【#一駅ぶんのおどろき】ドリームメーカー ※原案 芝浜(落語)
腕の良い『ドリームメーカー』の男がいた。
ドリームメーカーとは見た夢を現実のものとして実現させる能力を持つ夢の専門家としての上級職だ。
この職業は『実現させたくない夢の管理』ができるかが最大の腕の見せ所である。
2100年の今では昔は『第六感』とか『超能力』と総称していた能力を高めていく事は常識だ。
この能力開発が国をあげての支援として学校での必須科目になってからも久しい。
男の能力は非凡で腕の良いドリームメーカーとして評判だった。
しかし『名声』『お金』『地位』は人を変えてしまう事がある。
男は現状に満足し堕落して、やがて働かなくなった。
日々寝てばかり。
たまに働いたとしても腕が鈍り顧客からのクレームが多くなった。
より仕事が面白くなくなった。
男の名声は落ちていった。
依頼される仕事も1つ、また1つ、とドンドン少なくなる。
そして全く仕事が来なくなってしまった。
仕事が来ないからお金も無い。
人生の中ではじめて味わう絶望。先が見えない恐怖。
非凡な男が体験した事の無い挫折。
男は自分を覆う暗闇の中で自分自身の将来、なりたいもの、実現したい事を考えた。
男と将来を約束していた女性は言う
「あなたはこの国で一番の能力を持つ人なの。心を入れかえてもう一度初心に戻って働いて」
男が全てを失ってもこの女性だけは、自分のもとを去らなかった。
人生で一番大切なものは何か。
男は絶望と挫折を味わったが真に理解できた。
大切なものを見つけ
絶望と挫折を味わい
人生の奥深さを知った男は
以前よりも更に能力に磨きがかかったと評判になった。
大企業との仕事も決まり
男の持つ能力を家庭向けに
幅広く活用して貰う為の
新商品の開発に取り組んだ。
男自身がモニターとして自らが実験台となり夢を見る事にして開発をすすめる。
カプセル型の機械に入り、
自分が見たい夢、見たくない夢をセットする。
そうすると悪夢の場合はシャットアウトして良い夢は正夢として実現できる仕組みだ。
この商品が発売されると、爆発的に商品がヒットした。
男の『名声』『お金』『地位』は依然と比べものにならない位に飛躍的に高まった。
男に言い寄る女性も再び多くなったが、将来を約束した女性と大切な時間をともにしている今が幸せだ。
「人生の絶望と挫折を味わっていたあなたが、こうして今。私本当に幸せだわ。でも最近、あなた疲れすぎているんじゃない。自慢のカプセルでゆっくり休んだらいかが。」女性は言う。
男は、そうだなと頷き
カプセルに向かいかけたが呟いた
「よそう。また夢になるといけない。」
(※原案 落語 芝浜より)