見出し画像

用語による隠れ蓑

ゼミや学会などでの発表において、いの一番に指摘される事項の一つが「用語の定義」である。

法人税法では、法人の所得に対する課税の根拠ついて、「法人擬制説」および「法人実在説」という用語がしばしば用いられて説明されている。
この件の対する品川芳宣氏(筑波大学名誉教授)の指摘は、用語の使用に関する戒めとして留意しておきたい。

「法人擬制説」および「法人実在説」は、本来、法学における法人の権利義務の主体が何であるかを論じたものであり、法人に対する課税に直接的な関係を持つものではない。
したがって、法人が実在であろうと擬制であろうと、法人税の課税根拠や課税制度とは無関係である。
それにもかかわらず、「法人実在説」を根拠として法人の担税力を説明することが頻繁に行われている。二重課税の問題を民法上の有名な二大学説と結びつけて巧みに創作しているが、学問的な説明としては非合理的である。

企業課税の議論が堂々巡りをしている一因として、このような語感の連想によって結論を導き出しがちな用語が、自らの論旨に都合の良い説得論法に利用されている可能性がある。

このように、「用語」は説明を容易にするための便宜的な手段であるが、特定の語義に基づいて合理的な論証を行う際には注意が必要である。
研究者として肝に銘じておきたい。

(参考)一般社団法人大蔵財務協会(2024)「週刊税のしるべ」第3625号(2024年11月4日発行)、(5)。

いいなと思ったら応援しよう!