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手塚治虫の後継者は…鳥山明である
今回は「手塚治虫の後継者」をお届けいたします。
いきなりですが…
手塚治虫の後継者と言えば、誰を思い浮かべるでしょうか。
石ノ森章太郎先生、藤子不二雄先生、大友克洋先生、浦沢直樹先生など
数々の候補が挙がると思いますが
ボクは…
鳥山明先生ではないかと思っております。
これについては予めお断りしておきますが
賛否両論あるのは重々分かっております。
あくまでもボク個人の主観に基づいての見解となりますが
その理由を今回はガッツリ解説していきますので
ぜひ最後までご覧になってみてください。
そして鳥山先生を育てた伝説の編集者マシリトでおなじみの
「鳥嶋和彦が語る手塚治虫」の記事も併せてご覧になって頂けますとよりお楽しみいただけると思いますのでこちらもぜひご覧になってみてください
(自分で言うのもなんですがめちゃくちゃ面白い記事です ↓ )
それではいってみましょう。
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まず「後継者」の定義ですが
文字通り「後を継ぐ」という意味になります。
じゃあ何の「後を継いでいる」のかが主題になるのですが
「画風」「作風」「社会への影響」の3点に絞って
検証してみたいと思います。
それぞれを簡単に定義しておきますと
「画風」とは、イラスト、絵のタッチのこと
「作風」とは、メインターゲット、マンガのスタイル(ギャグ)
「社会への影響」とは、実績、認知度、業界への影響力
として定義していきます。
ですので「ストーリー」や「メッセージ性」と言った小難しいものは
後継者の対象としておりませんし
これらを含め他の要素を検証しだすとキリがないですし、
物凄い枝葉が派生してしまうので
あえて定義しておりませんのでご了承ください。
今一度、念を押しておきますがあくまでも上記の3点に絞り
「後継者の定義」としておりますのでご注意くださいませ。
それでは詳しく見ていきましょう。
①「画風」
まずは画風についてですが
「シンプルで誰でもマネできること」ではないでしょうか。
…というかマネしたくなる。
無性に描きたくなるといった表現が正しいかと思います。
手塚マンガと言えば当時は誰もがマネをして
多くの子供たちがひたすらにその画を描いていました。
漫画家の中でも手塚クローンが増殖し日本中を席捲するほど
若き漫画家たちはみんな手塚タッチに憧れました。
ご存じ藤子先生、石ノ森先生の初期の頃は、まんま手塚タッチでしたし
あのシュールレアリズムの天才、つげ義春先生ですら手塚タッチでした。
本当に一時期は日本中が手塚タッチの影響下にあったといっても決して過言ではありません。
むしろ戦後の漫画界で手塚タッチに影響を受けていない方が
珍しいくらい手塚治虫の描く画風は大きな衝撃を与えました。
大人から子供まで、素人から玄人まで、親しみやすく誰もがマネしたくなるデザイン、それが手塚治虫が描く絵の魅力だったわけです。
その系譜で見ると
誰でもマネしたくなるデザインと言えば鳥山先生ではないでしょうか。
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多くの読者が一度は学生の頃に『ドラゴンボール』を筆頭に鳥山先生の絵を描いたことがあるのではと思います。
特に鳥山作品の初期の頃などは丸みを帯びていて愛らしく多くの人が模写したくなるデザインでした。
素人だけではなく後のマンガ家も鳥山明っぽい画風が乱立しましたし
とにかく素人も玄人もみんなマネするほど魅力的なデザインが鳥山タッチの特徴と言えます。
そして何より
実際書いてみると意外に難しい。
非常にシンプルな絵柄なので、つい自分でも描けるんじゃないかなって
思っちゃうんですけど描けない…。
これは手塚タッチにも言えるんですけど描けそうで描けないんです。
これぞまさにシンプルが故に洗練された曲線美
完成された美しさを両者は纏っているんです。
事実、鳥山先生は小さい頃に手塚先生を尊敬しており
『鉄腕アトム』に登場するロボットを毎日いたずら描きしていたそうです。
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ひたすらにアトムを描きまくって、描きまくって気づいたことは
「簡単そうでやたら難しい、今思えばこうして絵心がついたと思う」と
手塚タッチに魅了された一人であることを明かしており
多くの人が感じる印象と全く同じ印象をもっていたことが伺えます。
そして鳥山先生の代表作である
『Dr.スランプ』の中にはパロディでアトムが登場しています。
