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初期手塚の最高傑作は「性的興奮」の少年漫画だった?!「0マン」解説!

今回は
手塚作品の中でも最も傑作との呼び声高い「0マン」をお届けします。
シッポのある人類・0マン族と、人間との対立を描いた長編SF作!
異形の者との確執は手塚作品における根っこのテーマ

地球滅亡、人類破滅という
スペクタクルなテーマを盛り込んだ初期手塚の傑作を
今回はご紹介いたしますのでぜひ最後までお付き合いください。


それでは本編いってみましょう。

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本作は1959年から1960年まで
「週刊少年サンデー」にて連載された作品です。

あらすじはといいますと…

とても簡潔に説明できる代物ではありません(笑)

この「0マン」数々の評論者たちが絶賛する傑作でありその評論者たちをして「要約は困難」と言わしめてしまうほど圧倒的ボリュームの作品なのであります。

総ページ数が700ページを越え、全部で46章からなる大長編
そしてストーリーが多岐に渡りとても一言では語れないんですが


そこをあえて説明させていただきます…

インドの奥地で日本人に拾われた赤ん坊は、
リッキーと名付け育てられることになります。
実はこのリッキーには生まれながらにシッポが生えており、
リスから進化した0マンと呼ばれる生物だったんです。

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しかも
0マンとは力も知能も人間を越えた生物でヒマラヤの奥に隠れ住み、
人類より遥かに進んだ科学をもっていたんです。
それを知ったリッキーは実の両親に会うため
0マン族の住処に向かうと、0マン国は人間支配の準備をしていました。
人類から地球を奪おうとしている0マン族
しかし自分は0マン族でありながら
人間のために力を尽くそうとするリッキー

このあと宇宙をも巻き込む壮大なスペクタクルが展開していくSF超大作というのが本編の大筋であります、

ようするに
悟空がサイヤ人のところに行ったらベジータが
人類を全滅させて地球を乗っ取ろうとしていたんで
悟空がまぁまぁって
地球人もサイヤ人も仲良くしようよって言ってる感じです。

(ちょっと違うか…笑)
まぁおおよそこんな感じだと思ってもらえればいいです。

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さて…本作は創刊間もない「週刊少年サンデー」で週刊誌の長編連載スタイルを確立したSFマンガであったというところをご説明しておきましょう。
この1959年は「週刊少年マガジン」と共に「週刊少年サンデー」も続いて創刊された年であり
これまでマンガは月刊誌が主流であったものが週刊連載へと移行したまさに大きな転換期なのであります。

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今にして週刊誌なんて至極当たり前の感覚でありますが
当時は週刊連載なんて、とてつもなく無謀な試みだったんですね。

漫画家の締切が間に合うのか?
ネタが続くのか?
はたまた子供たちのお小遣いが続くのか?
など様々な懸念材料があった中で週刊雑誌というものが誕生していくわけでありますが
もちろんその中心にいたのがご存じ手塚治虫

めちゃくちゃ忙しいのに週刊連載を強行突破したことによって
今日の週刊連載が当たり前になっていくんですけど
このお話はまた別の機会にしましょう。

そんな「週刊少年サンデー」創刊時の人気作家と言えば
手塚治虫に藤子不二雄、寺田ヒロオなどズラリ

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一方の「週刊少年マガジン」側の掲載作品は今聞いても誰も知らない作品、作家の名前ばかり…

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明らかにこの時点で「週刊少年サンデー」側がメインストリームであったかが分かります。
ちなみに「マガジン」も創刊時に手塚先生や藤子先生に連載の打診をしたのですが「サンデーの専属契約」なので断られたという噂もあります。
実際は専属ではなかったそうなんですけどね。


こうして初めての週刊雑誌創刊ということで手塚先生も意気揚々と
「スリル博士」という、読み切り形式の探偵ものの連載が始まったのですが結果はイマイチぱっとしませんでした。

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そこで連載9回目にして早々に打ち切って
翌週より始めたのがこの「0マン」なんです。
1話読み切り形式の「スリル博士」の失敗を改善して
初っ端から長編SF大作として描かれた「0マン」は
翌週が気になるという手法に切り替え、毎回ハラハラドキドキの展開で
今の週刊漫画の連載スタイルを確立したマンガと言われています。

この時点では当たり前ですけど、誰も週刊連載なんて事、体験したことがなかったので連載スタイルも手探りだったんですね。
そこで人気が出ないとみるや、早々に打ち切って得意のSF作に持ち込み、そして長く読ませるというマンガの表現に変えていくわけですからこの辺りの身のこなしはさすがです。

そしてこのスタイルが手塚治虫のスタイルにマッチします。

元々手塚先生は大河ドラマや壮大なスケールで描く世界観を得意としていたので1話読み切り形式より連作スタイルの方が手塚漫画には好都合だったんですね。

この「0マン」
あらすじを追うと分かりますが1951年発表の「来るべき世界」のテーマを
そのまま引き継いだかのような趣があります。

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「来るべき世界」は「まんが道」でもご存じのように元々1000ページあったものが300ページにまとめざるを得なくなった曰くの作品で
物語の展開がぶつ切りになったり駆け足になったり説明不足に陥ったことがあったので手塚先生にとっては不本意な出来となっていて消化不良という想いがあったんですね。

