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【鬱】手塚史上最鬱!閉塞感がハンパない破壊的隠れ傑作「ボンバ!」
今回は手塚ダークの極み「ボンバ」をお届けいたします。
1970年代前半のスランプ期の手塚治虫
その中でも絶望的に陰鬱なのがコレ
ひたすらに暗い、そしておぞましい。
閉塞感がハンパない本作を今回は解説していきますので
ぜひ最後までお付き合いください。
それでは本編行ってみましょう。
本作は1970年から 「別冊少年マガジン」にて連載された作品であります
あらすじは
おとなしい内向的な中学生・男谷哲は、自分が恋心を抱いている水島先生に、嫌いな男性教師暴が求婚している事を知り、憎しみを抱くようになるんです。
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するとどこからともなく北斗の拳の国王号みたいな巨大な馬が現れたかと思うと翌日、その男性教師が不慮の事故で死んでしまいです。
どうやら誰かに憎しみを抱くことで巨大な馬が現れ相手に復讐してくれる能力を得たようなのです。
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自分に逆らう者は容赦なく始末し
男性教師に次いで両親をも殺してしまう男谷少年
そんなある時、大好きな水島先生が事故で亡くなり
社会を恨み社会に復讐するようになります。
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無差別に人を恨み暴走する未成年の少年
激しい怒りの行く末はどうなってしまうのか
…というのが本作大枠のあらすじとなっております。
いや~陰惨ですね。
完全にイってます(笑)
誰の心にも潜んでいる憎悪の気持ちを、具現化して描いたスリラーマンガでありますが凄まじい暗さです。
個人的には手塚作品の中で一番「鬱」レベルが高いかも知れません。
その背景には
経営する虫プロや虫プロ商事でさまざまなトラブルを抱え
発表するマンガも人気が低迷し「手塚は終わった」など読者からも
見放されていた時期で普通ならマンガを描いていることすら困難な時期に発表された作品だからと言えます。
そんな当時の手塚治虫の精神状態がゴリゴリに反映されたマンガなのでそりゃあぶっちぎりに暗いです。
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「嫌いな奴を消し去りたい」と中二病的丸出しのこじらせた主人公は中学生
そんな主人公に自身の想いを乗せてペンを走らせていたのでしょう。
怒りの激しさ、行き場のない感情
怒りをどこかにぶつけたいと願う深層心理が弾け飛んで生まれ出たのがこの作品なんじゃないでしょうか。
本当の先生の心の内側から掘り起こされた
エイリアンの口からもう一個顔が出てきてそいつが勝手に描きだしたような
本気の黒手塚が暴走して描いたような作品
この次の作品が「アラバスター」ですから
おそらくこの時期が「鬱」レベルピークであるかとは間違いありません。
アラバスターもそうですけど憎しみに対するベクトルが
異常なくらい振り切ってますからね。
ただ…
作品はドン底に暗く陰惨ですが
出来自体はめちゃくちゃ面白い。
「隠れた傑作」と言ってもボクは過言ではないと思います。
まず「表現力」が秀逸。
深い悲しみと激しい怒りの感情を抑えられない青年の描写が見事
この黒目、見てください。何ですかコレ。
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中身がないというか空虚、虚無感、奥底に秘めた怪しさというか
絶望感と憎悪を併せ持ったこの瞳。
この瞳でこの作品のイカレ度合いを表しているといってもいいくらい素晴らしい瞳をしています。
おそらく表紙に
この絵を持ってきたのもそれを表しているんじゃないかと思います。
惜しむらくはこの表紙では
このマンガの面白さをつかみ取るのは難しいということですね。
この講談社の漫画全集の方でも難しい。
これ見て「面白そう!」ってなります? 普通はならないですよね(笑)
「何、、、この馬?」って感じですよね。
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しかもこの彩色…
手塚カラーらしいキレイな水彩ではなくどんよりした油絵的な重たい彩色
この表紙はないなぁ
そう思うとこの「ボンバ」の表紙って難しいなぁ…
なかなかこの面白さを伝えるのが難しいですけど、やはりこの少年の瞳の描き方、これは本作における最大のポイントのひとつと言えます。
そして「コマ割り」が群を抜いてカッコイイ。
