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二十歳のころ 第四章

困った。本当に困った。というのはイースタンホリデーの事だ。イースタンホリデーは日本でいうオーストラリアのゴールデンウィークやお盆にあたる。このイースタンホリデーにハリーさんの家を出た息子たちが一斉に帰省するという。何が問題かというとイースタンホリデーはオーストラリア人にとって家族で過ごすのが一般的な過ごし方だということだ。
僕はイースタンホリデーというものがオーストラリア人にとってどういうものか知らず呑気にのらりくらり過ごしていた。しばらくするとハリーさんとショーンさんが僕にイースタンホリデーに学校のクラスメイトと旅行に行かないのかと熱心に勧めてくる。さすがの僕も異変を感じ、同じ下宿生のスイス人にイースタンホリデーをどう過ごすのかと尋ねてみると語学学校のクラスメイトと旅行に行くという。なるほど。つまり僕さえどこかに行けばハリーさん一家は久しぶりに家族水入らずの時間を過ごすことが出来るのだ。ハリーさん一家の言い分はわかった。でもイースタンホリデーまで残された日にちは少ない。僕はこの問題を何とか解決しなければいけないと感じた。
さっそく語学学校でいつもの英文科専攻の日本人のグループにイースタンホリデーの過ごし方を尋ねてみた。彼らはパースの北にあるモンキーマイアを旅行する計画を立てているという。僕はどうにか自分が参加できないだろうかと尋ねてみた。すると彼らは横に首を振った。僕が語学学校に入学する前から旅行の計画を立てており、ホテルの手配やレンタカーに同乗する人数の関係で途中参加は出来ないという。僕はがっくり肩を落とした。
僕はクラスメイトにイースタンホリデーをどう過ごすのかという質問を投げかけた。旅行に行く人もいたし、家族で過ごすという人もいた。クラスメイトの中の一人のワ―キングホリデーのヴィザでパースに来たノリコさんが特に予定が決まっていないという。
僕はノリコさんに一緒に旅行をしないかと提案した。最初ノリコさんは渋っていた。それも当然だろう。それほど親しくなっていない若い男が若い女に声をかけているのだ。誰でも身構えるのは当たり前だ。僕はホームステイ先における自分の事情を一生懸命説明した。どこに行くのかは僕にとって問題ではない。ハリーさんとショーンさんに笑顔でイースタンホリデーはクラスメイトと旅行に出かけてきますと伝えることが目的なのだ。もちろん目的まではノリコさんには伝えなかったけれども。ノリコさんは一日考える時間が欲しいと僕に告げた。僕は了解し、是非前向きにとお願いした。

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