二十歳のころ 第十五章
僕はダイビングセンターでお金を支払い、自分の機材とウェットスーツを準備した。そこには二台のトラックが停車していた。僕は英語が解らないために自分の機材をどちらのトラックに積み込んでいいかわからなかった。僕は何となく示されたトラックに機材を積み込んだ。そしてバンに乗車した
船着き場に着くと僕の機材は違う行き先のトラックに積み込んでいたことが判明した。僕はスタッフに自分の機材は違うトラックに積み込んでしまったと説明する。スタッフは気にしないでと微笑み、予備のウェットスーツを探しだした。僕は小柄な体格で男性ものはサイズが合わなかった。代わりに女性のスタッフのウェットスーツ使ってくれと説明された。黒とピンクのウェットスーツだ。僕はウェットスーツを着てみると、サイズはぴったりだった。女性物を着るという恥ずかしい半面、スタッフの優しさを感じ、嬉しかった。僕はありがとうと礼を言った。
船は甚平サメのいる所へ向かった。誰かがどこからか叫ぶ。
「見ろ。」
と指さす。そちらの方へ顔を向ける。十メートル近い甚平サメが悠々と泳いでいる。スタッフは船のエンジンを切り、ゲートを開いた。僕らはシュノーケルの準備をする。そしてスタッフのGOサインを待った。
「GO。」
僕らは船から順々に海に飛び込んだ。甚平サメは僕の体の何倍もあった。甚平サメは僕の泳いでいる進行と進路が重なった。僕は故意ではないが甚平サメを蹴っ飛ばしてしまった。蹴っ飛ばされた甚平サメはまた海中に深く潜っていく。僕らは船に戻った。船に戻るとスタッフは僕に注意をする。パンフレットには甚平サメに近づかないようにと警告が書いてある。しかし正確な所僕は内容を理解できていなかった。
またセスナから船に無線が入る。甚平サメの群れがすぐ近くに来ているという。船はすぐに甚平サメの群れがいるところに向かう。現場に着くと何頭も甚平サメが泳いでいるではないか。スタッフがまたGOサインを出し、僕らは海に飛び込んだ。
僕はまた甚平サメに近づいてしまった。僕は甚平サメと距離を取っていたのだけれども、甚平サメが僕の方へ近づいてきたのだった。僕は蹴らないように注意して泳いだ。僕は甚平サメと遊んだ。海面を一緒にぐるぐると回り泳いだ。船上で待機していたスタッフも一緒になって泳いで遊んだ。
エクスマウスに戻る船の上で誰もが口にしていた。
「今日は素晴らしい日だった。」
僕は船から降り、機材を運んでいると、一人の女性スタッフが近づいてきた。僕がまた甚平サメに近づいて泳いだことに対して注意をしだした。もうツアーは終わっているのだけれど、彼女ははっきりと注意したかったのだろう。僕は甚平サメと一緒に泳いで遊んだことも心に深く残っているが、こっぴどくスタッフに注意されたことはそれ以上に深く心に残った。
エクスマウス滞在の最後の前日僕はいつものようにダイビングセンターに立ち寄った。
「明日のバスでエクスマウスを離れます。とても楽しかったです。」
「それは良かった。ありがとう。」
「何かスペシャルオファーはありますか?」
僕は冗談とも本気ともつかない言葉を口にした。二、三日の滞在の予定が十一日間も滞在してしまったのだ。
「ポストカードくらいならいいよ。」
「本当ですか?記念にダイビングセンター写真に撮っても構いませんか?」
「いいよ。」
「じゃあ、私、写真撮ってあげる。」
「一緒に入らないんですか。」
僕はおどけた。
「私、写真は遠慮するわ。ここに座っていて。ハイ。スマイル。」
「ありがとう。本当にエクスマウス楽しかったです。」
「ヒロ。これからバックパッカーズに戻るの?今そっち行くから一緒に乗っていく?」
「ありがとう。乗っていきます。」
僕はスタッフの女の子にバックパッカーズまで車で送ってもらった。
「ヒロ。エクスマウスの事忘れないでね。This is your home town。」
僕は車を降り、礼を言った。ここがあなたの故郷か。嬉しかった。