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二十歳のころ 第四十三章
その晩イーブンはヨットをより前に進めるため夜中も航海をしようと提案してきた。リザードアイランドで余分な日数を費やしたため夜中も航海する必要性が迫られたのだ。
夜中は日中の航海とは異なり貨物船、客船、漁船との衝突を避けるため僕らは気を配らなければならない。またヨットが間違った方向に進んで座礁しないため信号灯に気を配る必要もある。そういった理由でイーブンは夜中に見張りをつけるよう提案をした。夜中に一人二時間おきに交代で見張りをする。何か異常な事があったらイーブンに連絡をする。僕らは新しい取り決めを確認した。
南半球の星空を眺めながら朝陽を迎えるという航海が始まった。夜中も航海することによって距離を稼ぎ、ヨットはフリンダーズグループというポイントに辿り着いた。
フリンダーズグループで朝を迎える。アンカーを上げヨットは出航する。しかし風がほとんど無風でヨットは前に進まない。海面は波も立たず、まるで僕らは湖にいるようだ。潮流の関係もあり何時間かけてもヨットは前に進まない。追い討ちをかけるように太陽は遠慮なく照りつける。僕の体は自然と火照ってくる。自然といらいら感が湧いてくる。
どんな計画を立てようがどんな手段を使おうが風がなければヨットは少しも前に進めないじゃないか。何もできず。ただ指をくわえるだけ。ただ風が吹くのをひたすら待ち続けなければいけない日。こんな日もあるのか・・・大自然の中で人間はやっぱり無力であり、ちっぽけな存在にしかすぎないのだ。
昼間の三時を回るとイーブンと僕らは前に進むことをついに諦め、ヨットを停泊したポイントに移動させた。その晩僕らはいつもより早く就寝し明朝に備えた。
早朝に起床し僕はデッキに出てみる。昨日とは打って変わって風が吹いている。チャンスだ。
「風が吹いている。風が吹いている。」
この機を逃さずアンカーを上げ、帆を張り、フリンダーズグループを出発する。風を受けヨットが前に進むことがこれほど嬉しく感じられる自分に少し驚いていた。