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唐獅子警察

某日。ラピュタ阿佐ヶ谷のレイト特集、「東映実録路線中毒」における『唐獅子警察』を見てきた。これはなかなかの佳作であった。

東映のミッドフィルダー・中島貞夫監督の作品はアナーキーという点では深作欣二にも引けを取らない。

舞鶴の貧困部落で人の女房に手を出している渡瀬は鼻つまみ者。そこへ腹違いの兄であるマイトガイ・小林旭が帰ってくる。

ムショの中にいたときから旭を狙っていた曽根晴美は、ひょんなことから渡瀬に便所でショットガンでぶち殺される。血まみれになった曽根晴美の死体を見た渡瀬はゲロを吐く。

この頃は渡瀬もただの田舎のチンピラだった。しかしやくざの幹部になっていた兄の東京暮らしを知るにつけ、自分がなんてそんな役回りをしてきたのか、自分もやくざの世界でのしてやると鼻息を荒くする。

終始クールな旭に対し、鼻息の荒い渡瀬。このふたりの兄弟の愛憎を中心に物語は進行するのだが、日活のアクションスターというイメージが強い旭がどれだけ押し出しの強いやくざを演じきれるか?、とも思ったが、それは「仁義なき戦い」で文太と互角に渡り合っただけはあり、要らぬ心配であった。

が作中のキャラクターとしては、クラッシックを聞くのが好きというインテリヤクザな一面を見せる。

一方鼻息の荒い渡瀬はちんぴらを駆り集め次第にむちゃをやりだす。この渡瀬の子分になる男たちがいい。川谷の拓ボン、スキンヘッドの成瀬正などが終始渡瀬を好サポート。しかしこの作品を見て、拓ボンの魅力の一面を発見した。

拓ボンという人はぶち切れた演技をしても高得点を叩き出せるのだが、逆にものすごい気弱というか、臆病な側面も見せるのだ。実はチワワがドーベルマンの皮を被っていて、その皮が剥げたときのやるせなさのようなものを上手く出せる人とでも言うのか。

ぶいぶい言い出した渡瀬率いる集団は、拳銃ブローカーの室田日出夫を拉致し、工場みたいなところでリンチをくわえる。下唇とペニスに電極を装着され、電流の刑に処せられる室田。ペニスから下唇へと電気ショックをくらった室田は拳銃の在処をゲロ。

ちなみに、『沖縄やくざ戦争』でも室田はチン切りの刑に処せられている。ペニスに極度のダメージを受けるという演技をやらせたら室田日出夫の右に出るものはいるまい。

チャカを手に入れた渡瀬集団は、旭の組の縄張りでも暴れ始める。ちなみに旭の組の会長は志村喬。黒沢映画以外でも頑張っています。ちなみに若頭みたいなのが渡辺文雄。大島映画以外でも頑張っています。

この組は関東でも一大勢力をふるう大組織。その組織に鼻息の荒い渡瀬を筆頭に拓ボン。スキンヘッドの成瀬正、もろもろが立ち向かう。

が鼻息が荒いだけかと思われた渡瀬であるが、関西の大組織の若頭・安藤昇に杯をもらい臨戦態勢を整える。

「兵隊ならわしがなんぼでも容易するけ、思いっきりやったらええ!」

「戦争やー!戦争やー!」

と思ったら、旭陣営の志賀勝は事務所に発煙筒を投げ込む。

「なんやこりゃ発煙筒やないかー!」

事務所から出て行く拓ボンたち。しかしそれは勝の作戦であった。事務所に残っていた渡瀬、安藤を襲撃する勝。が逆にライフルを奪い取られ、土手っ腹に鉛を打ち込まれて死亡。

このまま抗争は激化、拡大の一途を辿るかと思われたが、大物政治家が仲介に入り手打ちに。安藤昇はなんとか渡瀬を説得しようとするが、その鼻息が収まる訳がない。一人ゲリラ戦に突入する渡瀬。手始めに中華料理屋で仲良く飯を食っていた安藤昇と渡辺文雄を射殺。それを知った旭は渡瀬を殺す事を決意。

物語の途中、渡瀬と旭兄弟のモノローグのシーンから幼児期の回想シーンに繋がるのだが、そこは舞鶴の貧困部落で兄弟の父はアル中、そんな男が妾を作ったと部落のものたちは蔑み笑う。

その親父は最期どぶ川のような場所で死ぬ。その親父に泣きすがる渡瀬と旭の母。そのかたわらにいる幼い兄弟にも容赦なく、部落の人間から蔑みの笑いが浴びせられる。このシーンはモノクロで、フィルムの粒子を粗くしているのか、カメラの露出を開けているのか、なにか報道映画を見ているような臨場感がある。

最後兄弟が対決するのがこの部落だ。迷路のような集落の中で銃撃戦が展開される。弾も尽きドスと包丁で切り合う二人。お互いの胸に刃物が突き刺さる。 

親父が死んだどぶ川に倒れ込む渡瀬。遠巻きに見ていた集落の人間は、渡瀬が死んだと見るや、

「疫病神がやっと死におったわ。けっ」

と唾を吐き捨てる。一方血まみれになった旭も車を運転し、部落から出て行こうとするが・・・。

任侠映画でも北島三郎の「兄弟仁義」のように兄貴分、弟分の関係を描いた作品は多いが、腹違いとは言え実の兄弟の愛憎劇を描いた作品はそうないであろう。

それに中島貞夫という人はこの作品の渡瀬のような、ちんぴら、愚連隊のようなキャラの物語を描かせると秀逸な才能を発揮する。

『893愚連隊』、『現代やくざ血桜三兄弟』、『鉄砲玉の美学』などの作品における金バッジをつけることさえできない連中の生き様。それにまんまとだまされてしまう者たちの物語。中島作品の醍醐味の一つはそこにあるだろう。

電流をながされた室田のペニスのその後は気になるが。

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