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PiccoJect - 注射の信頼性を向上させる


Haselmeier™ GmbH / Germany


オートインジェクター / シリンジ技術のプログラムリーダーである Thomas Thueer 氏、イノベーション開発 VP の Chris Muenzer 氏、そしてプロダクトマネージャーの Ines Schlenker 氏が、Haselmeier 社のまったく新しいオートインジェクターPiccoJectについて、その患者ユーザビリティを飛躍的に向上させることに成功した開発の裏側を語ります。


イントロダクション

注射、特に自己注射は患者にとって困難なプロセスです。そのため、使い勝手の向上や、使用者が自信を持って注射というプロセスを行えるようにする機能は、オートインジェクターにとって非常に重要な要素となります。これらの機能開発を成功させるうえで、ヒューマンファクタースタディーは開発プロセスの中でも要と言えるでしょう。

DDS(ドラッグデリバリーシステム)の開発・製造メーカーは、ヒューマンファクタースタディーを実施し、患者のニーズ、嗜好、要望に関する貴重なフィードバックを得て、それらをデバイスの設計に取り入れることで、使い勝手の向上、使用ミス等のリスク低減を目指します。

近年ではこうした、ユーザーからのフィードバックをデバイス設計に取り入れるための技術は洗練されてきており、規制当局もヒューマンファクタースタディの価値を認めています。現在では多くの新しいコンビネーション製品の申請書の一部としてヒューマンファクタースタディが採用されています。


PICCOJECT – 最先端のデザインでユーザビリティを

そして患者のアンメットニーズに応えるため、Haselmeier 社 では PiccoJect(図1)を開発いたしました。本製品は、コンパクトでフル機能を備えた皮下投与用、2ステップのオートインジェクタープラットフォームであり、製薬企業側のニーズにも、容易に適合させることが可能です。

図1:Haselmeier社のPiccoJectは、標準的な1mLまたは2.25mLのPFS(プレフィルドシリンジ)と互換性のある、皮下投与用に設計されたコンパクトながらフル機能を持つ2ステップのオートインジェクターです。
図 2 : (A) キャップを外した注射直前の PiccoJect。 (B) 注入中の PiccoJect - 見やすく大きなドラッグ ・ ウィンドウの中で、 黄色いプランジャー が下に動いているのが確認出来る 。(C) 注入終了直後の PiccoJect – ステータス ・ インジケーターが注入完了を示している

PiccoJectは"EXCELLENCE THROUGH SIMPLICITY "という指針に従って開発されており、そのデザインによるイノベーションは随所で確認することができます。

PiccoJectの開発では、ヒューマンファクターとペイシェント・セントリシティ(患者中心主義)が重要な役割を果たしており、患者ニーズが設計の中心に据えられています。PiccoJectのデザインは、Good Design Award(2022 年)および Red Dot Design Award(2023 年)を受賞し、業界からもその革新性が評価されています。使いやすさを最大化するため、このデバイスはフラットでコンパクトなデザインになっており、幅広い患者層に対するユーザビリティを向上させつつ、小型で持ち運びしやすい形状を維持しています。また、患者が注射の進行状況を視認、観察できるよう、大きなドラッグウィンドウを持ち、使用状況を明確に示す色付きのステータスインジケータも備えています(図2)。

さらに、PiccoJectの内部レイアウト構造が、大口径のバネの使用を可能にしており, これにより注入時間を薬物の特性に合わせるためのバネ力を簡単に最適化できるようになっています。

PiccoJectは統合的なプロダクト・プラットフォームとして用意されており、初期段階のコンビネーション製品開発から設計検証を経て、最終組立、パッケージング、ラベリング、量産化までを一環でサポートします。
”EXCELLENCE THROUGH SIMPLICITY” という指針に沿って、部品点数も極めて少なく、全部でわずか8つの部品で成立するよう構成されており、製造やスケールアップに伴う課題をも大幅に軽減しています。また、同指針に基づき、標準的な1mLおよび2.25mLのPFS(プレフィルドシリンジ)に対応することで、導入に対する障壁も簡単にクリアしています。

またPiccoJectは、サステナビリティの向上を目指す業界全体の動きに合わせて、持続可能な原材料から作られたプラスチック素材と、製造時の低炭素電力を使用して開発されました。さらに、このプロダクトは将来も見据えられており、WIFIを含む複数のコネクティビティ(IoT接続)のオプションを有しています。


患者がPiccoJectに求めるものを理解する

本開発では、Haselmeier社はDCA社(UK/ウォーリック州)と連携し、患者の生活体験がPiccoJectの設計テーマの中心となるよう慎重に開発をすすめてきました。

