贅沢ビュッフェと女友達
数年ぶりに高校の同級生と会うことになった。場所は某高級ホテル、時は平日のランチビュッフェ。当日はあいにくの雨だった。
皆都内にいて仲が良いのに、何故数年ぶりなのかというと、概ねのところは自分のせいで。
私以外の2人は家庭持ち(子供あり)で、当時子供も小さかったためいつも子供同伴だった。心が侘しかった私は、愛する友人の子供は可愛いが長時間子供らの相手するのは辛く、「ここで時間を消費して私に何かメリットあるんか?話したいことも話しづらいし」と思ってしまうことが度々あった。結果、そんな気持ちで子供たちの目を見るのがしんどくなってきて、彼女たちからの誘いから遠のいていってしまったのだ。加えて、仕事が忙しかったというのもある。
今回は、「子供抜きで」という彼女たちの提案だった。私に気を遣ってか何かはわからないが、否定するものでもないので「あ、そうなのね!ほじゃいつもみんなが行きたくてもあんまり行けないところにすっかね〜」と話していたところ、決まったのは某高級ホテルのランチビュッフェだった。
高級感あふれるロビーで顔を合わせ、「久しぶりー!」の言葉の後は、会わない期間に生まれた距離感を少しずつかつ効率的に埋めていくような会話をポンポンぽん!と進め、ビュッフェ会場では早速食べたいものを頼みまくり、その美味しさに酔いしれ、貪った。(ちなみに、コロナ対策は万全の会場だった)
彼女Aの、お調子者で要領が恐ろしく良いところは全く変わっていない。そんな彼女のイケメン旦那がややモラハラ系なのが不思議だ。苦労しているのだろう、ちょっとやつれているように見えるのが気になるが、ケタケタと楽しそうに私に絡んでくるので可愛い。彼女Bは、美しい人妻感と東南アジアの市場にいる肝っ玉母ちゃん感を併せ持ち、終始ニコニコと笑っていて、人間が陰組と陽組に分かれるとしたら完全に陽の方に属している女だ。一番細いくせに一番よく食べる。二人とも母親でありながら、基本的には昔と見た目も中身もあんまり変わっていない。尊敬しかない。
私は、自分の子供がいらない。自分の遺伝子を残したいと思ったことがない。
理由はただ自分で精一杯なだけだ。ものぐさでしかない。そりゃあ、可愛く着飾ったプリンセスのような女の子を見たり「お母さん」と言って彼女たちが母親に抱きついているのを見たりすると、ものすごく可愛くて、私にも娘がいたら・・・と思ったことはあるが、それはただの浅はかな白昼夢程度のものである。
そんな私に、彼女たちは「えー自分の子供は可愛いよ。産みなよ」みたいなことは言わない。
ローストビーフをおかわりした頃から、3人とも満腹ボーダーを超えつつあることについて暗黙の了解的だったのだが、華やかなデザートテーブルがすぐそこに鎮座しているのを見過ごして帰るわけにはいかない。デザートを取りに行こう、と席を立った時に、彼女Bはローストビーフのおかわりをホテルマンに頼んでいた。
デザートとコーヒーのひとときは案の定おしゃべりを加速させる。「30分前です」と申し訳なさそうな笑顔で告げるホテルマンに「うっす!」とか恥知らずな相槌を打っては、話に戻る。とてもではないが、高級ホテルのビュッフェ会場で話すことちゃうやろというトピックが彼女Aからどんどん出てくるので困ったものだった。
最終的にはとにかく腹が膨れすぎて3人とも疲弊していた。会話が続かない。ほぼ息切れしていた。チョコレートケーキのきれはしと無言で戦う彼女Aを見てナプキンを投げた。ゲームセットだ。
許された2時間を使い果たしてお会計を済ませた後は、とにかく座れる場所を探した。腹が重たすぎたのだ。ディーンアンドデルーカ(合ってる?)に逃げ込んだ私たちは、3人の妊婦みたいだった。それでも、くだらない話とシリアスな話を繰り返しながらたくさん笑った。数十万円分のキャンピンググッズをまだ一度も使えていないこと。義両親がちょっと貧乏で困っていること。ご無沙汰なこと。もっとお金欲しいということ。仕事は皆それなりに頑張っているけれど、共通して何かとモヤモヤしていること。
時が時なので、丁度いい頃合いで「次はビュッフェじゃなくて、懐かしのラブホ女子会にしよう(食べ過ぎないようにするのはビュッフェとしては本末転倒だし、かといって食べ過ぎるとその後がしんどい。)」と言って別れた。彼女たちは子供たちのお迎えへ、私はキャリアカウンセラーとのオンラインミーティングへ。それぞれの場所に帰っていった。
山手線に乗り込む頃には、雨が止んでいたように思う。
変わっていくものと変わらないものの間で、私たちは生きている。そして、確実に大人になっているのに、どうしてもなりきれないアソビも持ち合わせている。
時が時なので、頻繁には会えない。まぁ、次は子供たちにクリスマスプレゼントでも送ってやるかな。そして、私の転職活動話でも聞いてもらおう。二人とも、今も友達でいてくれてありがとう。最寄りの駅に着いた頃スマホが鳴って、ビュッフェを頬張る3人の写真が、届いた。