ジェントルメン
我らのガイ・リッチーが帰ってきた!
ガイ・リッチー監督が、1999年公開の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』(2001年)で魅せた映像表現は、映画史を揺るがすエポックメイキングだった。入り組んだ脚本に、ガンアクション満載のクライムムービー。タランティーノをスタイリッシュにしたと言ったらわかりやすいだろうか。異論反論は承知の上で。
鮮烈に登場したガイ・リッチー。富と名声を得ただけに留まらず、マドンナまで伴侶にしてしまう。しかし、ここから茨の道に突入。マドンナを主演に据えた『スウェプト・アウェイ』が大失敗し、手掛けた車のCMも、即座に打ち切りの事態に。
2009年公開の『シャーロック・ホームズ』で興行的には成功を収めたものの、長編デビューの頃のような輝きは、今は昔になってしまっていた。寂しさは募るばかり。60年代の人気テレビシリーズ『0011ナポレオン・ソロ』のリメイク映画を手掛けると聞いたときには、正直「ガイ・リッチーもこれまでか…」と、極東の島国の“ガイ推し”はひとり、覚悟を決めかけた。
だが、このリメイク作『コードネーム U.N.C.L.E』(2015年)、実に面白いではないか。東西冷戦下、CIAとKGBの凄腕スパイ二人がタッグを組み、協力して犯罪組織に挑むというありえないバディもの。洒落た舞台設定と適度なコメディ要素に、ガイ・リッチー復活の兆しはやっと見えてきた。2017年、大資本をバックに制作された『アラジン』実写版を無難にこなし、いよいよ機は熟したのだ。
そして本作『ジェントルメン』。どこをどう切ってみてもガイ・リッチー。オープニングから気合十分、彼にしか撮れない珠玉のクライム群像劇に仕上がっている。
大麻ビジネスで巨万の富を稼ぎ出すマリファナ王・ミッキーを、マシュー・マコノヒーが好演。ミッキーが事業の譲渡を考え始めたときから、欲にまみれたワルたちが、腐肉に群がる蛆虫の如く蠢きだす。
マシュー・マコノヒーが主演には違いないのだが、狂言回しの役どころとして登場する情報屋でパパラッチのフレッチャー(ヒュー・グラント)が、物語を支配してゆく。軽薄な語り口の中に、恐ろしく緻密に練られた計画が見え隠れするさまは、監督のオリジナル脚本の真骨頂だ。鑑賞後は誰もが、フレッチャーは、ヒュー・グラント以外には考えられないと思えるだろう。ハマり役とはこういう仕事を言うのだ。
他にも、『スナッチ』でのブラッド・ピット的な役割として、コリン・ファレルとその仲間たちが、事件を面白おかしく引っ掻き回してくれる。本当に楽しい。終始、頬が緩みっぱなし。
『スナッチ』からちょうど20年、お家芸ともいえるフィルム逆回転からの答え合わせや、どんでん返しの向こう側に誘ってくれる巧妙な結末など、ガイ・リッチー完全復活といっていいだろう。彼には、英国を舞台にした犯罪絡みのアンサンブル・プレイが、本当によく似合う。
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