
手塚治虫の性教育マンガがヤバイ!有害図書指定の問題作!「やけっぱちのマリア」前編
今回は「やけっぱちのマリア」をお届けいたします。
手塚治虫が少年誌での性表現の過激化を嘆いて、
「やけっぱち」で描いたとされる伝説の「性教育マンガ」
挙句に有害図書指定にまでなった問題作をご紹介して参りますので
ぜひ最後までお付き合いください。
それでは本編いってみましょう。
本作は1970年4月より「週刊少年チャンピオン」にて連載された作品です。
あらすじは
ダッチワイフに生命が宿った少女が活躍する、性教育漫画であります。

これだけ聞くと、とんでもないマンガに聞こえますが(笑)
全然そんな事ありません。
ちょっと設定がぶっ飛んでいますが内容はいたってマジメ。
巨匠が世間を憂いて描いた正統派な性教育マンガなのであります。
1950年代、マンガは悪書であると決めつけられていた時代が過ぎ
1960年代末から1970年代にかけてマンガの社会的に認知が進んできた中で
マンガ表現がこぞって過激な性描写や、暴力シーンを描きはじめたんです
これまでタブーとされてきた表現の波が押し寄せるようにどっとやってきたんですね。
そのタブーとずっと戦い続けてきた手塚先生にとっては
今まで自分が守ってきた表現は一体なんだったの?
…って思うくらいやりきれない思いを抱えていた矢先、
そこに追い打ちをかけたのが「ハレンチ学園」の登場。
子供たちの間で一大センセーショナルが起きるんです。
これによって
堰を切ったように一気に刺激的な性表現が加速していく訳であります。
その急激な変化、少年誌での性表現の過激化を手塚先生が嘆いて
「やけっぱち」で描いたのが
本作「やけっぱちのマリア」誕生のキッカケなのであります。
その時の心境をあとがきでこう語っておられます。
「やけっぱちのマリア」は、まあ、いわばキワモノです。
ちょうど、この当時子どもの性教育の見なおしが叫ばれ、
「アポロの歌」の解説でもかきましたが、
少年誌に大胆な性描写やはだかが載りはじめた時代です。
(中略)
ぼくたちが少年漫画のタブーとして、
神経質に控えていた性描写が破られて、
だれもかれも漫画にとりいれはじめたので、こんなばかばかしい話はない、こっちはかけなくて控えていたのじゃないか、
かきたくてもかけない苦労なんか、
おまえたちにわかるものかといったやけくそな気分で、
この駄作をかきました。
だから、「やけっぱち」というのは、なにをかくそう、
このぼくの心情なのです。
この言葉がすべてを物語っていますね。
さらに
本作「やけっぱちのマリア」の連載は1970年4月15日なのですが
その11日後にもう一本の性教育マンガ「アポロの歌」を連載開始しております。なんと同時期に性教育マンガを2本立て続けに発表しているんです。
「やけっぱち~」は学園恋愛ラブコメものに対し
「アポロの歌」は生殖行動が主体のやや大人向けの性教育マンガ
本物の愛を知るために違う土地や時代に飛び真実の愛を探求するという
火の鳥の性教育版ともいえるまさに「生命讃歌」を描いた一大傑作でありますが、この両作ともに性描写が問題とされ地方自治で有害図書指定を受けております。
さらに同年9月に「ママァちゃん」を連載、これは後の「ふしぎなメルモ」となり翌年には子供達向けの性教育アニメとして放映されました。
つまり手塚先生は、ほぼ同時期に幼年、少年、青年と年齢違うターゲット層に向けて3発も性教育マンガを炸裂させているんですね。
なんという情熱でありましょうか。
いかに世間へのやりきれない思いを抱えていたのかが分かるかと思います。
しかもそのうちの二作品が有害図書指定ですからね(笑)
アニメの「メルモ」にしても
放映時間が日曜の18時半ということでサザエさんの裏番組にあたり
この時間帯に性教育アニメって子供にとってめちゃくちゃ恥ずかしいのもありますけどサザエさんの対抗が性教育マンガってかなり無謀な試みであって
あえなく撃沈しております(笑)
三作とも
結果としては散々な散らかり具合なってしまっていますが手塚先生は
この性教育問題についてはめちゃくちゃ真摯に取り組んでおられました。
「こどもたちに、まんがを通し正しい性教育をする必要を感じて、
たいへんまじめにとりくんだつもりです。」
と、コメントしているように
有害図書指定になったとはいえ真正面からこの問題に取り組んでおられたんです。むしろここまで真剣にマンガ表現と性教育について向き合っていた漫画家なんていなかったんじゃないでしょうか。
性教育って子供たちにとって、いやらしい、恥ずかしい、ってイメージがありますけど子供たちが異性に興味を持つのは当然の成り行きであり、
無理に押さえつけるのはむしろ不自然と言わんばかりに
子供たちの疑問にきちんと向き合って表現活動していたのは
漫画家でもあり医師でもあった手塚先生ならではのスタイルと言えます。
男の子なんてある時期になると女の子の裸にひたすらに興味を持つ時期って必ずありますからね。
むしろそれしか考えてないくらい阿呆の一つ覚えになるときあります。
雑誌の他愛もない性に関する記事でもむさぼるように読んでたり
ちょっとエッチな雑誌の切れ端にガッツいて読んだり
あと…田舎だけかもしれませんが必ず「エロ本」が落ちているんですよ。
あれ何だったんでしょうね。間違いなく落ちてました(笑)
雨に濡れてふにゃふにゃになったやつをひっぺ替えしてでも読んでましたよ。
完全にアホです。
そういうときにこうした性教育マンガや性に関する記事があるとすごい助かりますよね。
この「やけっぱちのマリア」が福岡県の有害図書指定になり
新聞にも取り上げられ話題になったんですけど、その理由を調べてみると
男女の肉体の違いや生命誕生の仕組みなどを図解し、
キスシーンなども描いたことが有害指定の理由と言われています。
男女の肉体の違いって言いますけど
学校の先生ってこの問いに躊躇なく答えられるんですかね。

