二十歳のころ 第十七章

僕はエクスマウスを離れ、コーラルベイに足を向けた。珊瑚礁に囲まれたコーラルベイでシュノ―ケリングを楽しもうと考えたのだ。僕はバスを降りた。コーラルベイは小さなリゾート地のようだ。僕はバックパッカーズの宿泊の手続きをした。僕は部屋に行き、荷物の整理をしていると欧米の女性のバックパッカーが部屋に入ってきた。見たところ二十代後半か三十代前半の女性だ。おやと僕は思った。ここのバックパッカーズは女性と相部屋なのか。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「どこから来ましたか?僕の名前はヒロです。日本から来ました。」
「私はヘイケイです。ドイツからやってきました。そこはあなたのベッドですか?」
彼女は僕が座っている二段ベッドの下を指さした。
「そうです。」
ヘイケイは部屋を見回した。この部屋のベッドで空いているベッドは僕の上だけであった。
「私はどうやらあなたの上のベッドで寝ることになるわけね。あなたと私はつまりバンクマイトね。」
「バンクマイト?」
「二段ベッドを共有することをバンクマイトと呼ぶのよ。」
「へぇー。バンクマイトと呼ぶんですか。じゃあ。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
僕は挨拶をそこそこにシュノーケルを持って部屋を出た。何か会話を続けないと思うのだが僕の語彙では一対一で話すのは限界がある。二人きりで会話が続かなくなり気まずくなるのを恐れた。
僕はレセプションに貴重品を預け、ビーチでシュノ―ケリングを楽しんだ。スキューバーダイビングを経験した後なのでシュノ―ケリング自体はあまり感動をしなかったが楽しいことに変わりはなかった。僕はシュノ―ケリングを十分に楽しんだ後バックパッカーズに戻った。
バックパッカーズの屋外にはいくつかのテーブルと椅子がある。そのテーブルでヘイケイが書き物をしている。おそらく手紙だろうか。筆はあまり進んでないようだ。僕は着替えを済まし、ヘイケイに声をかけた。
「楽しんでいますか?」
「ありがとう。楽しんでいるわ。あなたは?」
「今さっきシュノ―ケリングを楽しんできました。手紙ですか?」
「ええ。あなたもそこに立っていないで座ったらどう?」
僕は席に着いた。僕とヘイケイはお互いに話を始めた。ヘイケイの職業は看護婦であった。休暇でオーストラリアに来ているという。僕の拙い話でもヘイケイはよく話を聞いてくれた。僕の語彙が少なくなって喋るのをやめようとすると
「カモン。キープゴーイング。」
と何度も促した。僕は文法や過去形やそう言った類を一切無視し、知っている限りの英語を駆使した。音楽の話をした。旅の事を話した。大学の話をした。友達の事を話した。家族の事を話した。ヘイケイは自分のことをあまり話さず面白そうに僕の話を聞いていた。僕は英会話を頑張った。僕の英語が通じているのか通じていないのかはわからない。自分が何を話しているのかもわからない。とにかく喋って頑張った。少なくとも僕の一生懸命さはヘイケイに通じただろう。話が一区切りし、間が空いた。
「そろそろ晩御飯の時間だね。Take Awayに行って何か買ってこようかと思うんだけどヘイケイも一緒に行きますか?」
「私はまだいいわ。じゃあ。また。」

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