図3:PiccoJectには、患者に安心して治療を受けてもらうために特別に開発された数々の機能があります。例えば、大きなドラッグウィンドウから注射の状況がよく見えること、注射の開始時と終了時にクリック音が鳴り、全量投与までデバイスを確実に保持できるように、音でも進行状況を知らせてくれる機能等です。

DCA社とHaselmeier社の連合開発チームは、幅広い症例に渡る、豊富な注射器開発の経験を有しています。この幅広い経験がPiccoJectに関する一連のヒューマンファクタースタディを実施する上で大きく役立ちました。同チームでは、ドラッグデリバリーデバイスにおいて患者が最も優先しているものはデバイスに対する “信頼性 ”であると捉えています(図3)。そのため、PiccoJectの特徴は、患者が注射プロセスを通じて自信を持てるように特別に設計され、患者がデバイスを扱う際に、直感的に以下のような項目が理解できるようなデザインになっています。

  • 注射前の薬剤の安全性

  • デバイス使用のタイミング

  • デバイス使用方法

  • デバイスが意図どおり作動していること

  •  投与が成功していること


 - 1回目のヒューマンファクタースタディ

初期プロトタイプを用いた最初のヒューマンファクタースタディでは、1mL と2.25mL の PFS 両方に対応することができる 5 つのオートインジェクターで調査を実施しました。うち 3つは PiccoJect のサイズ違いモデルを、残る2 つはベンチマークとして既存の市販オートインジェクターを使用しました。(※全モデル、あくまでモック品を用い、取り回しや視覚的なフィードバック機能を含めた模擬注射に対する患者の反応を評価する事を意図しており、デバイス自体に薬剤や針は含まれていません。)

本スタディでは、使用上の誤りや取り扱い上の問題の潜在的な原因を探る事、患者の嗜好性を理解し、PiccoJectの次の段階の設計に役立てることを主な目的としました。

合計 24 人の参加者のうち、25 歳から67 歳の注射の経験があるユーザーと、注射に慣れていないユーザーとが均等に振り分けられ、簡易的な IFU(使用説明書)以外のトレーニングや支援は提供されず、参加者の半数が自身に、残る半数はマネキンに模擬的に注射の動作を行いました。その結果、まずはタスクパフォーマンスにおいて、PiccoJect は、市販デバイスと同等の評価を得る事が出来ました。

また、ユーザーの嗜好性調査のため参加者はデバイスを扱う前と、注射を行った後のそれぞれ2回のタイミングで5つのデバイスの画像を手渡され、その印象を尋ねられました。

結果、デバイスを扱う前の第一印象で、参加者の大多数がPiccoJectに好意的な印象があると答え、特にPiccoJectの特定サイズのモデルを、最も魅力的で直感的に惹かれるモデルであると挙げてくれました。一方で、本スタディに含まれていたPiccoJect の小型バージョンのモデルについては、両極端な意見が聞かれました。これは、サイズが小さい=必ず万人に受けるという訳ではないことを証明しました。また興味深いことに、デバイスを扱う前はこの小型モデルをお気に入りに選んだ参加者の多くが、実際に使用した後は、標準サイズの方がよかったと意見を変更した事です。

本スタディー終了後、参加者が5つのモデルのうちどれが一番好きか尋ねられたところ、実に参加者の 92%(24人中22人)がPiccoJectモデルのいずれかを選んでくれました。特に PiccoJect の広い断面(24人中18人)と大きなドラッグ・ウィンドウ(24人中20人)の快適さと安全性により、参加者は PiccoJectの方が使い勝手が良いと述べています。これは、PiccoJect の使い勝手の良さが、参加者の信頼を得ることに成功したことを示すもので、デザインチームにとって非常に心強いフィードバックとなりました。


 - 2回目のヒューマンファクタースタディ

2回目のスタディーは、PiccoJectの機能プロトタイプが完成された時点で実施され、PiccoJectの高度なユーザビリティ価値を、より完成品に近いデバイスを使って確認することを目的としました。

1回目と同様、2回目のスタディでも参加者は24名で、すべて成人、注射経験者と未経験者が混在し、さらにその半数は手先の器用さに問題がありました。ここでも、参加者には簡易的なIFU以上の指示や支援は提供されませんでした。そして、合計96回の注射が実施され、そのタスクパフォーマンスが評価されました。結果、従来の2ステップのオートインジェクターに対するユーザー期待値をクリアし、前回スタディで得られたフィードバックも反映できていることが確認できました。

