二十歳のころ 第二十三章
誰が言い出したのかわからない。ブルーム滞在の思い出にレンタカーを借りてブルーム周辺を周ろうという計画が立った。
参加を表明したのは僕と女の子四人であった。バックパッカーズに滞在している男性にも声をかけたのだけれども断られ、参加者は女の子ばかりになった。
僕らはレンタカー屋でジムニーを二台借りた。アウトバックでも走ることが出来る四駆のジムニーだ。僕の役目は運転手だった。僕は英語を話すことがほとんど出来ない。それ故交渉事は英語を話すことができる女の子達に任せた。その代わり僕は運転をする。
長野県に住んでいる時僕は毎日車を運転していた。スーパーマーケットに行く時、定食屋に行く時、何処かへ移動する時、車を運転していた。僕にとってドライブは日常の事であり好きな時間でもあった。
アウトバックを走り、景勝地を訪れる。景勝地は何て事はない。ただの海岸や、海が見える見晴らしの良い高台であった。地図には何とかビーチとか記述されているがとりわけたいしたものでもなかった。
でも僕らは異様にハイテンションでドライブを楽しんでいた。アウトバックで車が砂にはまってしまっても僕らは豪快に笑い、そのハプニングを楽しんだ。何か起こるたびみんなで笑い転げた。僕は普段おとなしい方だと思うけれども女の子達の明るさに巻き込まれた。僕は楽しかった。
夕方になると僕らはレンタカーを返してバックパッカーズに帰宅する。今夜のバスでブルームを発つ女の子もいるという。
僕はブルームに残る女の子と一緒にバスの停留所までお見送りをした。何と説明していいかわからない。ブルームで数日を共有しただけのはずなのに女の子の目に涙がこぼれている。僕も自然とセンチメンタルな気分になる。出会いと別れを繰り返す。これが旅なのか。僕はお見送りをしながら旅というものを何度も自問した。
ブルームに残った僕らはバックパッカーズに戻った。僕のテンションは元に戻り、バックパッカーズのラウンジでうだうだと時間を過ごす。
「今日はありがとう。楽しかった。これお駄賃。マイルドセブンライト。」
「マイルドセブンライト。日本のタバコじゃん。何で持っているの?」
「日本の友達に送ってもらったの。ヒロ、タバコ吸うでしょ。あげる。」
「本当にいいの?」
「今日はお疲れ様。運転疲れたでしょ。」
「ありがとう。日本にいる時マイルドセブンライト吸っていたんだよ。やっぱりタバコは日本が一番だよ。こっちのはきつくて。」
僕は早速マイルドセブンライトのパッケージを開け一本取り出し火をつけた。明日は自分がブルームを出発する。