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針捨て管理をスマートに "MEMSキャップで臨床試験の精度向上"

Frank Leipold氏とBernard Vrijens氏は、Haselmeier社とAARDEX社が協力して MEMS Smart Capを開発したことについて話し合います。
MEMS Smart Capは、臨床試験中にデータを収集して、参加者のアドヒアランスを正確に評価できるようにするスマートなソリューションです。



「治験参加者がプロトコル通りに薬を服用できないと、偏った結果につながり、大幅な遅延や追加コストにつながる可能性があります。」


アドヒアランスは臨床試験が直面する最も重大な課題の1つです。
患者の実に50%が試験プロトコルに定められた治療計画を遵守していないことが報告されています¹。試験参加者が指定された通りに薬を服用しないと、偏った結果につながる可能性が多分にあり、すなわち試験自体の大幅な遅延や追加のコストを生じさせる可能性があります。この課題は特に、希少疾患や難病の参加者募集の難しさ、はたまた「市場投入までの時間を短縮する」という絶え間ないプレッシャー等によってさらに複雑化してきています。この課題に対処するため、MEDMIXブランド傘下のHaselmeier社とAARDEX社が協力して、投与曝露量を最適化し、臨床試験を迅速化することに成功しました。

ノン・アドヒアランス(非遵守)の課題

非遵守にどう対処すればよいのでしょうか。多くの場合、対処は簡単でなく、多くの試験は自己申告に頼っているため、非遵守を検出できません。非遵守により、新薬の用量反応関係を判断する研究の能力が低下するため、より良いアプローチが必要であることは明らかです。
結果として、試験期間が長くなり、患者のサンプル数が増え、医療システムに不必要な負担がかかります。最悪の場合、製薬会社が、信頼性が低く欠陥のあるデータに基づいて、命を救う薬をあきらめる決定を下す可能性すらあります。

希少疾病用医薬品

これらの未解決の課題は、ますます増えている希少疾病用医薬品の開発トレンドとも相まって、特に大きな打撃となります。Trialtroveのデータによると、希少疾患または孤児疾患をターゲットとした医薬品の臨床試験数は、2010年の1,236件から2022年には2,335件に増加しており、実に89%も増加しています(図1)。
現在、業界全体で生物学的医薬品を使用して新しい疾患領域を治療することに大きな関心が寄せられており、多くの小規模なバイオテクノロジー企業が、中枢神経系などの特定の疾患または領域に焦点を絞って事業を開始しています。一方で、これらの医薬品は製造が難しく多額の費用がかかることから、その提供には多くの課題を抱えています。

図1: 近年の希少疾患および難病を対象とした新薬試験の割合 (出典: Trialtrove)。

上述のとおり、希少疾患の治療薬の開発は困難を極めており、さまざまな開発および規制アプローチが必要になります。また、これらの薬は、限られた証拠と小さなサンプルサイズに基づいて、迅速承認の対象となることがよくあります。
その後、承認後の実用試験からの確認証拠(Confirmatory evidence)が必要となり、実環境における有効性と安全性の堅牢な評価には、薬物曝露に関する信頼できる情報が必要です。

生物学的製剤は、最も一般的には非経口投与され、筋肉内または皮下に注射されます。これは、消化管での初回通過代謝によって壊れやすいタンパク質が損傷されるのを防ぐためです。
しかし、これらの注射では、生物学的製剤の量と粘度に対応するために長い保持時間や大きな針が必要になることが多く、患者にとって不快な注射となります。
これにより、患者が服薬不遵守になる可能性が高まります。特に、薬の治療効果と安全性が不明な臨床試験ではその傾向が顕著です。


「分散型臨床試験は最低限の被験者募集目標を達成するために必要不可欠となっているが、これによっても遵守の監視と強制が難しくなる。」


今まであげたこれらのトレンドが如何に相互作用しているか分かってきましたね。
希少疾患をターゲットとする生物学的製剤では、患者数がますます少なくなるため、臨床試験の被験者募集の難しさが増し、それを維持する必要性も高まります。
分散型臨床試験は、最小募集目標を達成するために必要不可欠になっていますが、これによっても遵守の監視と実施が難しくなります。同時に、患者数が減ると、個々の患者が用量・曝露・反応関係データに及ぼす影響が大きくなるため、高いレベルの遵守がさらに重要になります。

