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二十歳のころ 第三十二章

僕はダーウィンに戻った理由は一つあった。オーストラリアに来たら訪ねてみたい場所がいくつかあった。エアーズロックも無論そうだ。グレートバリアリーフ。グレートオーシャンロード、サーファーズパラダイス。シドニー。その候補の中でカカドゥナショナルパークを僕は訪れてみたかった。日本にいる時僕はアウトバックの世界に憧れていた。それ故野生のクロコダイルを見ることが出来るカカドゥナショナルパークは外せなかった。
僕はダーウィンに戻り、早速二泊三日のカカドゥナショナルパークのツアーを申し込んだ。
ツアーの当日になる。僕はユースホステルからツアーのバスに乗った。ツアーの参加者は欧米から来た旅行者十四五人で構成されていた。アジア系は僕だけであった。僕の年齢を下限とし上は三十代ぐらいまでである。自然に参加者同士お互いに話しかけツアーを盛り上げていこうという気風があった。
初日僕らはクロコダイルを見にいくため川に行った。天気はよどんでいる。大自然を探索するという気持ちがいよいよと高まってくる。川にはモーター付きのボートが何艘かあった。ガイドは三人一組になってモーター付のボートに乗るようにと案内した。僕らはモーター付きのボートの運転の仕方を教えてもらう。僕はモーターのエンジンをかけ、川を自由自在に駆け巡る。風は気持ちよくとても爽快だ。
「運転上手いわね。以前に運転していたことあるの?」
「いや。初めてだよ。」
僕はツアー仲間に褒められとても気を良くする。ガイドの案内でクロコダイルを次々と発見する。川には大きな鷲も飛んでいる。僕らはクロコダイルの探索を十分に楽しんだ。自然を楽しむという事柄か言葉はそれほど必要としない。僕はツアー仲間と一言二言話すことで次第に打ち解けていった。
僕らはカカドゥナショナルパーク内のロッジへ向かった。僕らはロッジに到着して休息を取るとバーベキューを皆で楽しんだ。クロコダイル、カンガルー、エミュー、バッファローと普段口にしない肉を味わった。お酒も入り、ツアー仲間同士のお互いの距離が縮まっていった。
自然と親しくなったのは男性ではノルウェーから来た三人組だった。彼らは幼馴じみ同士で同じ街に住み、一緒にオーストラリアを周って来たという。僕はそんな彼らを羨ましく思った。幼馴じみ同士一緒に旅をすることは素晴らしいことのように僕には思えた。僕は日本を一緒に周るという友だちはいた。しかし僕には海外を長期間一緒に周るという友人はいなかった。僕は一人旅をしている時、もしあいつがいたなら旅は面白かっただろうという想いを何度か抱くことがあったからだ。気心知れた友だちと一緒に旅をしたら僕の旅は変わっていたかもしれないと思っていた。
女性ではオランダから来た看護婦と美容師の幼馴じみの二人組。そして僕と同じ一人旅の境遇のアメリカから来た大学生と会話するようになった。僕には珍しく自分から彼女らに積極的に声をかけた。僕の憧れのタイプの女性だったからだ。すらっと背が高く、脚もすごく長い。美人である。となると仲良くなりたいという気持ちが全面に出て態度に表れる。何を話しているのか聞きたい。彼女らと何でもいいから喋りたい。そんな僕の想いが届いたのか彼女らは姉さん的な態度に変化した。彼女らは母国語の挨拶を教えてくれた。彼女らの旅の経緯を話しくれた。また彼女らの母国の生活も話してくれた。
僕は今まで話し相手が英語で喋ってくると何を言っているのかほとんどわからなかった。ところが今回のツアーで僕は英語を微かながら少しずつ理解できるようになった。僕は心から相手と意思疎通したいと思うと不思議と普段にない力が出て何とかなるもんだなぁと思った。

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