【鳥嶋和彦】伝説の編集者が語る手塚治虫!ドラゴンボール鳥山明を育てた敏腕編集者から見た漫画の神様とは?
今回は「伝説の編集者鳥嶋和彦」から見た手塚治虫をお届けいたします。
鳥嶋和彦さんと言えばあの鳥山明先生を育てたことでも有名で
ご存じ代表作「ドラゴンボール」は世界的に大ヒット
それ以外にも
ゲーム業界の主要人物をつないで国民的ゲーム「ドラゴンクエスト」や
「クロノ・トリガー」の製作にも尽力したまさにマンガ編集者の枠を超えた元集英社の伝説の編集者です。
そんな鳥嶋和彦さんが語る手塚治虫とは?を
こちらの雑誌
【手塚治虫文化賞20周年記念MOOK】マンガのDNA ―マンガの神様の意思を継ぐ者たち―に掲載されておりますインタビュー記事を参考に
今回はご紹介してまいります。
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まずはズバリ!
鳥嶋さんは、手塚治虫先生をどう評しているのか?
鳥嶋さんいわく、、、、
手塚治虫は「マンガ界のエジソン」。と言っております。
「マンガの発明家だね。手塚さんがコマ割りを発明した結果、
今の日本のマンガがある。
フランスにはバンドデシネがあり、
アメリカにはアメリカンコミックがあるけど、コマ割りはない。
だから動きがないし、スピード感がない。
日本のマンガはコマの展開で動きを一瞬にして見せられる」
上記のコマ割りを見比べれば一目瞭然。
日本の漫画と海外の漫画の差をコマ割りであると同時にコマ割りを発明した手塚治虫を「マンガ界のエジソン」と評しております。
手塚治虫の功績は日本漫画発展の歴史に大きく関与していることを
絶賛しておられるんですね。
いや~。素晴らしい、さすがです。
当たり前ではありますが、やはり素人よりマンガの事を熟知しておられますし日本漫画の歴史の事も、読者の好みも知っていて、常に現場の最前線にいた伝説的な編集者が語る手塚治虫像は説得力が増します。
しかし。
実は鳥嶋さん。
集英社に入社し、「週刊少年ジャンプ」のマンガ編集者になるまで、
「マンガは嫌いだから」と言ってマンガをほとんど読んでいなかったそうなんです(えーーーーーーーーーーーー!)
しかも「ジャンプ」は嫌いだったと爆弾発言も飛び出しています(笑)
ジャンプ編集部に配属されたとき
「人気があると思う漫画を並べてみろ」と言われて、
並べてみたら真逆だったという逸話が残っているくらい
マンガの事を知らなかったそうなのです。
でも職業のプロになるという事は、まずはそこを補正しなきゃいけないと思い会社にある資料室にあるマンガを片っ端から読んでいったそうです。
そこで
「ジャンプ以外の雑誌には面白い漫画がたくさんあった」とまたも爆弾発言
「とにかくたくさん読んで、
読みやすいマンガだけを残していったら、
手塚さんとちばてつやさんだけが残った」と述べておられます。
手塚治虫とちばてつや。
二人を比較すると「ストーリーを描きたい手塚治虫」と
「キャラクターを描きたいちばてつや」になると分析
そして
そのストーリーを、手塚先生は最も効果的なコマ割りで見せていくと…。
「コマ割りがものすごく利にかなっていてうまいんだよねえ。
今のマンガって1ページ3コマとか、1コマだけとか、
大きい絵で見せるものが多いんだけど、
手塚さんは基本的に1ページ6コマとか8コマで割っている。
だから1話あたりの情報の濃縮度がすごいんだよね。
あのページ数で、1話完結で毎回描けるっていうのはやっぱり超人だよ
『ブラック・ジャック』とか、僕は好きではないんだけれど(笑)」
とまたも爆弾発言…。
言葉を飾ることなく遠慮なく率直に意見を述べることで有名な鳥嶋さんらしいコメントです。
続けて
「手塚さんのコマ割りはストーリー展開の「理屈」に沿ってるけど、
ちばてつやのそれは読者の「感情」に沿ってるんだよ。」
とコメント。
まさにその通り。
手塚治虫が考案した手塚スターシステムも、手塚治虫が創造したストーリーの上に成り立つ仕組みでありキャラクターはあくまでもストーリーを演じる役者という考え方です。キャラ主導ではなくストーリー主体。
なので手塚作品はリメイクとかアレンジが非常に難しい。
ドラえもんなどのようにキャラクター主導のマンガは
原作は誰が描いてもドラえもんになっちゃうような構成ですが
反対に手塚漫画は
手塚治虫が創造するストーリーがないと成立できません。
これは良くも悪くも手塚マンガの最大のポイントと言えます。
…で鳥嶋さん自身がキャラクター主導主義の考え方なので
これにより
後の漫画界におけるヒット作の仕組みは、ほとんどがキャラクター主導主義になっていくわけなのですが…
まぁこれはしょうがない流れだと思いますね。
強烈なキャラクターさえ作ってしまえば
後は勝手にストーリーが動き出す手法の方が、作家個人に依存しなくて済みますしジャンプおなじみのアンケート方式による瞬間風速的な人気を獲得しやすいメリットもあります。
乱暴な物言いになりますけど
その方が出版社にとって都合のいいマンガなんですよね。
プラットフォームさえあれば永遠に継続できちゃいますから。
なので手塚マンガもキャラクター主導タイプの漫画であったなら
現代において、もっと普及していたと思います。
でもそうするとストーリーの面白さが際立たなくなりますし
どっちがいいか悪いかは正直分かりません。
ただ一つ言えることは
鳥山先生における鳥嶋さんとか
宮崎駿さんと鈴木敏夫さんのような
手塚先生の横に優秀なプロデューサーが存在していたなら
また違った景色が見えただろうなぁ…って夢は膨らんでしまいます。
でも…絶対に言うこと聞かないと思うので
やっぱりあまり存在意味ないかもしれませんね(笑)
とにかく鳥嶋さんは
「漫画の歴史において手塚治虫さんとちばてつやさんは「別格」。
それは僕の中ではかなり確信を持って言えることですね。」
と最大級のコメントを残しています。
そして育て上げた鳥山先生のことを
「鳥山明さんだって、
あくまでもそうした作家たちの積み重ねの上に成立した、
“偉大なるアレンジャー”でしかない。
実際、『Dr.スランプ』は『ドラえもん』と『鉄腕アトム』、
『ドラゴンボール』は『里見八犬伝』と『未来少年コナン』の変形でしょ。」
…とあの歴史的マンガですら
偉大なる先人たちのおかげであると言い放っています。
これはなかなかに痺れるコメントです。
鳥嶋さんでなければ言えないコメントなんじゃないですかね。
そもそも作家には「描きたいもの」と「描けるもの」があるんだよ。
と語っており作家が「描きたいもの」は大体コピーなの。
とズバリ!
