シャウプ勧告を読んでみた(法人税法編)



0.はじめに

税を仕事にする人で「シャウプ勧告」という言葉を知らない人はほとんどいないのではないかと思う。
では、「実際に読んだことがあるのか?」と問われたときに「Yes」と即答できる人は稀だと思われる。
私がシャウプ勧告という言葉を知ったのは資格の専門学校で税法の講師をしていたときからである。それでもシャウプ勧告そのものを読んだことはなく、せいぜいそれを取り上げている本を読んだ程度であった。
昭和24年(1949年)に取りまとめた内容を令和6年(2024年)に読む、、、温故知新と言えば恰好がつくが、タイトルにもあるように「読んでみた」というポップな心境であることは予め断っておきたい。
何故なら私は研究者でもそれを志す院生でもなく、あくまで実務家である。
実務書という王道を食べ飽きた実務家が歴史的書物という珍味に手を出した、そのような視点で書くことができれば読者によっては興味をそそられる人が数名ほど出るのではないか、そう思った次第である。
断りがない限り、引用は下記のURLから行っている。
シャウプ使節団日本税制報告書 第6章 (waikei.jp)

1.法人成りを進めるのは悪か?

「根本的には法人は、与えられた事業を遂行するために作られた個人の集合である。法人が不当に大きくならないこと、また法人が法令に適当な注意を払いつつ運営されるということを前提とすれば、元来、個人を奨励して法人形態を利用させる理由もなければ、また個人を脅かして法人形態を利用せしめない理由もないわけである。従って普通には、個人企業形態による事業よりも甚だ重い税を法人形態による事業に課すことは適当でない、またその逆も適当ではないのである。このような差別待遇は、実際生産に最も能率的な形態または組織から離れさせ、税負担のより軽い形態または組織の方向へ向わせる動きを惹き起すことによって経済活動の能率を害する傾向があるのである。
理想としては、事業規模が同じであれば、個人事業主であったとしても法人であったとしても負担する税額はイコールでなければならない、ということであろう。
実際には、所得金額が一定額を超えれば、法人形態である方が税務上有利になってしまう。こういった状況で、かつ、節税のアドバイスを求められた際には、我々は法人成りを提案せざる得ない。会社設立のハードルが会社法施行以降に大きく下がったことが、拍車をかけていることは誰もが認めるところであろう。
所得金額が一定額を超えれば、個人に係る税率が法人に係る税率を超えてること、給与所得控除額の方が青色申告特別控除よりも有利になること等により、法人住民税の均等割を加味しても支払うべき税額が減るからである。
いささか古い版(第7版)ではあるが、江頭憲治郎氏著書の株式会社法においても、「中小企業である会社の多くは、個人事業が『法人成り』したものである。法人成りの動機としては、たてまえは『会計の明確化による経営合理化』、実質には節税の配慮が働いているものと思われる。」としている。
「実際生産に最も能率的な形態または組織から離れさせ」とあるが、現代では小規模な事業者が法人成りをしたところで、生産性が下がるというのは現代の感覚にはそぐわない気がしてならない。
法人成りを考える規模の個人事業主にとっては、規模は大きくなってはきたものの、事業の拡大を考える上では資金需要は強く、その中で法人成りを検討することは私は悪だとは思わない。さらに、
法人成りをした場合には、会社法が適用されていくわけだが、法人成りをしたばかりの企業に対して、もう少し柔軟な法律が別途あってもいいのではないかと考える次第である(一人オーナー兼一人親方の企業に決算公告や株主総会などを求めることに正義はあるのだろうか。)。

2.法人税法編と言っておきながら、所得税(配当控除)の話になってしまいました。

「法人とその他の企業形態との間に、殆んど完全に区別をなくす税制を立案することも可能である。しかしこのような制度は、極めて複雑である。この複雑さのために税務行政と納税者の協力は、一層有効でなくなり、その結果として、理論上主義に厳密に固執することによって避けられる不公平よりも一層大きい不公平を生ずるであろう。しかし、法人企業と他の企業の間の公平に非常に近づくことができ、しかも同時に個人所得税の重大な脱税を防止する簡単な要素の組合わせを選ぶことは、可能である。」

法人とその他の企業形態(個人事業)との間に、ほとんど完全に区別をなくする税制は立案することは可能な一方で、租税の三原則である「簡素」を失うことを示唆している。同じく三原則の「公平」を追求するがあまりに逆効果になることを指摘する一方で、その落としどころを探る必要があるといいたのだと思われる。

それらを目的とした上で、その目的を実現するために下記の3点を取り入れるべきだと主張している。

 「この目的のために提案する組合わせは、次の三要素から成る。

(一) 現在と同様、各法人の純所得に対して三十五%の税

(二) 個人たる各株主に対しては、その個人所得税に対して(一)によって課税された法人から受け取る配当の二十五%相当額の控除(もちろんこのような配当は、その税金の計算の際株主の純所得に含まれることを前提とする。)

(三)1949年7月1日以降開始する事業年度の純益から累積される留保利益合計額について法人に対して毎年一%の利子付加税を課すこと」

続けて上記の(一)及び(二)は全利益が配当をされる前提において、法人と個人事業との間で概ね公平になることを意味しているようである。
ここから先は非常に分かりづらい書き方であるため、Excelの表に落とし込んでみた。

所得税等の等は地方税と考えてください。

実際に表に落とし込んでみると、所得税等(地方税を含む)が60%の場合であっても、40%の場合であっても、若干の差別待遇(シャウプ勧告内の表現)は残るものの、簡素な計算で概ね公平性が確保できるという意味が分かる。

控除率は現行とは異なるものの、この差別待遇を緩和するために配当控除が設けられていたことがわかる。

また、シャウプ勧告は、この配当控除があることからも、法人の所得はあくまでも個人株主に帰属し、法人税は所得税の前払いであるいわゆる法人擬制説(つまりは個人株主の集合体)に立脚したものであった。

法人税率35%は、現行の法住事の税率と大差はないものの、配当控除については大きく減少している。課税総所得金額等が1,000万円以下については、配当額の12.8%(所得税:10%、住民税:2.8%)、1,000万円超の場合には、6.4%(所得税:5%、住民税:1.4%)となっている。
大蔵財務協会の「注解所得税法」によると、配当控除に対する批判により引き下げられたとのことである。
その批判は、以下の2点に大別される(エッセンスは同書からいただいてますが、文章は結構変えました。)。
① 法人擬制説といっても、それは観念的なもの(つまり、法人は個人株主の集合体ではないと考える意見もある)であり、実際には株主に対する恩恵に過ぎない。
➁ 法人において借入金利子は損金となるが、配当は損金とならないこと、つまりは、間接金融が主体であった我が国の法人税制とはマッチしなかった(ファイナンスでいうところの節税効果がなかったというやつです。)。

当時の時代背景を考えると、株主優遇は≒で高所得者優遇であっただろうし、経済界からすると自己資本の充実を優先したい考えはあったのではないかと示唆される。

なお、所得税の計算上、配当所得につき総合課税ではなく、申告分離課税を選択した場合に配当控除がないのであるが、平成20年度税制改正の解説を読んだところで、そこには明確な理屈がない。

税収のために理屈が捻じ曲げられることをシャウプ使節団は良しとしただろうか。

上記のうち、(三)は言わずもがな留保金課税であるが、相当ボリューミーになってきた都合上、次回以降に書きたいと思う。


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