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【火の鳥望郷編】自分の息子と結ばれる禁断の問題作!種の存続を遺伝子レベルにまで到達した衝撃作!

今回は「火の鳥望郷編」をお届けします

この「望郷編」はこれまでの『火の鳥』シリーズの中で
世界観と設定という意味では一番衝撃かもしれません。

子孫を残すという生物の根源的な摂理、本能
それを「近親相姦」「種の存続」という
究極の天秤にかけた生命讃歌になった作品であり
『火の鳥』の一環したテーマである
「命」とは?「生きる」とは?「死」とは?を
遺伝子レベルにまで到達したぶっとんだ作品。

故に「望郷編」は読むと頭がおかしくなるという人もいますし
場合によっては鬱になるかもしれない危険性すらはらんでいます。

それほどまでに本作は受けて側の感性を揺さぶる作品ですので
闇落ちしないように十分体調を整えてから読むようにしてください(笑)

そもそも『火の鳥』全12編あるカタログの優劣をつけるのは難しいですが、
この「望郷編」の認知度そして評価が他のエピソードと比べると
あまり高くないのが非常に不思議。
めちゃくちゃ面白いのにその衝撃度ゆえに敬遠する人も多いのかも知れません。そんな賛否分かれる「望郷編」の素晴らしさについて解説していきますので、ぜひぜひ手塚治虫の創造する破壊的な世界観を堪能してください。


--------------------------音声だけでも楽しめます------------------------------

バージョン違いを整理しよう


まず本作「望郷編」は火の鳥屈指のややこしい作品でもあります。

なぜならバージョンが4種類存在しちゃうからです。

え? 4つ!

どゆことですよね。

その4つとは
『COM版』『漫画少年版』『単行本版』『角川版』の4つです。

なので「あれ?私が読んだやつと違う?」とか
「そんな話知らない?」
とか読んでいるバージョンによっては内容が異なるので
読者の認識が混乱してしまいます。
これが「望郷編」の評価が定まらない要因のひとつにもなっています。

今回は
この4つのうちの『単行本版』をベースに解説しますので
「あれは違う」「邪道」「分かっていない」などその類のコメントを頂きましても個人の感想であれば構いませんが批判コメントはお控え願います。

加えて手塚先生や出版社を否定、批判するコメントについても一切お答えしませんので併せてご了承ください。

いろんな事情があって改編、削除した経緯がありますし
非常に考えさせられる作品ですから個人の感想が飛び交う事必死です。
しかしそれがなにより面白い。
いろんな意味で「望郷編」はぶっ飛んだ作品ですのでぜひ手塚治虫のド変態の部分をたくさんの方々に知っていただきたいと思います。


なぜ4種類もあるの?


まずは、なぜ4種類あるのかから説明していきましょう…

一番最初の「望郷編」は1971年、雑誌『COM』にて連載されました。
しかし連載中だった雑誌『COM』が休刊となり
連載が一時中断してしまいます。
そして1976年に連載場所を『漫画少年』に変えて、連載が復活するのですが
その際に手塚先生は続きではなく全く別の話として連載を再開します。

「え?」

ちょっと意味が分かりませんよね。

連載再開が続きではなく
別物語として再開って…
はい、あり得ません。
そんなあり得ないことが起きたんです。
これには多くの読者が混乱しました。(そりゃそうやろ)

『火の鳥』とはそれぞれが独立した物語ではありますが
大枠では連作として繋がっている超大作です。
それを途中まで書いて「やっぱりこっち」って
これはまさに前代未聞の珍事です。

しかしこれは倫理上の問題などにより改編せざるを得ない状況であったので手塚先生としても苦渋の選択だったことを付け加えておきます。

というわけで
一番最初に描かれた『COM版』はたった52ページで未完のまま
曰くの火の鳥として後世に残ることになります。

ちなみにこの幻となった伝説の「火の鳥望郷編」
角川文庫の別巻14巻でご覧いただけます。
過去記事もありますのでぜひご覧になってみてください。


そしてその後『漫画少年』にて連載されていたものが完結し
これを単行本化したものが
一般的には『漫画少年版』と呼ばれるものとなります。

そしてこれを単行本化する際に
この『漫画少年版』に加筆、修正したものが
いわゆる『単行本版』と呼ばれるもので
今では「望郷編」といえばこの『単行本版』のことを指すことが多いです。

『漫画少年』版に加筆修正が入っているとはいえ良くまとまっていると思います。そして今回ご紹介するものもこの『単行本版』になります。


最後の『角川版』ですが
前述の『単行本版』倫理的問題があるとして大幅に削除・改編したものになります。
その削除ページは100ページ近く削除されているので、ある意味では別の作品と言っても過言ではない代物になってしまいました。
はっきり言って「望郷編」の世界観を体験できるクオリティにはありません。この差分が読者それぞれの印象を大きく左右してしまったのは言うまでもありません。


