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【手塚治虫漫画全集】全巻紹介 第11弾!264巻~269巻編

手塚治虫と言えば
ギネスブックにも載るほど膨大な数の作品を残している作家であります。
だから「名前は知っているけど何を読んでいいのか分からない」と言う方も多いと思いますし、ファンの方でも全部読んでいる方は少ないと思います。
そこでこの【note】では講談社発行の手塚治虫漫画全集をベースに
手塚作品をガイド的に紹介しています。

手塚治虫漫画全集は全400巻あり、今回はその第11弾!

264巻~269巻までのご紹介となります。
それでは本編をお楽しみください。


「空気の底」

1968-1970
「空気の底」というシリーズタイトルは、地球の表面、
つまり空気の底にへばりついて生きる人間を意味しているそうです。
地上にへばりつき、私利私欲にまみれてうごめく人間たち。
そんなちっぽけな人間の欲望や絶望を風刺の効いた手塚表現で描かれた短編シリーズと言えます。

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個人的には全部面白いですね
SFやホラー、サスペンスなど様々なジャンルで描かれており
どれもラストにドキっとさせるものが含まれているんですけど
その中でも2つご紹介しましょう

「ロバンナよ」1970年作
この表紙の画になっている作品です
女性の裸を見つめるロバってシュールすぎるやん。

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でもこれちゃんと意味があるんですよ。
この作品は手塚先生自身が主人公です。友人の小栗を訪ねた手塚先生。

その晩泊まった先生は友人の奥さんが夜中にいきなり
飼っていたロバを殺そうとするのを目撃
それを止める手塚先生、
聞くと「主人は私よりロバを愛しているから」という。
小栗は動物の方が好きな異常な変態だと言うのです。

反対に奥さんに首輪をして獣のように扱われもう耐えられない。
だからロバを殺したいと…。
確かに小栗はロバを死ぬほど可愛がっていた。
友人の小栗は変態だったのか?

しかし
実際は小栗は物質転送の研究をしていて、
ロバと妻を間違えて転送してしまい
妻とロバの意識だけが入れ替わってしまったのだという。

そこに奥さんが現れ「主人の言ってることはすべてウソ!」
「自分の変態を隠すためにウソを言っている」
と発狂する。

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気が狂いそうになる展開ですが
最後は誰が狂っているのか分からなくなってきます。

あの蠅男「ザ・フライ」に似た作品ですが
先生は相当のSF映画を見ていた方なのでおそらくオマージュでしょう、

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手塚流のアレンジがロバと裸体ですからね。
まさに狂気と言える作品です(笑)


「ふたりは空気の底に」
核戦争で死の灰が降る未来では
ユニットカプセルなるもので生活している男女2人の赤ちゃん。
2人はずっとカプセル内で暮らし学習ビデオを観て社会を学んでいくんですが思春期には恋に目覚め性を意識するようになります。

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学習ビデオの映像にはラブシーンがあり、生々しい映像が映し出される
マンガでも実際に本物のエロ写真が貼り付けられててちょっとビビります。
映像を見た2人は抑えられない性欲を発散するように抱き合い
永遠に愛し合うようになっていきます。

窓の外を見て結婚して外に出ようと誓いあう2人
空気の淀んだ外の世界では生きられず
「もっと生きたい」と願うも徐々に空気がなくなっていきます。

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「今度生まれるなら、こんな濁った空気の底じゃなくて、
あの広い星の世界のどこかに住みたいねぇ…」

といって死んでいく様は
悲劇的な結末なんですがどこか美しさを感じさせてくれます。

核戦争後の地球で、自動生命維持装置だけで
赤ん坊から大人に成長したふたりの男女の悲劇
精神の浄化、満足、カタルシスって一体なんなんだろうと
考えさせられる一作。

全編に渡り
社会風刺に文明批判的なテーマが盛り込まれているのはその時の時代状況の反映といえますね
後味の悪い救いようのない話ばかりだけど
改めて手塚治虫の凄さが認識できる短編集となっています


「火の山」

こちらも手塚治虫お得意の短編集です。
これまたダークなものが多いんですけど
この頃のお約束としてベッドシーンと悲壮な結末はセットになっていますねそういう大人向けの作品だということでしょう。


「ペーター・キュルテンの記録」
舞台はドイツ、女性の連続絞殺・屍姦事件に市民が怯えていた容疑で浮かび上がった1人の男、しかし彼は人々の尊敬を得ていた男でした。
公判で彼の裏の顔が明らかにされていくと
実は残忍かつ異常な性癖の持ち主で
性的快楽を目的とした凄まじいまでの殺人鬼だったというお話。