医療システムへの負担

新薬候補の数は過去20年間で3倍以上に増加し、2023年には21,000件を超える見込みです(Pharma-projectsデータ、2023年)。これにより、進行中の臨床試験の数も増加しています(図2)。
同時に、ヘルスケア部門では、高齢化による医療ニーズの高まりやスタッフの離職などにより、多くの試験が過負荷にさらされており、これらの試験を実施する能力を提供することがますます困難になってきています。
これに加えて、実用的な臨床試験はより長い期間にわたって実施され、プロトコルはより複雑になり、スポンサーは募集人数と適格基準に関してこれまで以上に厳しい要求を提示しています。
さらに、医療従事者(HCP)のインセンティブモデルが変化し、臨床試験への参加は以前よりも魅力が薄れています。

図 2: 医薬品パイプラインにおける新薬候補の数は、過去 20 年間で 3 倍以上に増加しました。(出典: Pharmaprojects)


自己管理への移行

製薬業界は、医療制度にかかる負担を認識し、患者が自宅で自己投与できる治療法の開発に全力で取り組んでおり、患者がクリニックを訪れて医療従事者から直接指導を受ける必要性を軽減しています。
これは明らかに前向きで必要な動きですが、遵守の監視と確認がさらに困難になります。投与中に医療従事者がいない場合は、正しい自己投与手順を遵守し、それを報告する責任は完全に試験参加者にあります。

業界で注目を集めている、自己投与療法の非遵守の問題に対する解決策の 1 つは、コネクテッド(IoT化された)ドラッグデリバリーデバイスの実装です。原理的には、このアイデアは妥当であると言えます。コネクティビティ(IoT化)によって治験参加者をリモートで監視し、研究者が薬物使用に関する客観的なデータを収集できるようになります。
ただし、このアプローチは複雑になりすぎることが多く、治験参加者は当該ドラッグデリバリーデバイスにリンクされたアプリを使用する必要があります。
このアプリケーションはスマートフォンなどのデバイスにリンクされ、追加機能とともにリマインダーを発行し、自動的にデータを記録、研究者がアクセスできるポータルに送信します。
実際には、これらのアプリの使用に伴う余分な負担により、治験の進行に伴って一部の治験参加者がアプリの使用をやめ、データの完全性が損なわれ、理論上提供されていたかもしれない遵守のメリットが失われます。

これを念頭に置くと、ノン・アドヒアランス(非遵守)問題の解決策を探す上で、コネクティビティにもう未来はないのでしょうか?いいえ、そうではありません。ただし、最良の結果を得るには別のアプローチが必要です。
自己管理の臨床試験でのアドヒアランス・モニタリングにコネクティビティがもたらすメリットを享受するためには、追加の手順なしで接続機能を薬剤の想定される使用に組み込む必要があります。つまり、ネット接続されたソリューションと接続されていないソリューションの違いは最小限である必要があり、モニタリングは完全にバックグラウンドで行われ、患者の体験を妨げることはありません。

HASELMEIER社とAARDEX社のスマートMEMSキャップソリューション

服薬アドヒアランス・モニタリングへのコネクティビティ適用という課題を解決するために、Haselmeier社とAARDEX社は協力して、一般的な患者体験にシームレスに統合できる、既に実証済みのソリューションを用いることにしました。Haselmeier社の薬物デリバリーエンジニアリングの専門知識と AARDEX社の持つ、信頼性が高く確立されたMEMS®システムを組み合わせることで、両社は、単回使用の使い捨て注射器の臨床試験中に薬剤の使用に関する信頼性の高いデータを収集するためのソリューションを開発しました。

