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夏、眩しい

 夏が始まる前の、梅雨のじめっとした空気は憂鬱になるけれど、少し湿った土の匂いは、結構好きだって思った。放課後の帰り道、段々と長くなっていく夕方の情景が脳裏に浮かんで、なんだかノスタルジーな気持ちになる。

 そんな下書きをしたためていた先日。時は流れ今日、梅雨は正式に明けたらしい。猛暑。真夏。体感8月の半ばだ。夏は大好きだ。だが、予想より早い到来に気持ちが追い付いておらず、内心ドキドキして、やたらアイスを食べるなどしている。

 こんなにも太陽は眩しいというのに、私は夏風邪で喉を枯らしていた。声が出ないストレスというのはなかなかのもので、言いたいことが円滑に伝わらなくて、ただただ悲しい。

 無意識に誰かに電話をかけたり、話しかけたりした時に、あっと気付く。そしてやたら壮大に、誰かの当たり前を、当たり前にできる幸せを考えている。言葉を交わすということを、物理的にありがたく思った。声が出ないことで迷惑をかけてしまっているのにも関わらず、合わせてヒソヒソ声で話してくれる人の存在を愛おしく感じると同時に、だ。(釣られてしまうよね)

 炎天下の中、原付に乗った。止まっている間は暑くて、脳天まで溶けそうになるが、一度走り出せば、薄手のワンピースの隙間から風が入ってきて気持ちいい。

 今日は初めての道を通って、街から外れた花屋さんへ向かった。蔵のような店の佇まいに少し緊張しながら、重たい引き戸を開けた。そこには大きなローマ字時計が印象的な、洒落た空間が広がっていて、植物と、秒針の音と、ひんやりとした空調に、一瞬で癒された。植物たちは管理が行き届いているようで美しく、なんというか物凄い、生命力を感じた。

 何店舗か回って探していたユーカリ。最近は数が不足しているらしく、今朝たまたま入荷したのだと聞いた。ひとりでこの店を切り盛りしている店員のお姉さんはフレンドリーで、親身になって話を聞いてくれるものだから、ついつい話し過ぎてしまった。「声、セクシーですね。」と夏風邪で掠れた声まで誉められたのは、少し恥ずかしかった。

 青々としていて大きくて健やかな葉を、花束のように抱えて店を出る。バイクのリアボックスにそっとユーカリを積んだ。サイドミラーから、揺れる葉を何度も確認しながら30キロで走る。

 太陽が真上を通り越した穏やかな陽射し、風。行き道は初めての道だったのに、帰りはいつの間にか知っている道に繋がっていた。どこか異空間に行ってきたような、魔法が解けた冒険の後のような、そんな不思議な気持ちになった。

 スーパーで割引されていたさくらんぼを買って、家に帰った。さくらんぼ食べたいなって、ふとこの間思って、そういう衝動って予測できないから急に対処できなかったりするけれど、それまで温めてきた願望を今日、ついに叶えることができてよかった。

 割引されていたから早く食べなきゃね、と自分で辻褄を合わせて全部食べてしまう。思い返せば今日は好きなものをたくさん食べて、欲望に忠実に生きた日だった。そして髪もメイクも上手くいったからなかなか落としたくなくて、こんな時間までひとりでごねている。

 暑いから、熱いから、楽しいね。夏の自分が一番好きだなって思えるくらいの魔法だよ。眩しくって、目が開けられない。

 共に夏を生きる皆様へ、水分摂ってね。そしてくれぐれも、ご自愛ください。

#エッセイ #夏 #日記 #日常 #summer



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