「オボッチャマン」のデザインは『鉄腕アトム』のオマージュだと鳥山先生自身が公言しておられますし、さらに『ドラゴンボール』の孫悟空の髪型も『鉄腕アトム』の影響を受けていることも明かしています。
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そして手塚先生が影響を受けたディズニーのイラストにも影響を受けていますのでルーツが手塚先生と一緒でもあります。
「手塚作品がなければ今のボクはない」
と他の巨匠の先生方と同じくご自身で公言されているように手塚タッチに影響を受けた手塚治虫の系譜であることは間違いありません。
しかし単に手塚の系譜というだけではなく
鳥山先生はさらに、この手塚タッチに革命を起こします。
ここが他のマンガ家さんたちと大きく違うところです。
それは
「骨格ありきのデフォルメスタイル」を完成させたのです。
手塚タッチの源流は手塚先生本人も説明しているように
マンガ的手法がその土台となっています。
「マンガとはなんでもありの世界」
キャラクターは伸びたり縮んだりゴム人間のようなものと語っており
アゴが外れたり目玉が飛び出たり手や足が何本にも見えたり
現実世界では不可能な表現デザインが主流でした。
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ところが鳥山先生はその圧倒的な画力で
手塚タッチを引き継ぎながらも
骨格表現を取り入れました。
これが後の漫画界に凄まじい革命を起こすことになるんです。
手塚先生のマンガ的デフォルメ表現に人体構造、骨格表現
つまりマンガを人体模型的に描いて見せたわけです。
この骨格表現の導入により鳥山タッチはマンガっぽいのに、
やたらリアリティがあるというキャラ特性を生みました。
デフォルメ表現なのにリアルさがあるというこの表現は、
ある種のマンガ革命となり鳥山明の登場以降
マンガのキャラデザインには骨格標本も用いられるほど
今日ではマンガ表現の主流とも言える表現形態となっていきます。
奥歯を初めて描いた漫画家ともいわれていますね。
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これは鳥山先生が元々モデラー、造形師出身だからとも言われており
デザインが造形ありきなので立体的で、歪みが無い。
彫刻的なデザインなのでどんなにデフォルメされていても均整がとれているんですよね。鳥山先生のデザインに美しさや心地よさを感じてしまうのも人間が感覚的に感じる平衡感覚を持ち合わせているからなのでしょう。
どうですかコレ。見てください。
めちゃくちゃうまくないですか。
これぞ鳥山明の描くデザイン。
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これだけ崩して描いているけど整合性が取れているという恐ろしい技術
見とれてしまうほどのデザインセンスです。
事実、数々の著名人たちが鳥山先生の作風を賞賛、嫉妬するコメントが
ネット上に溢れているのでぜひ探してみてください。
これによって誰にでも受け入れられるシンプルなイラストながら
シリアスなマンガ表現もできてしまうという恐ろしい技法を確立させます。
おそらくご本人は全く意識していないでしょうけど
これは後に続くマンガ表現の幅を大きく塗り替えてしまった偉業であると言えます。
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ちょっと余談になりますが
鳥山先生の後継と言われている『ワンピース』の尾田先生は
骨格デザインを継承しながらも手塚流のゴム人間を描いてヒットしているというハイブリッドな作風なのはどこかシンクロニシティ的な系譜を感じてしまうのはボクだけでしょうか…。
というわけで
手塚タッチを源流としている鳥山先生の「画風」においては
単なる絵が上手いだけではない
手塚治虫の系譜を受け継いだ後継者のひとりであると言えると思います。
②「作風」
これはメインターゲットとマンガの在り方という点になりますが
手塚治虫と言えば非常に幅広いジャンルを描いた作家でもあります。
その中でもメインターゲットであったのは児童向け漫画でした。
時代の違いもありますが
少年誌、青年誌、主に小学生から中学、高校生くらいまでがメインです。
これは前人未踏の週刊誌650万部以上を発行した週刊少年ジャンプで看板を背負っていた鳥山先生もドンピシャのターゲットになります。
今でこそマンガは大人も読むものとして認知されていますが
やはりマンガのメインターゲット層は少年誌でしょう。
そしてマンガのスタイルですが
手塚作品の特徴はアクセントとして「ギャグ」をぶち込んできます。
これには好みが分かれますが、やはり子供たちをメインに据えると
ギャグが非常に効果的な表現方法になります。
くだらないギャグでも子供には非常に有効。
