地方消費税から考えてみる「お買い物は地元で」
0.だらだらとした前置き
税理士業界に身を置き、数多くの消費税申告書を作成し、レビューし、申告を行ってきたものの、恥ずかしながらまともに地方消費税について真剣に考えたことがなかった。
「消費税等(国税7.8%、地方税2.2%)の2.2%部分であり、結局は10%まとめて法人の本店所在地(個人事業者の場合には主にその住所地)に納税して終わり。ただし、消費税申告書の作成の際に、中間納税額を打ち間違えなければOK」、そんな認識に過ぎなかった。
私は税理士受験生時代は消費税法に合格しているが、地方消費税についての思い出など「消費税5%のうち、そのうち1%は地方の財源なんやで」(私は税率が5%時代に消費税法の受験を終えている。あと私は東京在住の元奈良県民である。)、と親や友達にどや顔で言っていた程度のものである。
受験でも、実務でも、税理士でもあまり意識する必要がない地方消費税について、今回触れてみようと思ったのにはきっかけがある。
近年では趣味の一環で登山を行い、東京以外の山に登ることも少なくない。
登山の道中では、できるだけ食料や飲み物、温泉さらにはちょっとしたお土産などその地域に貢献したい考え方が芽生えてきた。
さらには、どこの街か忘れたが、「地元で買い物をしましょう!」などの張り紙があり、その張り紙には地方消費税の存在が触れられていたのだ。
その際に、地方消費税の仕組みが気になったのだ。
今回はそんな地味な地方消費税を紹介したい。
1.法人の本店所在地(個人事業者の場合には主にその住所地)に納税して終わり、となったはずの、地方消費税はどこへ向かうのか
消費税はあくまでも消費に着目した税である以上は、消費地の財源とならなければならない。
日本国において消費されたことは間違いないため、7.8%については争いがないが、2.2%についてはどの都道府県、さらには市区町村で消費されたか、その実態に近づける必要がある。
ここで紹介したいのが私の地元である奈良県だ。奈良県はご存じの方も多いと思うが、観光地以外に大阪のベットタウンという位置づけでもあり、買い物や食事については大阪で行うケースが多い。そのため、奈良県民の消費額は全国10位であるにも関わらず、地方消費税額の税収は全国最下位の47位という結果になっていることが公表されている。
お買い物は県内で!~地方消費税をご存じですか?~/奈良県公式ホームページ (pref.nara.jp)
奈良県民が大阪で買い物や食事を行った場合、奈良県民から預かった地方消費税は大阪の小売業者又は飲食店を経営する事業者を通じて大阪の税務署に納税が行われる。ここまでが税理士が行うサポートである。
実際にはそこから地方消費税額の「清算」と呼ばれる続きがあり、その「清算」を通じて、地方消費税額の税収は消費が行われた場所に帰属するように都道府県間で税収の分配が行われているのである。つまり簡単に言えば、納税地(税金が納められる場所)と消費地(物などが消費される場所)とのギャップを調整するのが「清算」であるといえる。
2.お金の流れ:納税される場所→消費される場所へ(地方消費税の清算)
「消費税は企業が生み出した付加価値に対して課される税である」という主張があり、その計算構造からも私もその主張に納得していたのであったが、地方消費税に関しては「しっかり消費に対して課される税であった」と学べたことが今回の大きな収穫であった。何故なら地方消費税も付加価値税であるのであれば、先ほどの例でいえば、大阪の企業が納税を行い、すべて大阪の税収とすれば事足りるはずで、このような清算の手続きなど必要がないからだ。
大阪で勤務する奈良県民のAさんが仕事帰りに大阪のおもちゃ屋さんで子供Bちゃんへの誕生日プレゼントを税抜10,000円(国税消費税780円、地方消費税220円)を購入し、大阪のおもちゃ屋さんは消費税額1,000円を大阪の税務署に納税を行った。ここで大阪の税務署は「おもちゃはAさんの子供Bちゃんが奈良県で使っている(消費している)はずなので、220円は奈良県に支払おう」となればよいはずであるが、大阪にあるおもちゃ屋さんがAさんが奈良県民でそのおもちゃも奈良県で消費されることまで確認をし、それをおもちゃ屋さんは顧問税理士に伝えて、顧問税理士も大阪の税務署に伝える、といったプロセスは当然ながらナンセンスである。
