二十歳のころ 第二十八章

僕らはカヌーを岸辺につける。おじさんとイエンがゴールに無事到着したことをガイドに連絡する。その後三人でキャンプ場の芝生に大の字になって寝転ぶ。青い空を見上げながら共感を求めるように僕は感想を述べた。
「カヌーはもういいよ。もう二度とやりたくないよ。すごく疲れた。」
イエンも
「俺もカヌーはもういい。疲れたー。」
ところがおじさんは
「俺はまたやりたいよ。」
「本当?おじさんはタフな男だな。」
しばらく僕らは三人で芝生の上で寝転び横たわっていた。するとイエンが川でカヌーをやっている人を見つける。僕は目を凝らしてみた。カヌーツアーに誘ったロシアの若者と僕たちの知らない女の子が仲良くカヌーを楽しんでいる。
「カヌーに誘ったロシア人がいるぞ。声かけようか?」
とイエンは言ってくる。僕はロシア人がツアーに参加しなかったことやまた楽なカヌーに逃げやがってと一人腹をたてた。
「ほっとこうぜ。気にしないよ。」
「そうだな。ほっとこう。」
僕らは声をかけず迎えの車を待ち続けた。
迎えの車が来る。ガイドは
「君たち予定よりだいぶ早かったな。楽しかったですか?」
とねぎらいの言葉をかける。僕はとっても疲れたと感想を述べた。僕らは宿泊していたバックパッカーズに帰宅した。
僕はカナララの町を散歩する。よし子さんとあゆみさんにまた出会った。彼女らは僕に興味深そうに尋ねてくる。
「どうだった?面白かったでしょ?」
「すごく疲れたよ。もうカヌーはやりたくないよ。楽しいなんて嘘つきやがって。でも特に問題はなかったよ。」
「私達なんて夕方に到着したのよ。二日目なんてキャンプする場所探しているうちに夜になっちゃって。大変だったんだから。」
しばらく僕は彼女らとお互いのカヌーツアーの苦労話をした。彼女らの話によると二日目は陽が沈んでもカヌーを漕いでいたという。
さすがに暗闇の中で僕はカヌーをしたくはない。ワーホリ仲間で行ったカヌーツアーは僕ら以上にかなりてこずった様子が容易に想像できる。するときつかった僕らのカヌーツアーもなんだか楽しかったものであり、また面白かった事のように思えてくる。カヌーツアーの仲間がイエンやタフなスコットランドのおじさんだから自分は助かったのではないかと意識が変わった。そして異国の人とカヌーを通して貴重な体験を共有できたのは素晴らしいことのように思えた。
その後スコットランドのおじさんと僕は偶然旅行の行程が重なった。おじさんは僕に話しかけ、僕を信頼したのか腰に巻きつけるタイプの貴重品袋の中にある大金のトラベラーズチェックを見せる。
「オーストラリアの旅が終わったら、一緒に世界を周らないか?」
僕はオーストラリアのことしか頭になく、おじさんの申し出を断った。しかし世界を周るという言葉が初めて僕の脳裏にくっきりと焼きついた。世界を周るか。

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