ダジャレや流行の言葉や話題、意味不明なキャラクターやセリフ、ギャグ、パロディ、そしてちょっとエッチな表現
これらはもう手塚マンガの王道中の王道技法です。
そしてこれらの手法は、そのまま鳥山マンガにも当てはまります。
ここら辺は『Dr.スランプ』には顕著に表れていて
ギャグありパロディあり、そして鳥山先生の好みの
スターウォーズやスーパーマンなど当時の流行りものが随所に散りばめられ
この辺りも非常に手塚治虫の系譜の香りが感じられます。
(手塚作品も時事ネタや流行りものがめちゃくちゃ出てくる)
なによりすごいのは鳥山明の描くお色気ですね。
「パンテイ」とか「ぱふぱふ」とか下品なんですけど全然エロくない
「ぱふぱふ」って冷静に考えると結構エロいですよね
女性の胸の谷間に顔をうずめて喜ぶってどんなマンガなんですか(笑)
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こういう
さらりとエロい表現をさらりと加えてくるあたり
エロ手塚の系譜を受け継いでいると言えるんじゃないでしょうか。
日本初の「キスシーン」や「性教育マンガ」を少年誌で描いた手塚先生
インターネットもない時代
誰もがエッチなものに手が届かない時代に
思春期の男の子のくすぐるエロ表現
知らない人には以外かも知れませんが手塚治虫がド変態がつくほどにエロい表現を追求した漫画家であったことを付け加えておきます。
ここにもお二人の共通点があると言えますので詳しくは下記の過去記事で。
そして「擬人化キャラクター」、これもすごい。
人間ではない擬人化した動物キャラクターが多いのも両作品の特徴です。
手塚先生の描く動物キャラは天下一品の国宝級。
これはもはや名人芸の域にあります。
手塚治虫ほど精密に、
そして愛らしく動物キャラを描ける作家は見たことがありません。
これは断言して言えますが
手塚先生より絵が上手い作家はたくさんいますけど
手塚先生より可愛い動物の擬人化キャラを描く作家さんは未だ見たことがありません。
あくまでもデザインという個人的主観論を含んでいるとはいえ
それでもやはり手塚先生は別格だと思います。
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その系譜を唯一感じられるのが鳥山先生くらいではないでしょうか。
鳥山先生の描く世界観には独特の擬人化キャラが多く登場しますが
卓越したデザインセンスでその作風の世界観に
違和感なく見事に溶け込んでいます。
有名なところでいえば「ドラゴンクエスト」シリーズにおける
モンスターの枠を越えた擬人化キャラ。
これはもはや説明不要でしょう。
その圧倒的なデザインは多くの人を魅了しました。
この「作風」においても
マンガのスタイル、キャラクターデザイン
いづれも手塚治虫の後継と見た場合、鳥山先生以外には見当たりません。
「児童向け」「ギャグ」「パロディ」「エロ」「擬人化キャラ」
比類する漫画家は鳥山明先生が群を抜いていると思います。
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③「社会への影響」
これは純粋に社会に与えた影響と認知度、数字。
まずは社会に与えたインパクトとしてはTVアニメでしょう。
『鉄腕アトム』は日本初のTVアニメとして製作され
平均視聴率は27.4%、最高視聴率は40.3%を叩き出し
そして週刊アニメという今のTVアニメ放送の礎を築いた
まさに伝説のアニメとして後世に語り継がれることになります。
ちなみにこの時の最高視聴率は40.3%は歴代アニメ視聴率で1位の記録であり文字通り社会現象アニメとして日本アニメ史に残る偉業を打ち立てました。
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一方鳥山先生も
『Dr.スランプ アラレちゃん』で
平均視聴率22.7%、最高視聴率となる36.9%という
ジャンプアニメ歴代1位の視聴率を記録
空前のアラレちゃんブームでこちらも社会現象を起こしました。
なによりこの2つのアニメの凄まじいところは
キャラクター玩具や関連商品が爆発的に売れ、
「メディアミックス」の先駆け的な存在になったことであります。
メディアミックスとは
マンガ原作に留まらずアニメ、映画、ゲームなど複数のメディアを組み合わせることにより相乗効果で認知度を高めるマーケティングのことで今では当たり前の手法ですが当時はそこまで普及していませんでした。
特に『鉄腕アトム』は凄まじく明治のマーブルチョコのパッケージにアトムを印刷して、おまけとしてシールを入れて販売したところ、これが信じられないくらいの爆発的にヒットを炸裂させました。
ちなみに年間3億個が売れたそうで、これはもはや異次元の数値です。
3億ですよ。3億!