悩み苦しみ、のたうち廻る表現を二次元で表したらこうなるんだと思わせる見事なコマ割りです。
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かなり芸術的でもあり本作のイメージに
すごくマッチしているんですがこれは先生が考えられて描いたというより潜在意識的に滲み出たコマ割りに思えます。
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先生の精神性とマンガ表現の化学反応が起きたような絵と表現力が傑出した作品になっているので
ここも見どころの一つになっているのでぜひご覧頂きたいと思います。
そしてこの展開であれば
手塚マンガおなじみの「救いようのないラスト」が
繰り広げられると思いきや…
意外にもキレイなラストが待っているんですね。
欲望を暴走させ散らかしたあとに不幸せになってすべてが吹っ飛ぶ…
なんて手塚あるあるのオチを期待された方も多いかと思いますが
案外これはキレイな着地をしています
どんな内容なのか、オチを言いたいところではありますが
その展開はぜひ本編でお確かめください。
あと本編の「あとがき」が中々に面白いのでこれも読んで欲しいですね。
当時の手塚先生の陰惨な精神状態、それに伴う社会背景
そして名前を断定していませんが一部の評論家に対し珍しく攻撃的に批判もされております。
相当に精神的に参っていたことが伺える文章となっております。
この作品を読まれたかたは、暗い、いやァな気分を味わわれたことでしょう。そう、ぼくの作品にはある時期、なんとも陰惨で、救いのない、
ニヒルなムードがあったのです。
ちょうどそれは、60年と70年安保の間の頃です。はっきりいうと、
「新左翼」といわれる若者たちがさかんにゲバをやっていた頃です。
また、虫プロや虫プロ商事にトラブルが絶えず、
僕はその収拾にかけずりまわって、心身困憊していた頃です。
ぼくはやけくそで、世の中にも、自分の仕事にも希望がもてず、
どうにでもなれといった毎日だったのです。
なによりもやりきれなかったのは、「新左翼」支持を表明する一連の漫画・劇画評論家があらわれて、無知なくせに独善的な漫画評をやたらと発表していたことです。名まえはさしひかえますが、
彼らの勝手きわまる無礼な解釈のために、実力ある劇画家の何人かは、
せっかく脂がのっていたのに、考えこんでかけなくなってしまいましたし、ぼく自身も一方的な中傷だらけでまったく弱りきってしまったのです。
でも、反論しようとすると、周囲がとめるのです。
「そんな連中とケンカなどしたら、相手を喜ばせるだけですよ!」
というわけで、いっさい無視するほかありませんでした。
これらの自称評論家が、白土三平、つげ義春、水木しげる氏らの仕事を袋小路に迷い込ませてしまったのだと、ぼくははっきり信じています。
あと「性教育マンガ」ご紹介のときにも書いているのですが
この「鬱」マンガを「性教育マンガ」と同時期に描いていた驚きですよ。
これ本当に信じられないんですよ。
何ですかこれ、この絵と「メルモちゃん」の画、比べてください。
誰が見ても同一人物の仕事じゃないですよ。
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完全二重人格というか複数の脳みそを持っていたかのような描写
こんな芸当できる作家がこの日本に居たということが驚きです。マジで。
ほんとに末恐ろしい作家ですよ手塚治虫は。
そしてこの「ボンバ」にはオリジナル版が出ておりますが
めちゃくちゃオススメしております。
なぜなら同時収録の「ガラスの城の記録」
これもヤバイです。
ボンバと同列、ヤバさの質がちょっと異なるんですが
これも手塚治虫史上最もヤバイ作品ベスト3に入るイカレたマンガです。
詳しくはこちらの記事を見て欲しいんですが
冷凍睡眠によって年齢差の違う家族が巻き起こす破壊的な物語です。
親父は孫娘を犯そうとしたり長男が兄弟の娘に手を出したり
これ本当に手塚治虫が描いたの?と思えるほど凄まじいイカレた一族のタイムパラドックスSFサスペンスになっています。
さらに同時収録の「時計仕掛けのりんご」こちらもおすすめ
つまりはめちゃくちゃぶっ飛んだこの超ド級の問題作も併せて読めるなんてめちゃくちゃお得なオリジナル版になっています。
ただ…かなり強烈なのでその手の耐性のない方はご遠慮くださいね。
本気の手塚治虫を覗いてみたい方はぜひお手に取ってみてください。
という訳で今回は「ボンバ!」お届けいたしました。
手塚「鬱」マンガでも屈指のドス黒さを誇る異色作
決して手放しでオススメできる作品ではありませんが破壊衝動に満ちた手塚治虫の歴史の一端を覗くという視点で見てみると面白い作品だと思います。
最後までご覧くださりありがとうございます。