したがって、納税される場所である大阪から消費がされる場所への清算は上記のようなやり方は採用しておらず、清算には一定の基準が存在している。その清算の基準を具体的に見ていこう。
まずは都道府県間で清算を行う際に、事業者(ここでいう事業者は法人及び個人事業主)の売上と人口という二つの指標を用いる。
事業者の売上は小売年間販売額(商業統計)とサービス業対個人事業収入額(経済センサス活動調査)であり、人口は国勢調査によるものであり、いずれも50%ずつとされている。
数値に落とし込むと先ほどの220円は下記のようになる。
前提(数字はもちろん仮置きであり、便宜上、日本は大阪奈良だけで構成されている):
①売上高 大阪府:40,000百万円 奈良県:10,000百万円 合計:50,000百万円
➁人口 大阪府:20,000人 奈良県:10,000人 合計:30,000人
A 売上高基準(大阪府):110×40,000百万円/50,000=88円
B 人口基準(大阪府):110×20,000人/30,000人=73.3333→73円
大阪府の税収 はA+Bで161円となり、奈良県の税収は59円となる。
今回のケースでいうと、大阪府は奈良県に対して59円を支払う(清算)ことになる。
商業統計については平成26年7月1日現在のものを最後に商業統計調査自体が廃止されており、別の統計制度に置き換わっているが、法律条文を読む限り最後の商業統計調査結果が未だに用いられていると考えられる(少々取り扱いが理解できていないところがあるため、更新の可能性あり)。また、商業統計や経済センサスの数字から各種通信販売(どこで消費されたかわからない売上)や消費税が非課税とされる類の取引は除外された上で計算を行う仕組みとなっており、感心したことは申し添えておく。
3.私見:奈良県はなぜ地方消費税の税収が少ないのか
奈良県の人口は28位や29位など20位台後半を推移しているため、小売業者及びサービス業の売上が著しく低いことが要因なのであろう(なお、名誉のために述べると奈良県のGDPは全国最下位ではない。)。
それ故に「お買い物お食事は地元で」のスローガンを打ち出しているのだとは思うが、大阪さらには京都に近すぎるのがどうしても不利な立地であると言わざる得ない。お食事に関して言及すると車社会なこともあり、どうしても飲酒となると電車で大阪京都に出てしまう傾向がある。一方で商業地域・近隣商業地域の面積は全国で30位台中盤という情報もあり、かつ、何よりも県民性としては支出に対して寛容(繰り返しになるが「奈良県民の消費額は全国10位」である。)なものであることから、ポテンシャルはそれなりにあるといえる。したがって、奈良県内の小売業者やサービス業者の奮起を期待したい。
4.市町村への交付金について思うこと
ずっと都道府県に関して書き続けていたが、地方消費税のうち1/2はと都道府県から市町村に対して地方交付金として分配が行われる。
交付基準は、1.1%のうち、0.5%については、人口(国勢調査)とその市町村に所在する事業所等の従業者数(経済センサス基本調査)を1:1で按分されるものの、0.6%については単純に人口の比で按分が行われる(0.5%は消費税5%時代から続く税収で、0.6%は消費税8%以降の増税分である。)。
なお、ここでいう事業所等は小売業及びサービス業に限られていないが、昼間人口としての消費に着目したからであると推察している。
この交付基準が変わった経緯まで調べていないのに意見をするのは気が引けるが、0.6%の按分基準には違和感を覚えたのも事実である。
単純に人口で按分されるのであれば、市町村間では全く競争原理が働かないからである。自分が住む市で消費を行うことで、その市の財源が増えると考えることができれば、近所での買い物がインセンティブにつながるとは考えられないだろうか。そんな疑問を抱きつつも都道府県間のパイの奪い合いの清算とは異なり、市区町村は単純に消費に着目をした按分と考えれば多少腹落ちはした。
5.終わりに
自身の消費活動が地方の財源に与える影響が気になり、税理士にとってはおまけに近い地方消費税について考えを巡らせてみた。
一般消費者にとっても「経済がない一日はない」ように地方消費税を払わない日もほぼないはずである。
身近であるがゆえに普段意識しなかった地方消費税につき、万が一関心を覚えた際に、この記事が少しでも役に立てれば幸いである。
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