ニュースから見る法人税法_成田線の笹川駅駅舎の無償譲渡を題材に
0.はじめに
10月3日の日経新聞で印象に残っていた記事があります。
JR東日本が成田線の笹川駅駅舎を町へ無償譲渡をし、町が地域活性化に利用する一方で、譲渡後もこれまで通り駅舎として利用しつつ、管理を町が担うことでJRは維持費などのコスト削減が可能になる、というもの。
「あれ?この法人税の課税関係ってどうなるんだろう。」と少し引っ掛かりのようなものを覚えたのです。
あくまで情報は記事のものしか私の手元にはなく、推測の域をでないことを予め断っておきます(そのため最後はお茶を濁しております。)。また、鉄道会社自体を担当したことはないため、専門的な会計処理等がある場合であっても、加味できておりません。あくまで読み物として楽しんでもらえれば幸いです。
1.会計上の取り扱い
笹川駅駅舎は当然のことJR東日本の固定資産台帳に計上されていると考えられる。
便宜上、駅舎の時価は1,000円、残存簿価は400円としよう。
したがって、その駅舎を貸借対照表から消す必要があるため、
借方:費用 400円 / 貸方:固定資産 400円(簿価)
が計上されると考えられる。
2.税務上の益金・損金(Step①)
税務上は法人税法第22条第2項において、無償の譲渡であっても益金を構成することが規定されており、一方で固定資産の簿価相当額は同第22条第3項において、原価として認識がされる。
借方:現金 1,000円 / 貸方:譲渡収入 1,000円 (時価)
借方:譲渡原価 400円(簿価)/ 貸方:固定資産 400円(簿価)
この仕訳は、言わばファンタジーなわけであって、実際には無償で譲渡が行われていることから、現金の増加はありえない。
したがって、現金の増加を消す仕訳が登場する。
借方:費用 1,000円 / 貸方:現金 1,000円
この結果、会計上、税務上共に損益は-400円であることから、
別表4表及び別表5(1)の税務調整は行われないこととなる。
(現金勘定が変だと思う人は未収金など別の資産科目に置き換えて考えてみてください。)
3.税務上の別段の定め(Step②)
上記2の税務仕訳では、『費用 1,000円』としたが、この費用がどの費用にあたるのか、それは損金の額に算入されるものか、或いはされないものか、を次は『別段の定め』に当てはめて考える必要がある。
「無償の譲渡」と聞いた際に、真っ先に思い浮かぶのは、『寄附金』であろう。
寄附金に該当すれば、今回のケースでは話は楽である。
町に対する寄附金は公共法人に対するものであることから、いわゆる指定寄附金等に該当し、全額が損金に算入されるためである。
これは本当に『寄附金』なのだろうか?
記事の中では、上記にも記載したとおり「譲渡後もこれまで通り駅舎として利用しつつ、管理を町が担うことでJRは維持費などのコスト削減が可能になる」とあるからだ。
支出の効果が1年以上に及び自己が便益を受けるために支出する費用、については繰延資産に該当する余地がある。繰延資産に該当する場合には、減価償却のように償却限度額に達するまでの算入されることになり、一時の損金とすることはできなくなる。
4.寄附金になるか、繰延資産になるか
まずは、指定寄附金等の条文を見てみよう。
「3 第1項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに次の各号に掲げる寄附金の額があるときは、当該各号に掲げる寄附金の額の合計額は、同項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。
一 国又は地方公共団体(港湾法(昭和25年法律第218号)の規定による港務局を含む。)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)の額」
上記の太字箇所は過去の判例(福岡高等裁判所 平成19年12月19日判決【国等に対する寄附金/繰延資産とされた用水路整備費用】TAINSコードZ257-10852)によると、「寄附をした者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められる場合が除外されているのは、それが形式上は寄附金であっても、対価性があることから、実質的には寄附金といえないため、全額損金算入としては扱わないことにしたものである。」
記事によると、地域の高校生などが休憩できるスペースの設置、観光案内パンフレットなども置く、という地域の活性化に用いられることから、「寄附によって設けられた設備をJR東日本が専属的に利用すること」、には当てはまらないと考えられる。
しかし、「その他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるもの」については、どうだろうか。記事によると「管理を町が担うことでJRは維持費などのコスト削減が可能」とあり、これを対価性と考えれば、指定寄附金等に該当せず、支出の効果が1年以上に及び自己が便益を受けるために支出する費用である繰延資産への該当性があるとも考えることができる。
5.おわりに(逃げです)
この記事をもって、寄附金、繰延資産のどちらに該当するかを結論付ける気は毛頭なく(前提となる事実関係が把握できていないからです。)、あくまでこのようなプロセスで考える、ということをお伝えしたかったというのが趣旨になります。