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国産初カラー特撮番組「マグマ大使」爆誕!しかしこれが手塚バブルの崩壊だった?
今回は
日本初のカラー特撮テレビ番組第一号「マグマ大使」をお届けいたします。
日本の男の子の特撮ヒーローと言えば「ウルトラマン」「仮面ライダー」
小さい頃は男の子の誰もが当たり前のように通る通過儀礼のような一大ヒーロー産業でありますがそんな特撮ブームの第一号
それが今回ご紹介する「マグマ大使」だったのであります。
その誕生の歴史と共に今回はご紹介していきますので
ぜひ最後までお付き合いください。
それでは本編行ってみましょう
本作は
1965年5月から「少年画報」にて連載された作品であります。
あらすじは
地球の創造主アースによって造られたロケット人間マグマ大使と、
地球侵略をたくらむ宇宙人ゴアとの戦いを描いたSF活劇となっております。
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今回は解説したいことがたくさんあって深く掘り下げていくとキリがないのでサラリといきたいと思いますので細かいツッコミはご遠慮ください。
まず
本作は原作よりも特撮テレビの方が認知度があるのではないでしょうか。
そんな原作でありますが
ぶっちゃけ言いますと特撮の原作の割にはストーリーが濃いです。
物語の冒頭なんか、主人公のマモル少年の家が突然、
恐竜時代へタイムスリップしてしまうところから始まったり
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「人間モドキ」という設定なんかは
地球人たちがいつの間にかニセモノへと入れ変わっていく不気味さを描いていたり単なる特撮原作ではなく骨太な手塚節全開の特撮ヒーローの枠を越えたスケールとSFっぽいストーリーがたまらない作品に仕上がっております。
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冒頭のタイムスリップなんてまさにアーサー・コナン・ドイルの
『ロスト・ワールド(失われた世界)』からですし
「人間モドキ」の設定もジャック・フィニイのSF小説『盗まれた街』からですしこれらは手塚治虫のSFワールドがてんこ盛りにアレンジされていて非常に見応えがあります。
ちなみにここら辺は「グランドール」や「ウルトラセブン」でも使われていた元ネタですね。
テレビ放映に先立ち1965年5月より連載されたこの原作は
たちまち人気となりほぼ毎回雑誌の表紙になるくらいに盛り上がりました。
テレビ放映が始まるとその人気はさらに加速し、何度も特集が組まれまさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せます。
後半のブラックガロンという強敵が出現したあたりも非常に盛り上がりました。
これは1959年連載の「魔人ガロン」との共演なんですけど
巨大ロボットとのバトルは見応えがあって心躍る展開に子供としてはワクワクした設定でありました。これ超興奮しましたね~。
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さてさて、どうして
特撮原作なのにここまで重厚なストーリーが展開できたのか…?
気になりますよね。
これは元々、手塚先生は原案だけのはずだったんですけど
完璧主義の先生は黙っていられなくなって、
ついに手を出しちゃったんです(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)
出ました。
またしてもやっちゃいました。
この時期はマンガもアニメもテレビもなんでもかんでもヒットしておりまさに人気の絶頂!右も左も手塚治虫!
人間業とは思えない変態の所業!信じられない仕事量をこなしていた時期なのであります。この辺の変態っぷりは「チェイサー」3巻に描かれているのでぜひ見て頂きたい!
マンガにアニメに特撮に、そして国産初のカラーアニメも開始して
完全に時代を席捲していた猛烈な時期でしっちゃかめっちゃかの時期です。
もうマジで仕事の入る隙間なんか一ミリもないパンパンの完全にオーバーワークの中で…
描きたくなって描いちゃったんです(笑)
そして案の定、こんなオーバーワークが
いつまでも続くわけもなくもれなくパンクします。
最後の方は代筆が多くなり
なんと最終回に至っては完全に手が回らなくなって手塚先生自身全く手をつけずに終了しちゃいます。
当然の如く納得していない手塚先生ですから
最終回「サイクロップス編」だけはいまだに単行本未収録の幻の作品となっております。講談社漫画全集のあとがきにもはっきり
「ボクの絵ではありません」って書いてありますからね(笑)
このように中途半端のまま終了したということで先生自身あまり好きな作品ではないとして歴史に残されてしまったということになっております。
一方のテレビ放映の方は
1966年7月、ピー・プロダクションの製作で実写特撮ドラマとして始まり
原作に続いてTV版も高視聴率を叩き出しております。
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オモチャも発売されてめちゃくちゃ売れましたし
スポンサーも「ロッテ」で「マグマ大使ガム」が発売されてこれも大ヒット。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せるわけであります。
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このマグマ大使誕生秘話について
当初手塚先生は特撮放映に否定的だったのでありますが旧知の仲だった
「うしおそうじ」さんの熱意に感銘を受けて
許諾した結果ですから相当に練りに練られた傑作だった事が伺えます。
当時としてクオリティは実写「鉄腕アトム」(手塚先生はこの時のトラウマがあった)なんかとは比べ物にならないくらい遥かに優れた素晴らしいものがありました。
なんせ金ピカのデザインがカッコよかったですよね。
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カッコよさもさることながら何と言っても本作は
「国産初のカラー特撮テレビ番組」の称号を持っているという事が
一番の名誉ではないでしょうか。
『ウルトラマン』の放送開始は1966年の7月17日、
一方『マグマ大使』は『ウルトラマン』よりわずか2週間早い7月4日
このわずか2週間という狙ったかのような攻防戦。
これには色んな憶測、逸話、伝説が残っておりますが
有力なのは大人気アニメだった「W3」が「ウルトラQ」にコテンパンにやられた事からの執念
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恨み節とかではなくクリエイターとしてのプライドを見せつけた
2週間早い公開!!
