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ある日の出来事

仕事の疲れでウトウトしていた、なかなか人に会えないこんな状況。
電車はゆっくりと光が揺れながら、私を別の場所に運んだ。

私は、ずっと会いたかったお世話になった人の家にいた。

しわはお互いに増えた気がするが、思い出を語り合った。

楽しい語らいの時間。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
夕陽が綺麗にまっすぐな角度でテーブルに射し込んだ。

かわりのコーヒーを三人分持ってきてくれた奥さんは、身支度をはじめた私をみて
「ゆっくりしていけばいいのに」
と優しく残念そうに言った。

気持ちは嬉しいが、そろそろ帰らねば。

「ゆっくりしていけばいいのに」
玄関でもう一度声をかけられたが、また来ますからと私。

「また落ち着いたら、その時は、ゆっくりな」
「必ずまた来てくださいね」
夫婦で優しく声をかけてくれる。

なぜか、なぜだか突然に、もう会えない気がした。
そんな訳はないのに…。
でも、なぜか凄く嫌な黒い影が心を急速に覆っていく気がした。

私が黙っている時間は、ほんの僅かな時間だっただろう。
しかし、その僅かな間によって楽しい時間の思い出が凄く台無しなものになってしまうのも嫌だった。

楽しい今日の1日が暗い闇に負けてはならない。
黒い大きなこの闇をこの場所に留まらせては、ならない。
なんだか涙も出てきてしまった。堪えなければ。

私は、この大きな闇を振り払うために
あえての大きな声で言った

「いきます!!」

なんとも微妙な空気が車内を支配した。
右隣の席の人はすぐに。
左隣の席の人はゆっくりと席を離れた。
車内の人の視線が痛い。

よくよく考えるとあの優しい夫婦は誰だったのだろう。
あの電車の出来事は何だったのだろう。

次の駅に電車が到着して、
私は涙をいっぱい貯めたまま降りる予定では無い駅のホームに立った。

もうあかんわと思った。

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石澤大輔
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