そしてキャンペーンの応募には900万通を超える応募があり日本全国の郵便局がパンクしたという伝説もあり大阪高槻にある明治の大阪工場はこのアトムのために作ったともいわれております。
まさに『鉄腕アトム』はメディアミックスの先駆け的存在となりました。
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一方の『Dr.スランプ アラレちゃん』も
キャラクター商品はシリーズ通して空前の売上げを記録。
ブームのピーク時の文具店では売上の50%以上を占めることもあったという盛況ぶりで集英社の業績にも大きく影響を与えたと言われています。
参考までに直近では『鬼滅の刃』現象が記憶に新しいですが、その社会現象よりも大きな影響があったと思えば分かりやすいかと思います。
そして商品化権収入というビジネスモデルはこれまでにも存在していましたが日本漫画におけるメディアミックスは
『鉄腕アトム』でインフラ整備をして、
『Dr.スランプ アラレちゃん』で完成されたと言っても大袈裟ではないくらいビジネス界にも大きな影響を与えました。
まさに今日のメディアミックスの系譜であると言えます。
ちなみにキャラクターにロイヤリティをつける版権ビジネスは
手塚治虫が最初と言われております。
(こちらチェイサーでも紹介されていますのでどうぞ。めちゃ面白いです)
…以上、大きくザックリではありますが要点を3点に絞って
手塚治虫の後継者の理由を見て参りました。
本当は掘り下げるとまだまだ共通点があります。
キャラクターデザインが丸が基本とか
モブシーンを描くとか
ネームを描かないとか…
マジでめちゃくちゃあるんですけど
これを最後に補足として付け加えておきます。
手塚先生はマンガ以外でも数々のキャラクターデザインをしていました。
企業のキャラクターやイラスト、イベントなど、ここではとてもすべて紹介しきれないくらい数多くのデザインをしています。
その中でも有名なものでいえば
プロ野球の「埼玉西武ライオンズ」のマスコットキャラクターのレオ。
あれは『ジャングル大帝』のレオですしヤクルトスワローズの前身であるサンケイ球団のマスコットキャラは『鉄腕アトム』でした。(案外知らない人が多い)
とにかく国民的なキャラクターやデザインを多く手掛け
文字通り日本を代表するデザイナーとして活躍されていました。
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一方の鳥山先生も先にも触れました『ドラゴンクエスト』など本業以外でのデザインも多く担当されていましたね。
本当に挙げるとキリがないくらい
鳥山先生は手塚治虫の後継者であると言えるのではないかと思います。
なによりですね。
手塚先生自身が鳥山先生のことをこう評しております。
「ちょっと上手すぎるよね」「彼は僕の後継者」
とはっきりとご自身で後継者発言しておられます。
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たとえこの発言がリップサービスであったとしても
手塚先生が審査委員長を務めていた「手塚賞」の審査員に鳥山先生を直々に選んでおりますのでかなり意識していた事は間違いないでしょう。
鳥山先生の『ドラゴンボール』だけを見てしまうと
どうしても手塚治虫の後継者というにはちょっと無理があると思います。
普通に考えれば石ノ森章太郎先生や藤子・F・不二雄先生の方が後継者と言った方が一般的であると思いますけれども
今回は「鳥山明」先生が手塚先生の後継者たる理由にスポットを当てて
掘り下げてみました。
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皆さんの想い想いの後継者像もあろうかと思います。
あくまでも手塚先生の発言とボクの主観を含めた選定となっておりますので
参考程度に楽しんで頂ければ幸いでございます。
ぜひみなさんのご意見、ご感想もお待ちしております。
ありがとうございました。