R_B < Part 6 (4.5/9) >
意識の奥底で、赤い髪が揺れる。
(……香琉那?)
近くに居るのだろうか。
それなら、伝え忘れていた事を今のうちに話しておこう。
だが呼びかけようとした矢先、僕の耳に飛び込んできた声。
[ありがとう……芥!]
誰だろう。
彼女のアルトよりも明らかに低い、男の声。
初めて聞く声……けれども。
(そうか、“君”が……)
僕は何も知らない。それでも一瞬で分かった。
(“君”も、彼に心を救われたんだね)
香琉那と同じ髪色を持つ青年。
そのルビー色の瞳に映り込んだのは。
[今も心配してんだろーが!俺にも何か手伝わせろ、このバカヤロ!]
(え……?!)
自分にそっくりの、別人の顔。
でも僕は、君の事も知っている。きっと……。
「……夜明けか」
不思議な懐かしさに包まれながら鷲は目を覚ました。
外からは鳥の声。チェアのリクライニングを元に戻せば、居住スペースから芥の寝息が微かに聞こえてきた。
「芥……どうか、無事で」
時は満ちた。決行は、明日。
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「それで、貴方はご自分をどうやって解放させるつもりですか」
芥を此処へと導いてくれたのは、扇。
佐久の体に入り込んだ彼は、別世界で芥と知り合いだったと言う。
「……どうか、お願いします」
不思議な少年……最後は彼に全てを賭けた。
「彼、一体何者?めちゃめちゃ聡いじゃない……あんなの反則よ。久しぶりに冷や汗かいたわ」
「すまないね」
「思ってもいないクセに」
「そんな事無い。来世にでも、この埋め合わせはさせてもらうから」
無理なら、せめて別世界の君に……
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「データは消したけど、僕に組み込まれたプログラムまでは消去出来なかった」
ありったけの感謝を込めて、僕は最期の嘘をつく。
それでも、君は言ってくれた。
「俺は、もう誰にも死んでほしくない」
こんな僕でも、生きていて良いのだと。
「……最高だ」
僕達の……僕の勝手な計画のために、君を騙した。それを明かす事は出来ない。
だけど、これだけは本当の気持ち。
「芥、やっぱり君は最高に良い奴だよ!」
ありがとう、芥。
そして……君は生きて。僕の分も。
20161030-20200319-20220112
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