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JUNK HEAD

遥か昔、人類は地下開発の労働力として人工生命体のマリガンを創造した

自我に目覚めたマリガンは自らのクローンを増やして人類に反乱

それから1600年後の世界

人類は地下世界で独自に進化するマリガンの生態調査を始めた

(劇場用パンフレットより抜粋)

何の予備知識もなしに上記の設定を聞いたなら、ハリウッドSF超大作の宣伝文句か、キャッチコピーの類いだと想像してしまうだろう。どれほどの予算規模で作られる映画なのかと、次第に下世話な興味も湧いてくる。

しかし、本作『JUNK HEAD』はそんな固定観念を根底から覆してくれる、孤高の作品だった。一人の奇才が気の遠くなるような時間と労力を費やし、長編に仕上げたストップモーション・アニメーション。アート系のクリエイターが陥りがちな、マニア向けの作品に留まることを良しとせず、独自の作家性を十分に発揮しつつ、商業映画として成立させている。まさに驚天動地。

『JUNK HEAD』の生みの親、堀貴秀監督は内装業を営みながら、30分の短編コマ撮りアニメーション『JUNK HEAD 1』を2013年に完成させる。たった一人の作業で4年の歳月を要したらしい。絵画、彫刻、人形制作など芸術の素養にもともと恵まれていたとはいえ、この世界観を一から作り上げてしまう執念には敬服するしかない。

『JUNK HEAD 1』が国内外で評価され、紆余曲折ありながらも2015年に晴れて本作の制作がスタート。自主制作の短編を修正し、新たな映像を70分追加することで『JUNK HEAD』は100分の長編として2017年に完成する。長編制作にあたってはスタッフ3〜4人体制で臨んだとはいえ、早朝から深夜まで休日無しで撮影するという地獄のようなスケジュール。スタジオ兼作業場の2階に寝泊まりする、過酷な合宿生活だったそうだ。

労働基準法の埒外を堂々と闊歩している、稀代のクリエイター。短編への着手から数えること実に7年。監督の“七年殺し”の呪いは解け、ここに一応の決着を見た。

『JUNK HEAD』の愛すべきキャラクターたちは、どれもグロくてキモくて最高にクールだ。NHK・Eテレで放送されている『ニャッキ!』や『ひつじのショーン』に代表されるような可愛らしさを継承しつつ、スチームパンクの世界の中で急激に進化。“エモい”とはこういう造形なのかと、直感的な閃きが脳を支配する。

主人公とマリガンたちは、幾層にも隔てられた地下世界を縦横無尽に駆け巡り、生命の起源を探求してゆく。堀監督はつねに、観客の予想の斜め上から、スペクタクルを提供してくれる。こんな映像見たことない。ダークファンタジーの最果てともいえる、禍々しい地下世界。何の違和感もなく受け入れてしまえるのだから不思議だ。

オープニングの警備兵2人による砲撃シーンから、クライマックスのマリガン版“黒い三連星”とラスボスの対決まで、ストーリーはアクセルを緩めることなく突き進む。6分の1のミニチュア縮尺の中で、無限の宇宙が息づいている。

緻密な構成の上にわかりやすいコメディーの要素が絶妙に加味され、万人受けする商業映画として一気に開花。エンディングまで決して飽きさせない。ミニシアターの枠を超え、全国規模での公開となっている所以だ。

まだまだ続くであろう物語に期待せずにはいられないが、伝え聞いたところによると、劇場用パンフレット(何と手作り!)の売れ行きが続編の制作に直結してくるらしい。もう一度、キモ可愛いキャラたちに再会したいのならば、協力を惜しむわけにはいかない。

緊急事態宣言の発令下であっても、堀監督は創作の手を休めてはいないだろう。千葉県某所にあるという、異世界に通じるスタジオでは、今日も人知れず、新たなマリガンたちが誕生しているはずだ。








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