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言葉が見つからないときのプレイリスト

ひさしぶりだね。
2023年10月19日に最後のしたのがおよそ前になってしまった。

どうも上手く書けないな。

次回こそ、レブロンの話を、2008年北京五輪のリディームチームの話を書こうと思ってたんだけど……。

それはいきなりだった。

「ガン!!!!」
と、いう音と共に、
「ガガガガッ」て、音が響いた。
もしかしたら無音だったのかもしれない。
もしかしたら、そのとき言葉が飛んで行ったのかもしれない。

とにかく頭がいたい。
何が起きたんだろう。
とりあえずネットで検索してみる。

”くも膜下出血は脳動脈瘤と言われる血管のふくらみがある日突然破裂することによって起こります”

えっ?

”バットやカナヅチで殴られたような強烈な痛みが後頭部付近に発症し、数秒から数分かけて起こります”

これは……間違いない。

そして、言葉が上手くしゃべれない。
「ああ・・・」とか「ううう・・・」としか言えない。

病院に行っても、しゃべることができないだろう。
そこで、”くも膜下出血” と紙に書いた。

病院に行く。
「ううう・・・ああ・・・」
(とにかくこれを検査してくれ。たぶん、くも膜下出血に違いない。)
こう言いたかったのだが、言葉にできない。

いくつか検査を受ける。
いや、とにかくCT検査を取ってくれ。それではっきりする。
言葉がしゃべれないので、”くも膜下出血” と書かれた紙を見せることしかできない。

「ううう・・・」
(これです、これなんです。)
とにかく必死だった。
「うう・・・ああ・・・」
言葉にならない。ただひたすら ”くも膜下出血” と書かれた紙を出し続けた。
すると先生は「じゃあ、CTを撮りましょうか」と言う。
やっとその言葉が聞けた。

そして……。

「本当にくも膜下出血でした!」
と、先生は驚く。
だからそうだって言ってるじゃないか。

そして緊急手術のため、別の病院に搬送された。

2023年11月、東京都目黒区
病名は、くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)。
脳血管内治療(動脈瘤コイル塞栓術)を実施。

さらにもう一ヶ所発見されたというので、もう一度手術を受けた。

全身麻酔が覚めると、右手が包帯でぐるぐる巻きになっていた。
そして右半身の麻痺。
やはり言葉はしゃべれない。
車椅子に乗って、何もできない。
これはひどいね……。

一週間ほどたって、リハビリが始まった。
理学療法士さんに好きな食べ物を聞かれる。
思いは浮かぶのだが、言葉にできない。
言葉が見つからない。

作業療法室に新聞がおいてあった。
今日が何日かもわからない。
日付を見ても何年何月何日かよくわからない。
スポーツ記事を見れば大谷の話題なのはわかるが、記事を追えない。

言語聴覚士さんと話す。
「うみ」「海」そして海の絵、「みみ」「耳」そして耳の絵、「うま」「馬」そして馬の絵が書いてあるプリントを見る。
絵と文字が頭の中で繋がらない。一つとして、意味をなさない。
これで「うみ」なんだ……。

五十音表をもらって。
あ、い、う、え、お。
と書いてみる。
こんな文字使ってたっけ……。

すべて忘れている。

次はバスケットボールのアメリカ代表について書くつもりだったのに。
もう書くこともできない。
もうちょっとだけ待ってくれれば書けたのに。
くも膜下出血があと一週間くらい伸びてくれれば書けたのにね……。

理学療法士さんに、今日は当てますよ、と好きな食べ物の話になる。
カレーでもない。ハンバーグでもない。とんかつでもない。
結局、今日も当たらなかった。

言語聴覚士さんには、音楽を聞くといいですよ、と言われた。
Spotify で曲は聴くことはできる。
けれど曲名を思い出せない。
メロディーは頭の中に流れてるのに……。
「何を聴きたいですか?」
と、Spotify は聞いてくる。
私が聴きたいのは……。

まもなくリハビリ病院への転院。
ところが急に具合が悪くなった。
熱もあるのでPCR検査を受けた。
コロナだった。

大部屋から個室に移される。
することもなく、ぼうっとしていた……。

あれ?
いやちょっと待てよ……。

プレイリストがあるじゃないか。

Spotify のプレイリスト。
つまり好きな楽曲を集めた再生リスト。

すっかり忘れていたけど。
あの曲、プレイリストに入ってなかった?

曲をさがしてみると……。

……あった。

そして曲を再生する……。

この曲だ……。

私が聴きたかったのは、この曲だ。

繰り返し何度も再生した。
何度も何度も再生した……。

もしかしたら、ちょっとだけ泣いたのかもしれない。

(つづく)

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