試験終了後、参加者はPiccoJectをリッカート尺度(1~7)で評価し、日常的使用を想定した際の満足度について意見を求められました。全参加者の平均点は6.6点(「満足」と「とても満足」の中間)で、24人中23人が「満足」または「とても満足」と回答し、さらに経験者12名全員が、現在使用しているインジェクターをPiccoJectに置き換えても良いと回答してくれました。


 - 3回目のヒューマンファクタースタディ

23年に実施された最後のスタディでは、量産金型で製造されたデバイスを用いて、PiccoJect のさらなるユーザビリティ機能検証を行いました。本スタディは、前の2回と同じ形式で、24人の成人参加者を対象にし、ここでも参加者の数名は手先の器用さに問題がある方でした(少なくとも1名は重度の障害を抱えていました。)参加者はデバイスのそれぞれの機能特徴をリッカート尺度でランク付けするよう求められましたが、ほぼすべての機能特徴は平均して6点から7点の間で採点されました(図4)。手先に重度の障害を持つある参加者(Cochinスコア63 点)は、「なんてナチュラルな形状だろう。形がとても気に入りました!」とコメントし、さらに「自分でも補助なしで使えるかもしれない。PiccoJect のシンプルで平らな断面が、手先の不自由な患者にも自信をもたらしてくれるね。」とコメントを寄せてくれました。

図 4 : 2023年に実施された3回目のヒューマンファクタースタディ概要。ユーザーは、PiccoJect のさまざまなユーザビリティ面について、7を最高、1を最低とするリッカート尺度で主観的なフィードバックを提供し、ほぼすべての項目で6~7点の評価が得られました。


結論

オートインジェクターを設計する際には、患者のニーズに細心の注意を払い、できるだけ早い段階で患者の要望やニーズを設計に取り入れることが不可欠です。

開発者が設計の中心に患者を据える(ペイシェント・セントリシティ)ためには開発サイクル全体を通じてヒューマンファクタースタディを実施することは必要不可欠です。その結果、患者に信頼感を与える、使いやすいオートインジェクターの開発が可能になります。Haselmeier社は、この原則に基づき「EXCELLENCE THROUGH SIMPLICITY」を指針としてPiccoJectオートインジェクターを設計・開発いたしました。

図 5 : 最初の 2 つのヒューマンファクタースタディーによる、 PiccoJect に対する患者の嗜好性のまとめ。

3回の形成的(フォーマティブ)ユーザビリティスタディを通じて、参加者はPiccoJect を高く評価していることがわかりました。特に、大きなドラッグウィンドウ、平らな断面、明確なフィードバックなど、その使いやすさを大きく評価しています。また、ほぼすべてのスタディ参加者が、薬を注入するために PiccoJect を日常的に使用したいと述べてくれました(図5)。

PiccoJect はさらに、「シンプルであること」を念頭に設計されているため、製造も容易で、薬剤の特定ニーズへのカスタム対応(容量や粘性への対応)も可能で、基本的には全ての標準的な 1mL および 2.25mL の PFS との互換性を有します。ヒューマンファクタースタディにおいてもユーザーから非常に肯定的なフィードバックを獲得することができた、“使いやすさ”に重点を置いたまったく新しいオートインジェクターデバイスプラットフォーム、PiccoJect を Haselmeier 社は提供いたします。


Haselmeier社について

スイスのコングロマリット企業であるmedmix 社のドラッグデリバリーデバイス事業部門である Haselmeier 社は、患者の快適性と顧客ニーズに重点を置き、ペン型注射器やオートインジェクターを含む先進的なドラッグデリバリーシステムの設計・開発・製造を行っています。同社は幅広い技術とサービスのポートフォリオを有しており、患者が確実かつ正確に薬剤を自己投与できる使いやすい注射システムをお届けします。ドラッグデリバリーデバイスの開発・製造における 100 年以上の専門知識、グローバルな事業展開、250名近い優秀で意欲的な専門家、200 件以上の特許取得により、Haselmeier 社は、製薬・バイオ医薬品業界のクライアントをサポートし、世界中の何百万人もの人々の健康増進に役立つ革新的なソリューションの開発に全力を注いでいます。


本コンテンツは、日本オフィシャルパートナーであるzenius株式会社がFrederick Furness Publishing Ltd. が所有・運営しているマガジン『ONdrugDelivery』から許可を得て翻訳・転載したものです。

引用元:hueer T, Muenzer C, Schlenker I, “PiccoJect – Using Human Factors to Fulfil Patients’ Need for Injection Confidence”. ONdrugDelivery, Issue 152 (Oct 2023), pp 44–48.


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