そして「国産初のカラー特撮」という称号獲得。
この辺りのモノ作りに懸ける男たちの物語には非常に熱いものがあります。
切磋琢磨して切り開いてきた職人たちの熱い想いが今日のエンタメの歴史を形作ってきたわけですから感慨深いものがあります。
ちなみに「ウルトラQ」は白黒なので「カラー」が国産初ということをお間違え無く。
このマグマ大使のキャストもなかなか良くて
ファンファンこと岡田眞澄さんとかイーデス・ハンソンさんとか海外用に向けて作られていたこともあってちょっと外国っぽいテイストがいい味出してました。
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イーデス・ハンソンって半村良を思い出すんですけど
これは小松左京さんが思い付きで言ったとか言わなかったとか
まぁどうでもいい事なんですけど(笑)
このように
毎週高視聴率を叩き出しグッズも売れて素晴らしい作品だったのですが
またしても「ウルトラマン」に駆逐されていくんですね。
(ビッグX記事参照)
ウルトラマンは1話完結に対して
マグマ大使は4話で1ストーリーという展開
1話で淡白に終わるよりは重厚な内容をぶち込めたのですがこれは、子供には複雑すぎた感があります。
ウルトラマンシリーズにない「家族」描写であったりヒューマニズムストーリーが描かれてはいるんですけどやっぱり子供には怪獣とドンパチやってる分かりやすい構図の方が好まれるんですよね。
あと、これは予算の関係上とも言われておりますが
ウルトラマンには毎週違う怪獣が登場するんですけどマグマ大使は数回に一回しか登場しなかったりと、この微妙な設定の違いが徐々にではありますが明暗を分けて行くことになるんです。
でもこれはボク的な見立てでありますけど
決して「マグマ大使」がショボイんじゃなく「ウルトラマン」が強すぎましたね。
怪獣デザインの面白さ
必殺技のカッコよさ
カラータイマーの緊張感
改めて「ウルトラマン」ってよくできた作品だと思います。
そりゃあ現代まで続いてますからね。最高クラスのテンプレートだと思いますよ。もうこれはしょうがないですね。誰も太刀打ちできません。
マグマ大使云々というより相手が一枚も二枚も上手でしたね。
そして
長者番付のトップにも立ちこれだけの栄華を誇っていた手塚治虫がこの辺りから徐々に墜落の兆しが綻びが見えてくるんです。
マグマ大使連載中には、あの有名な「W3」事件もあって
絶頂にあった手塚ブームが、特撮はウルトラマンにボコボコにされ
原作はスポ根ブームに追いやられ、この後大スランプに陥っていき
ついには虫プロ、虫プロ商事倒産と人生のどん底まで落ちていく
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これはボクの個人的な推測でありますが
ある種、丁寧な仕事ができなかった、できなくなったという意味では
このマグマ大使が象徴的になってしまったのではないでしょうか
図らずも手を抜いたわけではないにせよ、手抜きになってしまった仕事が徐々にその人気を蝕んでゆく。その後のスランプの原因を自ら作り出してしまうことになろうとはこの時誰も知る由もないわけですが…。
手塚治虫の歴史を語る上でも
あまり語られることのない作品でありますが
個人的にはスランプの兆候を示した非常に重要なターニングポイントになった作品であると思います。歴史に「もし~」はありませんがあの時に違う選択をしていたならばどうなっていたのか興味が沸いてきます。
ぜひ皆さんも色んな角度から見てみるとまた違った見え方があると思いますのでぜひそういうところも意識して見てみると面白いかと思います。
では最後までご覧くださりありがとうございます。