まとめますと
『COM版』は全く別のお話でお蔵入り
『漫画少年版』『単行本版』はほぼ同じで一般的(若干違うけど)
『角川版』は修正のやりすぎでもはや別作品

だと思ってもらえればいいです。

というわけでこの「望郷編」は
火の鳥史上でも最も多くの修正、改編が行われ
最も多くの読者を混乱させた作品であることが理解頂けたかと思います。

削除されるほどの内容

そんな曰くの「望郷編」でありますから内容もスゴイ!エグイ!

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今回は長くなるのであえてストーリーを簡略しますが
「望郷編」の冒頭からして凄まじさが炸裂しています。

地球が嫌になって飛び出した2人の男女が
とある惑星で2人だけで生活することになります。
そこで事故により男が死んでしまいます。
女は身ごもっていて子供を産みます。

母と幼い息子だけの状況

さぁこのような状況の中で生き残るためにどんな選択肢をとるのか?
ってことです。

…どうです?
みなさんならどうします?

知らない惑星で
母と幼い息子の2人だけです、

ほぼほぼ絶望的な状況ですよね。


なんと。
母親が冷凍睡眠に入って20年後の自分の息子と
子孫を残すことに決めるんです。

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マジですか?

凄まじい発想です。

でもね、この後がもっとすごい事が起きます。
何人も子を産むんですけど近親相姦のためか男しか産まれず
女がいないので子孫を残すことができません。
唯一の女性である母は、もう一度冷凍睡眠に入り
今度は孫と近親相姦を繰り返します。

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マジすか!


こういう倫理観をぶっ飛ばした描写があるがゆえに
抵抗がある読者もおられるんですが
でもこれはある種の
「なぜ全ての生き物には子孫繁栄させるという本能」を宿しているのかという生物の根源的な生殖活動を描いた究極的な『火の鳥』でもあります。

単なる近親相姦ものなんていう浅はかなものではありません。
そんなイタズラに性行為を描写するようなペラペラな設定を手塚先生が書くわけがありません。


「命」とはを、遺伝子レベルにまで問い詰めたマンガなのです。

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どんな生物も教わったわけでもないのに
子孫を残そうとする本能を持っている。
これこそ「種の存続」という根本的な本能に迫った傑作だと思います。

生物は何故その種を存続させようとしているのか

ダーウィンの生物の進化論「種の起源」に迫る回答。
「種の存続」に対して明確な回答を
すべての生物における永遠のテーマに足突っ込んじゃった手塚先生は
もはや漫画家の域を超えてしまいました(笑)
これぞマンガの枠すらも超越した至高の秀作なのであります。


哲学っぽくなってきましたが
実は「人間」も生きる意味や目的なんてなくて
根本の意味は種族を残すだけなんじゃなかろうか。…と。

そうなると「生きよう」と考えることと
遺伝子の本能とどちらの意志が本当の人間なのだろうか。

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主体は自分なのか、遺伝子なのか、
はたまた人間なんてものは遺伝子に踊らされたただの器なのか?

もうとんでないところにまで妄想が行き着いてしまう
恐ろしいマンガです。
これはもうほんとねある種、手塚治虫の禁断の果実ですね。

いや~。深いです。


望郷編の意味


そしてここから「望郷編」は新たな展開を迎えます。

種族の存続を果たしたしたロミは(ロミはさっきの母親のこと)
新たな都市国家の女王として君臨することになります
国中の人から女王として尊敬されるまでになり
幸せな時間を過ごすのですが
心の隅がうずくように故郷地球に帰りたい思いが湧き上がります。

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望郷の念です

今の新しい国家を築いたにも関わらず
地球に思いを馳せたがために
そこからわずか数年のうちに新国家が破滅していくというところまでを本作では描いているのですが
まさにこの「望郷編」は
人類の「天地創造」「破滅」を描いた一大ロマンになっています。

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生命の誕生から墜落までという
「アダムとイブ」火の鳥版とでもいいましょうか
この気が狂いそうなくらいにドデカイテーマがこの後展開していきます。


ですが、、、まだまだ伝えきれないくらいこの後、続きますので
一旦この続きは後半にしたいと思います。


後半でも

既存の価値観では打ちのめされてしまうような
常識、価値観がガンガン飛び出してきます。

そして人類が辿った文明発展への警告、警鐘
人類の存在の在り方、自然との共生
盛りだくさんの内容となっておりますので
続きはぜひ「望郷編」の後半で
後半はこちら ↓



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