二十歳のころ 第七章
今日の旅の予定はアルバニーを経てエスペランスに辿り着く予定だ。昨日と変わったことと言えばドライブ中にお互いに会話をすることが減ったことだ。昨夜僕はノリコさんに何もしなかった。ノリコさんに嫌われてしまったのかなと僕は一瞬思ったりもした。ま、いいさ。一夜一緒に過ごしたことで僕らはお互いに気を使わなくなっただけと僕は考えた。僕は物思いに耽ったり、何の変化もない荒野を眺めたりした。ノリコさんも僕と似たような感じでリラックスしていた。僕らはダンスミュージックを聞きながら南にハイウェイを車で飛ばした。
昼過ぎにアルバニーに着き、遅めの昼食をCaféで摂った。僕はチーズケーキとコーヒーを頼んだ。味の濃いチーズケーキだった。昼食を済ますと僕らは町を散策した。僕らは二日目も変わらずお互いに写真の撮り合いをした。散策が終わると僕らはドライブを再開した。僕らは時間の許す限り名所を周れるだけ周った。
エスペランスに到着した頃には時計は夜中の十時を回っていた。僕らは昨日泊まったようなMotelを探してみた。しかしどのMotelもNo Vacancyと表示されていた。エスペランスは大きい町ではなかった。町の中心部を車で周るには一時間は十分すぎる時間だった。僕らは堤防沿いの営業しているパブ兼宿を見つけた。僕らは車を降りパブに入った。
ざわざわ。ざわざわ。
オーストラリア人がビールを片手に陽気に騒いでいる。僕とノリコさんはバーテンダーがいるカウンターに向かった。
「泊まる部屋はありますか?」
「いや。空いていないよ。」
「どこか泊まれるホテルを知りませんか?」
「今日はイースタンホリデーだよ。どこも一杯だよ。」
「そうですか。ありがとう。」
僕とノリコさんはこのパブで浮いた存在だった。お酒に酔って陽気に騒いでいるオーストラリア人の中で日本人二人組だ。しかもまだ学生の僕と若い女の子ときている。彼らは僕らをはやしたててきた。ノリコさんは危険を察知して
「ちょっと。やばいわよ。」
「わかった。すぐ出よう。」
ノリコさんは僕の手をつかんだ。僕らは絡みつく視線から逃れるように足早にパブを出た。
僕らは車に戻り、安全そうな静かな海岸線の堤防に移動した。駐車できるスペースがあり、僕は車を止め、提案した。
「今夜は泊る所は諦めてここで眠ることにしよう。もうこんな時間だし、他の町には移動できないよ。それにここまでくれば誰も来ることがないと思うし、安全だと思うよ。」
ノリコさんはしばらく黙っていたが頷いた。僕はエンジンを消し、窓を開けた。潮風が吹いている。
「さっき怖かったね。」
「うん。」
ノリコさんはもうほとんどと言っていいほど口を開かなかった。僕は会話をするのを諦めてゆっくりとシートを倒した。
「じゃあ。寝るね。お休み。」
と僕は挨拶をしたが心に興奮が残っていて寝ることができない。
「寝た?」
僕は尋ねた。
「まだ。」
僕らは何回か同じ問答を繰り返した。