図 3: AARDEX社のMEMSスマートキャップ。

Haselmeier社とAARDEX社のソリューションでは、PFS(プレフィルドシリンジ)や使い捨てオートインジェクターなど、標準的な非接続型(IoT化されていない)使い捨て注射器を使用します。患者が通常どおり注射器を使用できるようにするため、プロセスは可能な限りシンプルになります。患者が注射を終えたら、付属のスマート針捨て容器に器具を廃棄する必要があります。
AARDEX社のMEMSシステムを使用すると、スマートキャップがオンライン化され (図3)、患者がスマートキャップを外して取り付けると廃棄の日時が記録されて送信され、器具の総廃棄回数が追跡されます (図4)。
このデータは治験研究者向けに記録され、研究者は客観的なデータに基づいて患者の遵守状況に応じて対応することができるようになります。

図 4: Haselmeier社とAARDEX社のスマートMEMSキャップ ソリューションの仕組み: (1)注射前の安全装置やPFSについて、(2)患者が針キャップを外し、(3)患者が自己注射を実施し、(4)MEMSキャップ付きの針捨て容器の(5)MEMSキャップを外し、(6)患者が針捨て容器内に廃棄する、(7)患者が針捨て容器を閉じると、MEMS キャップが自動的に日時を記録する、(8)MEMSキャップがデータを自動的にモバイルアプリや MEMSリーダーに転送する。

「接続機能をデバイスに組み込むのではなく、針捨て容器のスマートキャップに組み込むアプローチを採用すると、接続デバイスベースのアプローチに比べて多くの利点が得られます。」


接続機能がデバイスではなく、針捨て容器のスマートキャップ側に組み込まれているアプローチを採用すると、接続デバイスベースのアプローチに比べて多くの利点があります。
まず、すでに説明したようにこの方法では、接続デバイスの使用方法や自己投与時に必要な手順のいずれにおいても、患者側の追加作業は必要ありません。
患者は既に使い慣れている標準的な使い捨てデバイスを使用でき、アドヒアランスモニタリングは入力なしで自動的に行われます。

第2に、Haselmeier社とAARDEX社のMEMSスマートキャップは、コネクテッドデバイスの開発と検証に投資する必要のある膨大な時間と費用を節約します。
コネクテッドデバイスには確かに可能性がありますが、デバイス設計プロセスに重大な複雑さと課題が加わります。たとえば、電子部品を組み込む必要がありますが、これには薬剤デリバリーデバイス設計チームがすぐには入手できない材料と専門知識が必要です。
また、デバイス内に電源と接続インフラ用のスペースを見つける必要があり、これらすべてに時間と費用がかかります。この複雑さは、スピードが不可欠な薬剤開発の初期段階では特に問題になります。

さらに、薬物デリバリーデバイスに電子機器を追加すると、二酸化炭素排出量が大幅に増加します。電子部品のコストと相まって、デバイスを再利用可能にする必要が生じ、使用手順が増え、さらに複雑になります。
接続を針捨て容器のMEMSスマートキャップに移行することで、薬物デリバリーデバイスはシンプルなままになります。電子機器を追加しても、使いやすさは変わりません。さらに、スマートコンポーネントは製剤から十分に離れた場所に保管されるため、再利用とリサイクルがはるかに簡単になります。

確立された使い捨て注射器を使用するもう 1 つの利点は、規制当局がこれらのデバイスをよく理解しているのに対し、コネクテッド・ドラッグデリバリーデバイスを承認に導くには疑問が残ることです。
一部のコネクテッド・デバイスはすでに承認され、市場に出回っていますが、これらはまだ比較的新しいデバイスカテゴリです。結果として、コネクテッド・コンビネーションデバイスの承認を得るには大きな規制上のハードルがありますが、Haselmeier社とAARDEX社のスマート針捨て容器ソリューションを使用すれば、このハードルを大きく下げることができます。


「Haselmeier社とAARDEX社のスマートMEMSキャップはデバイスに依存せず、臨床試験用の既成ソリューションとして利用可能で、臨床試験への迅速かつ簡単な統合を可能にし、開発を加速し市場投入までの全体的な時間を短縮します。」


