プフと距離の魔法
昨夜18時ごろ帰宅したら、ドアに付箋が貼ってあった。
差出人は上の階に住む森田さん(仮名)からで、
・ベランダに干していたプフが風で飛び、お宅の敷地に落ちてしまった
・都合の良い時にでも廊下に置いといてくれないか
といったような事が恐縮とともに書かれていた。
プフってなんだ?
私は1階に住んでおり、小さな庭付きということもあって洗濯物が漂着しやすい。
以前も森田さんの洋服がハンガーごと遊びに来て、その時もドアにお詫びの付箋が貼ってあった。
建物の構造上、2階から上はベランダが無いに等しい訳だしそんなに恐縮しないでほしいが…プフってなんだ?
なんとなくキャミソール的な感じかなと思いつつ窓の外を見て、固まった。
草木の茂る庭に、直径70センチほどの球体が不時着している。
ぼぅっと佇む茶色いそいつは静かな存在感があり、もしドアに付箋が無かったらUFOとしてすぐに号外を刷り、だけど配るのが面倒で途方に暮れていたことだろう。
おとなしそうな雰囲気の森田さん、何か重要な任務の遂行中なのだろうか。
近寄って怖々触れてみると、どうやらクッションカバーのようなものらしい。
刺繍付きで、形状記憶かってくらい丸くてごわごわしている。
後で調べてみるとプフとはモロッコの伝統的なクッションスツールで、カバーは山羊の革で作られているようだ。
スマホの中に並ぶプフはどれもかわいらしく、森田さんはおしゃれさんだった。
宇宙人説を唱えかけた自分を少し恥じた。
でも廊下に置いたらボンバーマンぐらい通路が封鎖されたので、抱えたまま2階へ上がってインターホンを押す。
ごめんなさい⇄無問題です、のラリーも終えてサッと帰るつもりが、リンゴとミカンの入った小さな紙袋をもらってしまった。
というか急に伺ったのに、紙袋は用意されていた。
コロナというマイナス環境のおかげで、尚更こういう気づかいが嬉しい。
お互いに距離が必要な時代だって思いやりの魔法で手は繋げる。
と清らかにリンゴを齧るも雑草伸び放題、漂着物への思いやりに欠けた庭が見えたのでそっとカーテンを閉めたうつけは私でございます。
2021.1.4 然