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これは
20世紀初頭、ドイツの連続強姦殺人犯ペーター・キュルテンを描いた実録漫画です。
キュルテンといえばデュッセルドルフの吸血鬼と呼ばれ
近代シリアルキラーの原点とも言われた凶悪殺人鬼
約80件の犯罪を自白し、
9件の殺人と7件の殺人未遂の罪で起訴され処刑された男です。

あとがきに
鶴見俊輔氏の著作に記載の実話に基づく作品とありますが
コマ割り構図などはまさに映画のようなコマの運びを感じます。
おそらく1931年製作のドイツの映画。
『M』も参考にしているんじゃないですかね
というより映画好きの手塚先生はこれを観てこういうの描きたいと思ったんじゃないかな。
この『M』はサイコスリラー映画の始祖と呼ばれたフリッツ・ラング監督作品、先生なら間違いなく見てると思いますし少なからず要素を取り入れいていると思います。

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そして狂気を描きながらも、
不謹慎ながらどこか美しさを感じてしまうんです。
これはおそらく犯罪者の美学を描いているからだと思うんですけど
単なる殺戮ものではなく非常に何か哲学性を感じられる作風です。
これには
ジョジョの4部に出てくる吉良吉影のような感じがボクはするんですけど
もしかしたら荒木先生もこれを参考にしているのかも知れませんね
秀逸な短編となっていますのでぜひ読んでみてください

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「火の山」
表題作です
郵便局長でありながら、
昭和新山を観測しつづけた三松正夫(みまつ まさお)さんの半生を描いた伝記マンガです。
昭和新山誕生の見届け人であり昭和新山の史実に添って描かれています。

しかし
もう一人の主人公ともいえる井上さんの破天荒さの方が強烈すぎて
三松さんの影が薄いですね(笑)
悪者なんだけど根は優しいお人よしの井上さん
一方、真面目だけが取り柄の愚直な三松さん
どちらも激動の昭和初期を生き抜いた男の象徴ともいえる姿をあえて対比で描いているのが素晴らしい。

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タイプは違えどいずれも時代に翻弄された生き様があり、
徐々にお互いのドラマが交錯していく
最後は国と戦い自然を守り死んでいった三松さん
一方
若者の車にひき逃げされてあっけなく死んでしまう井上さん
どちらにもヒーローのような結末はなく
何事もなかったかのように日常が訪れるラストシーンは
恐ろしいくらいに静けさを感じさせてくれます。


「魔神ガロン」


「やけっぱちのマリア」


1970年作
奇想天外な性教育学園マンガです。


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暴れん坊の男子中学生・ヤケッパチこと「やけのやはち」がいきなり妊娠したところから始まります。
妊娠といっても男なので妊娠しないんですが
ヤケッパチは真剣に悩むんです。

子どもはどこから生まれてくるのか?
男はなぜ子を産めないのか?

と、学校の先生に聞いてもはぐらかされるばかり…。

そんなヤケッパチがある日、子を産みます。
といっても産めるわけもなく
口からエクトプラズムを吐き出しそれが霊魂、霊体となって目の前に現れるんです、、、、、ですが
型(身体)がないの代わりに親父のダッチワイフのボディを使い生活するというもの。
凄まじい設定です(笑)
親父が何気なく「わしの使え」ってダッチワイフを渡すのもすごいですが…

この作品は一般的には性教育マンガのはしりと言われており
とんでも設定の中にも性教育問題を説教臭くなくあっさり描いています。

「なんで裸は恥ずかしいの?」「なんでおっぱいは大きくなるの?」
「Hな気分ってなに?」「恋ってなに?」

という思春期に抱える悩みをさらりと描いているので
小中学生のお子さんにはちょうどいいんじゃないでしょうか。

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ボクも学生の頃にこれを読んでドキドキしたのを覚えています。
今の子たちはスマホの普及で簡単にエッチなものにアクセスできちゃうんで
こういうものに触れる機会が減ってきているのは
少し残念な気がしますね。 

この作品について、あとがきで先生が駄作といっていますが
これは1970年当時
マンガそのものが社会的に認知されつつあり
過激な性描写がマンガ表現のひとつとして過激化してきたことに嘆き

「やけっぱち」で書いたためタイトルにその心情を埋め込んだそうです

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これまで少年誌では性描写はタブーとして神経質に扱ってきたものが
簡単に破られ今までの書きたくても書けなかった苦労なんかお前たちにわかるもんか!
とやけっぱちになったそうです。

やけっぱちの駄作のわりに
しっかりと性の問題に向き合っているのはさすがの一言です。

今回はここまで。

次回第12弾はこちら


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