Haselmeier社とAARDEX社のスマートMEMSキャップはデバイスに依存せず、臨床試験用の既成ソリューションとして利用可能で、臨床試験への迅速かつシンプルな統合を可能にし、開発の進行を加速し、市場投入までの全体的な時間を短縮します。このソリューションはデバイスに影響を与えないため、デバイスの互換性と安全性を確保するための広範な研究を必要とせずに研究に統合できます。

スマートMEMSキャップソリューションの実例

Haselmeier社とAARDEX社のスマートMEMSキャップソリューションのシンプルさを説明するために、具体的な使用例を考えてみましょう。

  • 試験の開始時
    患者は研究者から臨床試験のプロトコルについて説明を受け、おそらく患者がすでに使い慣れているものと同様の標準的な使い捨て注射器と、スマートMEMSキャップ付きの針捨て容器を受け取ります。患者にとっては、接続をまったく使用しない従来の臨床試験と比較して追加の使用手順はなく、すべてが自動で行われます。

  • 標準的な使用
    患者は自宅に戻り、治験期間中、決められた頻度で自分で薬を投与します。
    スマートMEMSキャップは、患者が注射器を廃棄した日時を記録し、それ以上の追加入力は必要ありません。

  • フォローアップ訪問
    治験施設への定期的なフォローアップ訪問中に、研究者はスマートMEMSキャップから収集されたデータを使用して患者の服薬アドヒアランスを理解し、データに基づくフィードバックを提供して、患者が服薬アドヒアランスを維持できるようにします。

  • アドヒアランス介入
    研究が進むにつれて、研究者はオプションでデジタルポータル経由でリアルタイムのアドヒアランスデータを受け取ることができます。このデータにより、患者がノン・アドヒアランス(非遵守)になるリスクがある場合に積極的に介入することができ、治療の中止を防ぐことができます。

結論

Haselmeier社のドラッグデリバリーエンジニアリングの専門知識とAARDEX社の実績あるMEMSアドヒアランス・ソフトウェアを組み合わせることで、両社は臨床試験中のアドヒアランスの監視という課題に対する優れたソリューションを開発しました。スマートMEMSキャップを使用して、針捨て容器内の標準的な使い捨て注射器具の廃棄を記録することで、臨床試験の研究者は分散型試験における複数の施設でのアドヒアランスの監視、リアルタイムでのリスク特定ができ、接続されたドラッグデリバリーデバイス等をまったく必要とせずに、積極的な介入を行うことが可能になります。

スマートMEMSキャップは、特に生物製剤や希少疾病用医薬品の長期臨床試験と低い維持率という課題に直面している製薬会社やバイオテクノロジー会社に対して、シンプルで簡単に統合できるソリューションを提供いたします。
AARDEX社は、ドラッグデリバリー業界向けのデジタルソリューションの開発で実績があり、Haselmeier社は確立された信頼できるドラッグデリバリーデバイス設計パートナーです。スマートMEMSキャップソリューションを統合するために提携することで、AARDEX社とHaselmeier社は、デバイスや規制要件に影響を与えることなく、臨床試験の進行を円滑にし、市場投入までの時間を短縮し、コストを節約することができるでしょう。


Vrijens B、Pironet A、Tousset E、“The Importance of Assessing Drug Exposure and Medication Adherence in Evaluating Investigational Medications: Ensuring Validity and Reliability of Clinical Trial Results”. Pharmaceut Med、2024年、第38巻(1)pp 9-18。


本コンテンツは、日本オフィシャルパートナーであるzenius株式会社がFrederick Furness Publishing Ltd. が所有・運営しているマガジン『ONdrugDelivery』から許可を得て翻訳・転載したものです。
引用: Leipold F, Vrijens B. “Smart MEMS Cap for Sharps Waste: A Simple and Elegant Solution to Clinical Trial Adherence Monitoring”. ONdrugDelivery, Issue 162 (Jun 2024), pp 22–26.


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