二十歳のころ 第五十五章
季節は冬だった。ニュージーランドを観光する良い季節とはお世辞にも言えない。僕はオークランドを離れ、ワイトモにバスで向かう。バスに乗るが僕のようなバックパッカーは見当たらない。周囲を見渡すがどれも土地の人のようだ。席も空席が目立つ。僕は車窓を眺めながら、これから始まるニュージーランドの旅について考えていた。
バスがワイトモに到着する。ワイトモでは旅行者らしき人は誰もバスを降りない。僕は一人でユースホステルに向かう。すんなりと僕はユースホステルを見つける。僕は受付に行き、宿泊の手続きを済ます。受付の方は今のところ僕しか宿泊者がいないと説明する。僕は誰もいないドミトリーの部屋に行く。僕はバックパックを置きロビーに向かった。誰もいない。話し相手がいない。
僕は何もすることがない。僕はパンフレットを眺め、Black Water Raftingのツアーを申し込む。洞窟の中を探検する半日ツアーである。ツアーに参加すると家族連れと若者のグループが参加していた。僕は彼らと一言二言言葉を交わすがどのグループの輪に入ることができなかった。僕は一人で洞窟探検のツアーを楽しまなくてはならなかった。決して楽しいとは言えなかった
ツアーが終わると僕は一人誰もいないユースホステルに戻った。そして誰もいないユースホステルで一夜を明かした。
翌朝僕はワイトモを離れ、ロトルアを訪れた。ロトルアは温泉地であり、ラフティングが出来る観光地でもあった。僕は早速ラフティングを申し込んだ。
しかし昨日と同様僕は一人でラフティングを楽しまなくてはならなかった。僕のような一人旅のバックパッカーは参加していない。
ラフティングに参加しているのはグル―プで旅をしている若者達だけであった。ラフティングそれ自体はもちろん楽しい。でも僕は一人なのだ。一人では感動を分かち合えない。僕はオーストラリアの旅と何かが違うと感じ始めていた。
僕はそれでも旅を楽しもうと考え、SPAに行った。日本の温泉のそれとは違う。僕は水着に着替え、プールに入る。温かい温水プールである。僕は異国のSPAで誰と喋ることもなく一人で体を温めた。
ニュージーランドにも胸躍る出来事があるはずだ。旅をしていてオークランドのバックパッカーズで出会った女子大生のような旅行者に出会えるはずだ。僕はそう願っていた。しかし現実は期待通りにはならなかった。
僕はロトルアを後にし、タウポ湖を経て、ワンガヌイ経由オハクネに向かった。オハクネのスキーリゾートに滞在し、TUROAでスキーをした。僕はニュージーランドのスキー場に期待をしていたが、特別感動を覚えなかった。長野県の白馬のスキー場の方が楽しいと思っていた。
オハクネのバックパッカーズには何人かの日本人の旅行者がいた。僕は彼らと飲み会をすることになる。オーストラリアのワーホリを終えた女性も飲み会に加わる。男の旅行者三人組はワーホリではなく短期旅行者であった。彼らのうちの一人は女性の前で威張りたがった。良いところを見せようと自分は人物であるがごとく振る舞った。彼は酒の席で酔った勢いで仲間の一人と僕を童貞だろうと僕達をからかった。上から目線の話し方であった。僕は何も言い返せなかった。
旅で出会う人全員が自分と気が合う人とは限らない。鼻持ちならない人だっている。旅を続けていれば良い気分になるとこともあれば悪い気分にさせられることもある。仕方のないことだ。僕はニュージーランドで本当の意味での一人旅を経験したのかもしれない。