「ブラックジャック大全集」解説① 超希少!幻の未収録作やレアシーン収録!
今回は「ブラックジャック大全集」をご紹介したいと思います。
「ブラックジャック」の作品についての記事はこれまでに何本かご紹介しておりますので下記併せてご覧いただくとより楽しめますのでどうぞ。
ブラックジャックは如何にして国民的マンガになったのか?
ブラックジャックの最終回ってどんな話?
神エピソード!泣けるブラックジャック「おばあちゃん」感動すぎて死ぬ!
ブラックジャック未収録作品を解説
ブラックジャック「絵が死んでいる」核兵器を考える…。
ブラックジャック高額報酬ランキングベスト5
ブラックジャック低額報酬ランキングベスト5
「ブラックジャック」好きなエピソードランキング40
手塚治虫専門Youtuberが選ぶ「BJ」好きなエピソードベスト10!
今や国民的マンガとなった「ブラックジャック」ですが
実は連載された後、一度も単行本化されていないエピソードや
限定的に発表されたエピソードなどが多数存在しており
なんとすべてのエピソードが揃った単行本、出版物が存在しません。
つまりは全話コンプリート不可能マンガなのです!
ファンですら「全話読んだことがない」という事が普通にありえちゃう
とんでもない変態マンガ、それが「ブラックジャック」なのですが
そんなファン泣かせの国民的マンガに救世主が登場しました。
これまでのシリーズ(出版物)の中で最も多くのエピソードを収録した
「ブラックジャック」の完全版ともいえる大全集であります。
今回はその「ブラックジャック大全集」の内容をたっぷりとご紹介いたしますのでぜひ最後までご覧ください。
ご紹介の前に…
ではなぜ…今までこの「ブラックジャック大全集」をご紹介しなかったのか
完全版なら最初からコレを紹介すればいいじゃないかという事なのですが…
実は…これボクの所有物ではありません。
図書館から借りてきたものなんです。(動画参照)
ブラックジャックの出版物にはいくつかありまして
ボクもいくつか所有しているんですが
この「大全集」は持っておりませんでした、
理由はシンプルに高いからです(笑)
1冊なんと3850円します。(現在はプレミアついてもっと高くなっています)
全巻揃えると57,750円します。
めっちゃ高いです。
おいそれとコンプリートできる代物ではございません。
でも高いだけあって内容はこれまでの出版物の中で最も充実しています
まず連載時と同じB5判フルサイズでフルカラー掲載です。
手塚先生が最も好んでいたB5判での単行本化は初ですのでこれだけでも相当な読み応えがあります。
しかも雑誌掲載時と同じ掲載順序で収録されていて
各話の扉絵、予告カットなどもそのまま収録されています。
「ブラックジャック」のこれまでの出版物において連載時の順番と違うのはファンなら御周知のことですが、ここではキッチリと連載順に掲載されておりますので本当の時系列を辿って読み進めることができます。
(何気にこれはめちゃくちゃ嬉しいこと)
しかも何より、これらの原稿はコピーではなく
手塚プロ所蔵のオリジナル原稿からダイレクトに印刷されたものですので
かつてないほどのハイ・クオリティ仕様になっております。
今の読者からすると印刷がキレイなのは当たり前中の当たり前なので
「はぁ?」「何言ってんの?」って感じでしょうけど
ブラックジャックが連載されていた1970年代というのは世界的なオイルショックの時代で紙が無かったんですよ、無かったというより貴重だった。
ですから、
当時のチャンピオンの雑誌印刷も裏が透けてみえてたりしていたので
今見ると「なんじゃこりゃ?」って感じなんですけど
当時はそれが普通だったんです。
マンガなんかより生活する方が大事なので
マンガなど娯楽に使われる紙なんて粗悪なものばかり
それが当たり前の時代でした。
そして原版が無ければその連載時のコピーのコピーを印刷して単行本を出版するもんだからどんどん印刷物が粗悪になっていくんです。
なので「現代の技術」で「生原稿」から直で精密に印刷されたことによる
当時の手塚先生の肉筆のタッチを拝めるというのは、とても貴重。
この美しさはぜひ迫力が違うので一度、ご覧になって頂きたいと思います。
そしてこの「大全集」最大のウリといっても過言ではないのが
これまでの単行本の中で最も多くのエピソードが収録されていることです。
「え?、全部収録されていないの?」
「完全版なのに?」…って思っちゃったあなた!
