二十歳のころ 第十三章
エクスマウスに着いた。モンキーマイアでイルカの餌付けを楽しんだ後今度は甚平サメを見てみようと考えたのだ。
エクスマウスは見たところ小さな町だった。スーパーが一軒。カフェが一軒。ダイビングショップが一軒。僕が気に留めた店はそれくらいだけだった。グレイハウンドのバスがエクスマウスに到着する頃にはバックパッカーズの迎えのワゴン車が来ていた。僕は迎えに来てくれたワゴン車に乗り、バックパッカーズに向かった。
エクスマウスの中心街から数キロ先にバックパッカーズがあった。キャンピングカーを改造した宿泊施設のようだ。僕は受付でチェックインを済まし、部屋に行き、バックパックを置いた。僕は受付に戻り、エクスマウスの町の話を聞いた。スーパーに食料品を買いに行くのも、ダイビングショップに行くのにも、市街地の中心地までここから歩いていかなくてはならないという。
僕はバックパッカーズから真っすぐな道を三十分ほど歩く。空を見上げるとオウムの群れが飛んでいる。のどかである。何もない田舎の道を歩くことはどこか心地いい。
中心街に着くと僕はダイビングショップに顔を出してみた。オーストラリア人に見える何人かのスタッフと日本人らしきスタッフがいる。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
日本語で返答が返ってきた。
「地球の歩き方読んできたのですがこの時期にエクスマウスで甚平サメを見ることが出来ますか?」
「出来ますよ。私ウラノと申します。インストラクターやっています。」
「そうですか。僕はスキューバーダイビングのライセンスを持っていないけれど、シュノーケルで甚平サメを見ることが出来るのですか?」
「甚平サメを見る時はシュノーケルです。しかし甚平サメを見るツアーが出るまでには、日数がまだかかりそうです。この機会にスキューバーダイビングのライセンスを取得しませんか?」
「スキューバーダイビングのライセンスですか。それは考えていなかったな。ちなみにライセンスを取るのにいくらかかりますか?」
「399ドルです。」
日本円にして三万円くらいか。僕は渋った表情を浮かべた。パースのダイビングショップの方が安かったと記憶していたからだ。そしてその旨をウラノさんに伝えた。
「エクスマウスのニンガルリーフはケアンズのグレートバリアリーフに劣りません。パースでライセンスを取得するより、魚をたくさん見ることができて楽しいです。ケアンズでライセンスを取るよりは割安です。」
「うーん。」
「今なら私の仕事の時間が空いているので通常の値段でマンツーマンのレッスンを受けることができます。こんな機会はめったにないですよ。」
マンツーマンでスキューバーダイビングの講習を受ける。この申し出は心ひかれるものがあった。僕は即答を控え、しばしの間考えた。未知なるものに挑戦するのはいいことなんじゃないだろうか。僕はウラノさんにお願いしますと告げた。