編集視点の辛口コメントを残しておられます。
「鳥山明さんであればアメコミっぽい作風だとか、
そういうものが「描きたいもの」としてあったけど、
そこからヒット作はやっぱり出てこないんです。」
と編集者としての作家との関わり合いについても言及しておられます。
そして
「実際、鳥山さん自身の「描きたいもの」は、申し訳ないけどつまらないんですよ(笑)。まあ、ストーリーテラーという人でも実はないからね。」
と作家の創作の原点について鋭く分析しておられました。
作家のオリジナリティについては
「そりゃ新しいものは常に尖ってるよね。
彼らは異形の存在であって、万人が手に取れるようなものじゃない。
「天才」級のクリエイターって、尖った人間たち」 であると語り
「まあ、カルピスの原液は飲めないけど、
薄めれば飲めるみたいな話といえば、わかりやすいかな。」
と編集者の役割をカルピスと水とのバランスに例え
編集者の仕事とは作家の尖った才能を一般の飲みやすいレベルにまで薄めることと表現しておられました。
言い得て妙ですね。
そして手塚先生のオリジナリティにはこう述べております。
「この人にかしか描けないというオリジナリティにはものすごく厳しい人
新しさがないっていう言い方をしていた…。
漫画家としては本当に天才と呼ぶにふさわしい人だけど
人間的には難しい人だった(笑)
嫉妬深いしね、だって大友克洋さんのことも認めなかったでしょう。」
と、ここでも鳥嶋節炸裂
それでも
「手塚さんは新しいものに対しての好奇心と嫉妬が常にあった
それが現役でいられることの原動力だったんだと思う。」
と締めており、手塚先生の類まれなる創作意欲こそ
一線級で活躍できた原動力であり、パイオニアであることのプライド
常に一番でなければ気が済まない猛烈な負けず嫌いと
新人であれ新しいものには容赦なく嫉妬する心こそが
創作の意欲に繋がっていたと分析しておられました。
まさにその通りで本当に的確にその人物像を見ていますよね。
まぁ手塚先生の嫉妬は恨みとか憎むとかそういう類の感情ではなく
認めているということの裏返しで
手塚流の最大級の賛辞ではあるんですけどね(笑)
そして最後に伝説の編集者として
ビッグヒットを生む最大のコツも公開しております。
それは非常に簡単なことであると鳥嶋さんは言っております。
それは
「下手な鉄砲、数打ちゃ当たるですよ。これに尽きるんだね。」
…と、以外にも数の暴力発言。
いかに多く打席に立つか、バットを振り続けるか。
継続することが最も大事だと言ってるわけです。
これぞまさに「手塚治虫」です。
通算15万枚という他を寄せ付けない圧倒的なまでの原稿量、
名作も多いけど駄作もめちゃくちゃ多いですから(笑)
伝説の編集者が語る、名作を生み出す秘訣は小手先のテクニックなんかではなく根性論のような情熱、衝動のような精神論に最終的には行き着くのが面白いですよね。
この記事を読んで感じたのは
鳥嶋さんとは非常に論理的で明快、現代風の感覚の持ち主かと思いきや
とてもクラシックで基本に忠実な方でありました。
型破りな面もあるんですけど
やはりマンガの在り方というものを常に考えておられ
現代の新人マンガはマンガの形をしているだけでマンガではないと
辛口なコメントを残しつつ新しい何か
そこに関わる何かをやっていきたいと思うと述べておられました。
というわけで今回は「伝説の編集者が語る手塚治虫」をお届けしました。
こちらは
【手塚治虫文化賞20周年記念MOOK】マンガのDNA ―マンガの神様の意思を継ぐ者たち―のインタヴュー記事を参考にさせていただきましたので興味がある方はどうぞ読んでみてください。
本書は
手塚治虫文化賞歴代授賞者の方々による「手塚治虫トリビュート作品集」となっております。
キングダムの原先生、岩明均先生、村上もとか先生、松本大洋先生など
総勢25人もの受賞作家それぞれが手塚先生への思いをマンガ化されている雑誌になっております。
日本漫画史において手塚先生の影響を全く受けずに漫画を描いている人はいないとも思わせるまさしく漫画のDNAを感じさせてくれる描き下ろし漫画数々は読んでおいて損はないと思います。
そしてご紹介した鳥嶋さんのインタヴュー記事に加え
あの鈴木敏夫さんのインタビュー記事も収録されております。
手塚先生と宮崎駿先生との違いなんかも非常に読み応えのある記事になっておりますのでぜひご覧になってみてください。
ではまた!
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