二十歳のころ 第二十七章
二日目に入り、また流れのない川をひたすら僕らはオールを漕いでいく。川幅はますます広くなっていく。大自然に囲まれた大河はたまに聴こえる鳥の鳴き声以外は静寂に包まれる。日差しはそれほど強くなく、水面にいるおかげか涼しさすら感じる。大自然に包まれ、オールを漕ぐ音を聞きながら、カヌーは前進していく。渓谷とブッシュの景色を十分に堪能しながらゆっくり前へ前へと進んでいく。僕ら三人は黙々とオールを漕ぎ続けていく。
イエンとおじさんが今度は僕が一人用のカヌーに乗ったらどうかと勧めてきた。僕にも一人用のカヌーの順番が周ってきたのだ。一人乗り用のカヌーはキャンプの荷物を積んでいないぶん軽快に動きまわれるように僕には見えていた。二台のカヌーを近づけ一人乗り用のカヌーに乗り移る。
おじさんとイエンの二人乗り用のカヌーは速いペースで前へ前へと進んでいく。それに対し僕のカヌーはおっちらおっちらとしか前に進んでいかない。一人用のカヌーはマイペースでカヌーを操ることができる。しかし僕は前方にいる彼らのカヌーに追いつかなくてはならない。そうなってくると話は別だ。彼らに追いつくために僕は必死でオールを漕ぐ。それでも二つのカヌーの距離は縮まらず差は広がっていく。
僕は休むことなくマラソンのように川下りをする。水面に水草が浮かぶ。オールに草がまとわりついている。僕のカヌーのスピードはさらに遅くなる。彼らとの距離が増すばかりだ。僕は自棄になってくる。ちくしょうと悔しい感情すら湧いてくる。そしてよし子さんとあゆみさんに僕は一杯食わされたのだという考えすら浮かんでくる。大自然に対峙するカヌーは優雅に見えるスポーツだけれど実際は地道なスポーツだと体感したのである。
それでも僕らはなんやかんやとオールを漕ぎ続けた。僕らは二日目のキャンプする場所に夕刻前に辿り着いた。またブッシュの中でキャンプを設置し、枯れ木を拾い、焚き火を起こした。焚き火に当たりながら昨晩と同様にビールを飲み、食事を取り、会話を始めた。僕を筆頭にイエンもおじさんもかなり疲れている様子だ。おじさんは
「今日は疲れたな。女の子がいればもっとカヌーは楽しめたのかもしれないな。」
「一応、誘ったんだけれど。」
「僕もそう思うけど。でもいいよ。しょうがないよ。今日はすごく疲れた。」
僕は応えた。しかし僕はこうも思っていた。この体育会系なカヌーツアーの内容を知っていたならカヌーツアーをやりたがる人はごく少数に違いない。しばらく僕はビールを飲み、お喋りをしていると疲れとアルコールのせいかうとうとしてきた。僕は先に眠ると伝え、寝袋に潜りこんだ。
朝を迎え、おじさんの冗談を聞きながら僕らは朝食をとる。僕らはテントをたたみ、ゴールへ向かってカヌーを漕ぎ始める。僕は二人用のカヌーの定位置につく。やはり体力差があったということをお互いに認識したのだろう。
昼頃にはゴール地点のキャンプ場が見えてきた。僕は嬉しい気持ちで胸が一杯になる。体育会系のカヌーがこれで終わるという安堵感と五十五キロを無事走破した達成感が自然に湧いてきたのだった。