分かります。
でもこれこそ手塚作品あるあるなんです
実は手塚先生って改編、修正、削除なんてものは当たり前の日常茶飯事。
自分の生原稿を躊躇なく切り刻む作家でありまして
生原稿の原型が残っている方が珍しい作家なのであります。
なので「全話収録」とか「完全版」という作品は「ブラックジャック」に限らず手塚作品にとってとっても貴重なコレクションとなります。
(「リボンの騎士」の生原稿展示に行ってきました。上記ご覧ください)
ですからこの「ブラックジャック大全集」最大のウリでありながらも…
残念ながら全話収録には至らず、、、
しかし
第28話「指」、
第41話「植物人間」、
第58話「快楽の座」を除く全エピソードが収録されており、これまでの出版物の中においては最も多いエピソード収録はやはり見物です。
ちなみに本編未収録の3話につきましては、著作権者である手塚プロダクションの意向により、「今後も単行本収録の予定はありません。」と公式発表もされておりますからこれらを除くカタログのラインナップとしては
本作がほぼ間違いなく公式での「最強版」
「永久愛蔵版」「完全版」であることは間違いありません。
この未収録作品や、なぜお蔵入りになったか
そしてなぜ、今後も出版の予定がないのかなどの理由については
下記記事で解説しておりますのでぜひご覧になってみてください。
それでは前置きが長くなりすみません。(解説スタートです)
●1巻
まずは記念すべき第一巻見ていきましょう。
伝説の幕開けとなる「ブラックジャック」本当の第一話「医者はどこだ」
第一話にもかかわらず、巻頭カラーでもなく、派手な告知も演出もなく、
全く期待もされず、正確にはたった4話で終了する予定でひっそりと始まりました。
しかし前評判を裏切り連載開始以降、怒涛の快進撃を見せ、ついには漫画史に残る名作に上り詰めたまさに記念碑的第一話。
そんな歴史的第一話ですが
手塚先生自身が監修した講談社「漫画全集」では1巻として掲載されておりません。
これは何を意味するのか…。
この「ブラックジャック大全集」の巻末には「単行本収録リスト」という強力なコンテンツがついておりまして、
これを見ることで各エピソードの収録情報が一目で分かります。
当然「未収録」及び作品の希少性なども
比較することができますので今回はこちらを参考に解説していきます。
このリスト見ますと
第一話に至っては講談社「漫画全集」のみが1巻以外の掲載となっています。(左端「医者はどこだ」講談社「漫画全集」では19巻収録)
ここから読み解けるのは手塚先生の中で「ブラックジャック」を初めて読んでもらう読者にとって第一話「医者はどこだ」は最適解ではないってことが分かります。
なぜそんな事が分かるのかと言いますと…
この講談社「漫画全集」のみが手塚治虫先生本人の手によって
掲載作品、掲載順を監修しておられますので
作者本人の意向が一番反映されている出版物と言えるからなのです。
手塚先生自身も講談社「漫画全集」の掲載順は
「好きな順、人気順、読んで欲しい順」に詰めこんだと語っており
初めての読者用に再構成されているのが「漫画全集」の特徴ともいえます。
つまりは講談社「漫画全集」の掲載順、掲載エピソードを辿ることで
手塚先生の作品への想いが見えてくるんですね。
ですので今回の紹介解説においては講談社「漫画全集」の掲載をベースに解説していきたいと思います。
さて、第一巻のその他の注目をみていきますと
第9話「ふたりの修二」が未収録となっていることが分かります。
それよりも、何より興味深いのは
講談社「漫画全集」では連載第1話から第5話までのエピソードはすべて
15巻以下の後半に掲載されていることが分かります。
たった4話で打ち切り予定で始まった作品の命運を分けた伝説の4話を
手塚先生本人は認めていないってこと??
この4話がなければこの先の連載もなかったまさに手塚治虫の歴史の中でも
ターニングポイントとなる4作品をなぜ除外するの?
