二十歳のころ 第二十六章
翌朝バックパッカーズに迎えの四駆の車が来た。僕ら三人はその車に乗り、カヌーの置き場の倉庫へ向かう。僕らは倉庫に着くと車の後ろにカヌー二台を牽引した。そして上流の岸辺に向かった。
上流に到着するとガイドがカヌーツアーについていろいろと説明を始めた。僕は相変わらず英語を理解できなかった。ガイドは僕が説明を理解していないのが解るとイエンやおじさんにこの日本人は大丈夫なのかと顔を向けた。イエンやおじさんは俺らがいるから大丈夫だと答えた。本当だったら僕もガイドの説明を理解しなければいけないのだろう。しかし僕はただ彼らに付いていけばいいのだと楽観的に考えていた。
ガイドは僕らに簡単な地図を渡す。簡単な絵が描かれている大ざっぱな地図だ。川下りの途中に岸辺の近くで簡単なキャンプができる場所があるようだ。しかし地図の絵だけで本当にキャンプする場所が見つかるのだろうかと、僕は思ってしまう。同じ疑問を感じたのかイエンとおじさんはこの地図で本当にキャンプする場所が見つかるのかとガイドに尋ねる。
ガイドは地図の絵を見せ、不安があるかもしれないがこれで十分にキャンプする場所を見つけることが出来ると説明する。僕らに不安はあったが納得した。ガイドが大丈夫というのだ。それ以上問いかけてみても意味はなかった。しかしある意味その地図は冒険心を刺激するものでもあった。未開の土地に行く。正確な地図はない。大ざっぱな絵で十分じゃないか。アウトバックの世界だ。それだけで心がうきうきしてくる。
そうこうしているうち出発の時間になった。カヌーを岸辺から川に入水する。カヌーにキャンプ用具や食料等を積み込む。一台のカヌーは一人乗り用。もう一つは二人乗り用のカヌー。とりあえずおじさんが一人用のカヌーに乗り、イエンと僕が二人用のカヌーに乗り川下りを始めた。上流は若干、川の流れがあり、カヌーはすいすいと前へ前へと進んでいく。川にはタンポポの綿のようなものが飛んでいる。カヌーもなかなか楽しいものだと僕は感じていた。
流れのあった川の支流は終わってしまい、川の本流に入る。すると途端に川の流れはなくなってしまう。オールを漕ぐことによってしか前へは進めない。楽しいピクニック気分のカヌーは終わり、体育会系のカヌーに変化していく。峡谷などあり景色は雄大で望んでいたものであった。しかし僕には楽しむ余裕がなくなってきた。オールを漕いで五十五キロも走破するのかと思うと僕は気が遠くなってきた。
二人乗りのカヌーはお互いの様子がすぐにわかるスポーツであった。手を抜くとスピードはすぐに落ちる。頑張ればスピードは上がる。僕のペース配分がよくないのか、力加減がよくないのかおじさんに声をよくかけられた。
「TAKE IT EASY。」
夕方には一日目のキャンプする場所に何とか辿り着いた。地図の絵は正しかった。地図を見ることによって僕らは簡単にキャンプする場所が見つけられたのだ。
ブッシュの中に僕らはテントを張り、火をおこし、焚き火を作った。そして各自それぞれ食事を作る。僕はサンドウィッチを作り、お腹を膨らます。イエンがビールを持ってきていた。僕らは焚き火を囲み、ぬるめのビールで乾杯した。運動した後のビールはやはり格別だ。
焚き火に当たりながら僕らはお互いに話をしていく。おじさんとイエンは話しが弾んでいき、僕のヒアリング力では付いていけなくなる。軽く酔っ払ったせいか僕は彼らが何を話しているのかはどうでもよくなってきた。
煙草を吸い、焚き火に当たっていると今僕はオーストラリアの大自然の中にいるんだなぁと不思議さを感じていた。一ヶ月前はパースで語学学校に通っていた。二ヶ月前は日本で交通警備のアルバイトをしていた。今は日本人じゃない旅行者とこんな冒険みたいなことをしている。そんな感慨に浸り満足感すら覚えていた。