二十歳のころ 第三十六章

僕は住所を確かめながらケアンズの町外れにあるヨットクラブに辿り着く。海上には何艘ものヨットやクルーザーが浮かんでいる。ヨットクラブの施設の扉には会員制とまで注意書きが書いてある。一瞬怯む。とにかくここまで来たのだからと僕は勇気を出して扉を叩き施設内に入った。
扉を開けると受付があり、その奥にはカウンターのバーがありラウンジがある。天井には木製のファンが回っている。内装が木製でまとめられており、温かみがある。どこか落ち着いている雰囲気のためか僕は異なった世界に入り込んでしまったように感じる。品の良さそうな中年のおばさんが対応してくる。
「こんにちは。どうかしましたか?」
「すみません。ユースホステルでクルー募集の張り紙を見てこちらに来ました。キースさんという人です。僕の名前は弘幸です。」
「キースさん。そういえばクルーを募集していましたね。今日はこちらに来る予定にはなっていませんね。明日はここに来ることになっているから明日またいらっしゃい。あなたが来たということを伝えておきます。」
翌日僕はヨットクラブへキースという人物に会いに行く。受付に話をしてみるとまだキースは来ていないと言う。ヨットクラブの扉の前で僕はキースを待っていた。
しばらくすると僕と同じ年頃のアメリカの若者がやってくる。彼も僕と同じようにヨットで航海をしたくてキースを待っていると言う。彼は身丈が小さくどこか少年のような感じがして親近感を抱いた。そして二人でお互いに何も喋らないでヨットクラブの扉の前で座って待っていた。彼もまた僕と同じようにヨットの航海を不安に思っているのだな。そんな気がした。僕らは三十分ほど待つ。ようやくヨットクラブの扉が開く。いかにも海の男らしい風貌をしたキースがヨットクラブから現れた。
「俺がキースだけど。昨日ヨットクラブに君たち来たんだって。残念だけれど今回の募集はもう終わってしまったよ。応募者が来たんだ。でもフランスから来たイーブンが俺と同じようにクルーを探していたよ。彼を訪ねてみるといい。俺からも話しておくよ。」
早速ヨットクラブの掲示板を見るとイーブンが張り紙でクルーを募集していた。
ヨットのクルー一二名募集。
経験不問。
行き先ケアンズからダーウィンへ。
予定の期間。一二週間。
行き先ダーウィンからフランスへ。
予定の期間。六ヶ月。
費用。一日八ドル。
本当に募集している。ケアンズのヨットクラブはいったいどういう所なのだ。ヨットで世界を周っている人が僕の目の前に二人も存在している。
そしてアメリカの若者と僕は恐る恐るヨットクラブの施設の中に入り、イーブンという人物を訪ねてみた。
僕らは受付で少し待つと髭を伸ばしたイーブンが現れる。背丈は高いものもキースと比べると海の荒くれ者というよりはむしろ知的な人のように見える。イーブンはキースの紹介でしょうがないなと照れた表情を浮かべながら航路の説明を始めた。イーブンは英語が喋れないらしくフランス語がわかるヨット仲間に通訳をしてもらう。フランスを出航して大西洋を渡り、アメリカへ。そして南アメリカ大陸の最南端のルートを取り、フィジーへ。そうしてオーストラリアのケアンズに辿り着いたと述べる。
イーブンは話を続けて今日は遅いからまた明日ヨットクラブに来なさいと僕たちに告げた。僕らは承諾をし、ヨットクラブを後にし、ユースホステルに戻った。

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