない時間に、この曲をずっと聴いてしまうのだろう。
誰にだって寂しく思う時はある。
それはどんなに友達が多い人でもそうだと思う。
ただ、その寂しさは、懐かしさにも心地良さにも変えることができる。
それを変換する機能が、歌にはある。
今日も1人、2曲の洋楽を聴きながら、家への道を自転車で漕いでいく。