…と色んな想いが湧き上がってきますが
その真意は特に語られておりません。
むしろ本人自らが「好きな順、人気順、読んで欲しい順」に詰め込んだと
語っておられるわけですから素直に最初の4作品は単行本の順番としては
ふさわしくないと思っていたのでしょう。
さぁそれでは2巻見ていきましょう、
2巻の注目は
なんといっても第22話「血が止まらない」ですね。
チャンピオンコミックス以外掲載記録がない非常に珍しいエピソード。
これ、めちゃくちゃいいエピソードです。
二転三転する秀逸な構成力、そこに絡まる手塚治虫らしい、ブラックジャックらしい命のエピソード、これぞブラックジャックって感じのいいお話なんですけど残念ながらお蔵入りしちゃった作品なんですよね。
ストーリー自体は特に何か問題になるような事ないと思うんですけど
おそらく「血友病」に関する団体などの抗議による影響のため余儀なくカットされたと思われます。
真意は不明でありますがファンなら一度は読んでおきたいエピソードのひとつであります。
あと講談社「漫画全集」の未収録で見ますと第26話「パク船長」
こちらは未収録といっても比較的、他の単行本にも収録されているので
そこまで珍しい作品ではありません。目にする機会の多い作品ですね。
そして本作には掲載されていませんが
第28話には「指」というエピソードが連載されておりまして
後に第227話「刻印」というタイトルで改稿・改題されております。
ちなみに第227話「刻印」は、第28話「指」の原稿のコピーではなく
生原稿(第28話「指」)の上から改編、修正しているので
この世に第28話「指」の原稿は存在しません(笑)
つまり生原稿自体が存在しないエピソードですから
復刻しようにもできる訳がないのであります。
初期の手塚作品って管理が本当に適当だったので生原稿が作者の手元になかったり、出版社にもなかったり、入稿の後はサインして読者やスタッフにプレゼントしたり今じゃ考えられない、絶対にありえない管理でした。
だからこそこういう復刻版、完全版が貴重になってくるんですけどね。
続けて、2巻の注目しておきたいポイントとして、2巻にして早くも
手塚先生本人の作品への創作衝動が迸っている様子が伺えることです。
まず何と言ってもカラーページの多さ、これは間違いなく連載人気の裏返しでもありますし、何より作品自体のクオリティがめちゃくちゃ高い。
「ピノコ再び」「二度死んだ少年」「ときには真珠のように」
「ピノコ生きてる」
といったファンにも人気のエピソードがこの時期に連発しています。
短編のクオリティとしては規格外の完成度で
先生自身も脂がギトギトに乗りまくっていた時期ではないかと推測できます
…さてこのペースで解説していくと一生終わらないので
一旦ここで切らせて頂きまして続きは次回ということでご了承願います。
次回は3巻以降の解説をガッツリやっていきますので
ぜひ次回もお楽しみに…。
今回はオマケとして図書館雑記事を書きましたので興味のある方だけ
読んでみてください。
ボクは図書館が大好きで良く足を運ぶんです。
我が町の図書館でも元々「ブラックジャック」の文庫版、豪華版が置いてあるのは知っていたんですけど
ある日突然この「大全集」が追加になっていました。
2023年にですよ、令和にですよ!
ここへきて3パターン目の「ブラックジャック」の追加、
「どんだけ好きやねん」って感じです(笑)
「ブラックジャックいくつあんだよ」って突っ込み入れたくなります。
真剣に図書館の誰が仕入れたのかめちゃくちゃ気になります。
一緒にお茶したいですわ…マジで。
もしくは市民の方々のリクエストで導入したのかも知れませんけど
何にせよこの素晴らしい導入は拍手であります。
もう拍手喝采です。スタンディング拍手です。
図書館という市民の「知性を育む」憩いの場に手塚作品をドシドシ導入するという試み、いいですね~。
今後もドシドシ続けて欲しいものです。
図書館と手塚作品の関係性については以前から記事にしたいとずっと思っておりました。しかしながら未だなかなか実現には至っておりません。
思ったらとっとと書いちゃえばいいのですが自分に何かと言い訳をつけて
いつになっても記事にしないという悪いくせが出ておりまして…。
しかしながら手塚作品を楽しむという側面から見た場合、図書館との関係性は切り離せないのでいつかは必ず記事にしてご紹介したいと思っております。
最後に…あえて図書館に苦言を言わせていただきますと…
今回ご紹介したこの「ブラックジャック大全集」
実は…
全15巻なんですよね。
なぜに10巻で終わってるのか…、
あと5冊!
なんとかあと5冊、追加してくだせ~。
予算の都合なのか、何なのか意味不明ですけど、
なんとか全巻コンプリート!頑張っておくんなまし!
これが揃えば、また追加記事として5冊分の解説記事もやっていきますので
宜しくお願いします。
そして全国の図書館のみなさん。
「ブラックジャック」全巻の品揃えよろしくお願いします。
ではまた!
■引用 / 参考文献
手塚治虫漫画全集「ブラックジャック」/講談社
「ブラックジャック大全集」/株式会社復刊ドットコム