その鬱憤を晴らすように週刊連載という特色を活かして
地球滅亡、人類破滅のテーマという超重量級のネタをリミッター振り切って
毎週読みたくなる続き物に構成し直して描いたのではないかと思われます。

実際このダイナミックな世界観とストーリー展開というのは
リアルタイム世代直撃世代には
かなりのインパクトを与えることになりました。

やはり今までになかったマンガが登場した訳ですから
当時を体験した子供たちにとっては目を輝かせるくらいのキラメキがあったと思います。


その時の衝撃がいつまでも心に残っている世代が
この「0マン」を手塚治虫の最高傑作のひとつとして語り継いでいる要因になっているのは間違いありません。

いわゆる「思い出補正」ってやつですよね。
これは誰にでも経験あることだと思います。マンガじゃなくても音楽とかTV番組とかでもあの時の興奮がって感覚…
その想いがその作品を神格化させていくって普通にあることだと思います。
その衝撃がこの「0マン」にはあったってことですね。


この辺りの「週刊少年サンデー」創刊の模様や「0マン」誕生秘話など
その時の時代背景含めた熱量と言うのは
コージィ城倉先生の「チェイサー」1巻の第4話にて描かれておりますので
興味がある方はご覧になってください。

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そんな手塚作品を代表する傑作となった本作ですが
まさしく「来るべき世界」で表現できなかったフラストレーションがぶちまけられたような内容で全4巻完結なんですけど、ストーリー展開が早すぎて
4冊にパンパンに詰まってます。

0マン族という異形の者人類との対立
争う事の愚かさ、悲惨さ、身勝手さを通してこれでもかとばかりに愚かな人類のエゴを描き、さらに政治色まで盛り込まれた人類終末のドラマともいえる超大作になっています。

これ小学生目線ってすごいなぁ思えるくらい
実際子供マンガにしてはかなり複雑な内容でありました。

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これが良いか悪いかはともかく当時の子供たちからするとかなりハイセンスなマンガだったはずです。
それでも人気があったということは
子供たちの中でマンガを読むという習慣が成熟した瞬間でもあるんですね。

こういう読み手を育てていくと言うマンガの登場は
その文化の裾野を大きく広げるキッカケにもなりますしそういうマンガの登場によって日本のマンガ文化が誰でも気軽に読めるという土壌が出来、急速に発展していくんですよね。
著名人、評論者がこぞってこの「0マン」を絶賛するのも直撃世代が受けた影響そのままを後の作家たちにも受け継がれているからなのだと思います。

そういう意味でもこの「0マン」の残した歴史的意義というのは大きいものがあります。

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最後に作風、ペンタッチのことを少し触れておきますね。

この「0マン」の魅力のひとつに
流線形が際立って美しいという特徴があります。
元々手塚タッチと呼ばれる丸っこい線を描く手塚先生ですが
本作におけるペンタッチは一目見て分かるくらい走ってます。
もうなんと表現して良いか分からないのですが線に迷いがないというか
生きているというか躍動感がハンパじゃないんですよ。

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あとがきにも書いてあるんですが
この時期の手塚先生はノリにノっていたそうで、
きっとその精神状態がペン先にも表れていたんでしょうね
キレキレに走り散らかしているのでぜひその辺りもみて欲しいと思います。

続けて
(手塚はよくシッポのある人間の物語を描く)と問われたことに対しての回答もあとがきに載っているですが

「なぜかそういうキャラクターに変な性的魅力を感じてつい登場させてしまうのです。なにか性的な異常心理と関係でもあるのでしょうか」 

と語っておられるんですね。

出ました。「性的魅力」とはっきりとご自分で言ってますからね(笑)

説明できない得も知れないエロス
これが手塚治虫が無意識に醸し出すド変態タッチなんです。

性別を超えたエロスというか種族を超えたエロス
そこに両性具有的な要素を混入すると
ムダにエロくなってしまうというド変態タッチこそ手塚治虫の真骨頂。

卑猥ということじゃなく生命の神秘、性の目覚め的な健康美
この言葉にできない魅力に多くの子供たちが打ちのめされたわけであります。そういう面でもぜひこの「0マン」のタッチを見て欲しいと思います。
本当に手塚先生がノッて描いていた事が分かるくらい滑らかな美しさを感じさせてくれます。
こちらに手塚先生のド変態ペンタッチについての記事もどうぞ



という訳で今回は「0マン」お届けしました。
まだまだ話足りないネタがてんこ盛りなのでありますが
まずは概要さらりとお伝えしました。
機会があれば別の記事でじっくりとお伝えしたいと思います。

手塚作品の中でも最も傑作との呼び声高い「0マン」でした



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