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二十歳のころ 第十四章

エクスマウスでスキューバーダイビングのライセンス取得の講習の生活が始まった。朝、七時に起床する。バックパッカーズで朝食を取り、ダイビングセンターに行く。講義と実技の練習をする。スキューバーダイビングの講習は予想以上に面白かった。実技ではいろいろな魚やイカの群れなどを見ることが出来た。またスキューバーダイビングは機材の使い方等いろいろと学ぶことがあった。知らないことを体験しながら学ぶことは楽しい。
講習後、スーパーマーケットで食料品を買い、バックパッカーズに戻る。簡単で手間のかからない夕食を作り、ビールを飲みながら同部屋のバックパッカーや日本人バックパッカーと話をする。楽しい時間だ。本当に楽しい時間だ。僕が日本で夢見ていたオーストラリアの時間を送っている。僕はオーストラリアに来た幸せを初めて噛みしめた。
エクスマウスのダイビングセンターでは毎日甚平サメの話が話題になった。五月に甚平サメがエクスマウスにやってくる。今がその時期なのだ。毎日、甚平サメが来るとは限らない。甚平サメが来れば甚平サメを見るツアーが催行され、来なければツアーは催行されない。
僕は二回甚平サメを見るツアーに参加した。一回目はツアーが催行されたにもかかわらず甚平サメを見ることが出来なかった。一回目のツアーに一人の日本人のOLが参加していた。彼女は仕事の合間をぬって休暇を取り、甚平サメを見るためだけにエクスマウスに弾丸ツアーを申し込んだという。僕のように時間だけはたっぷりある人はいいが、束の間のバカンスを楽しむ人にとっては大事である。彼女はオーストラリアの滞在を延長出来ない。日本に帰らなければいけないのだ。彼女はウラノさんに散々日本流の文句を言った。しかし自然相手ではどうしようもないのだ。ここはオーストラリアなのだ。彼女は甚平サメを見ることが出来ず泣く泣く帰国した。
三日後、ダイビングセンターに甚平サメがやってきたという情報が入った。セスナを飛ばし、甚平サメのいる位置を船に知らせる。甚平サメを見るためにセスナを飛ばす。本当に金のかかった贅沢な遊びだ。ツアーに参加する料金だって決して安くはない。たしか299ドルだった。前回甚平サメを見ることが出来なかった参加者は100ドル安く今回のツアーに参加できるように設定してもらった。それにしても高い。でも今を逃せばいつ見ることが出来るかわからないのだ。僕はそのチャンスを逃したくはなかった。

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