作中では「男と女の違い」はどうしてと聞かれ
「オチンチンがあるかないか」の違いしか答えられない主人公に対し
医学的見地から分かりやすく答えています。
女の子にヒゲが生えず胸毛も生えない理由にも答えてます。
第二次性徴が起こる体の変化についてストーリーの中で自然に触れていくんです。

第一話では「赤ん坊はどこから出てくるのか?」という問いが出てきますが
これを子供たちに伝えられる大人や先生は一体どのくらいいるんでしょうか。
もし言葉に詰まってしまうことがあるなら、
このマンガが存在する意義があったんじゃないでしょうか。
直接言葉にしづらい事でもマンガにすることで理解が進むことも事もあるはずです。

何もかも卑猥だなんて蓋をしていたら余計おかしなことになっちゃいますけどね。
男の子が女の子を見たときに
チンチンが勃っちゃうヒミツも説明されてて
これ自分の子供に聞かれたら戸惑っちゃいますよね?

こういう思春期特有の誰にも相談できない悩みを解決できるものが
あるのとないとでは全然違うと思いますけどね。
お恥ずかしい昔話ですが
ボクは当時、小学5年生くらいだったと思いますが
女性の生理用品のことが本当に何のことはさっぱり分からず
同級生の女の子に聞いたりしても、
誰も教えてくれないので廊下の壁に貼り付けたりして遊んでました。
今にして思えばハンパじゃないくらいデリカシーのないクソ野郎だったんですけどでも当時は本当に分からなかったんです。(すいません)
学校で女の子だけが集まる集会みたいなやつで
女子にだけ配られる謎の小袋にマジで「「お菓子」が入ってんじゃね?」
って男子連中は思ってましたから…。
今にして思えばアホ丸出しなんですけど、当時は至って真剣。
あれは絶対に男子にも説明するべきだと思いますよ。
今なら検索でちょちょっと調べることができますけど
当時は親はおろか、先生や友達にも相談できない悩みもたくさん出てきますからね。特に生殖器に関しての悩みを抱えていた子供たちは多かったんじゃないかと思います。
ボクも現代なら絶対に廊下に貼り付けたりなんかしませんでしたよ(笑)
あと本作では生理現象だけでない心理的変化にも答えてくれています。
ダッチワイフのマリアには恥ずかしさの概念がなく
素っ裸でいることについて主人公の弥八は「服を着ろ」って言うんですけど
「女の子はなんで裸を見られるのがイヤなんだろう。」と素朴な疑問を持ちます。

「恥ずかしい」ってどういうこと?
「恥ずかしさがあるから、それが魅力的に見える」とか
「男らしい」「女らしい」ってなんだろう。
「男と女どっちが偉い?」という現代ならアウトになるようなネタもあって
非常に見ごたえのあるマンガになっております。

子供はもちろん、大人になって読み返してみても「はっ」っとさせられるような内容になっており、この時代だからこそ50年以上も前に世間から叩かれた手塚治虫の創作へのフラストレーションがぶちまけられた本作
「やけっぱちのマリア」を
ぜひぜひ、お手に取って読んでみて欲しいと思います。
まだまだお伝えしたいことあるのですが
今回は長くなったのでこの続きは後編にてお届けいたします。
ぜひ次回もお見逃しのないようご覧ください。
そして本作には「オリジナル版」発売されておりますので
そちらご紹介しておきます。
未収録ページ・カラーページ・全扉絵・予告などの超レア素材を含め、
巻末ギャラリーには詳細な図説も充実しております
1970年当時の雑誌連載時を忠実に再現した完全オリジナル仕様
初版完全限定品ですので数に限りがあります。
ぜひチェックしてみてください。