越境 〜閉ざされた世界の外へ【断想】
最近は「境界線」が専らのテーマなのであるが、以前「越境」についてFacebookで書いたことを思い出したので、再構成してここにも記録しておこうと思う。
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みなさんは「障害者」と呼ばれる人が日本にどのくらい存在するかご存知だろうか?
令和元年の『障害者白書』によれば、身体障害436万人、知的障害108万2千人、精神障害419万3千人となっている。
複数の障害を併せ持つ方もおられ、単純計算はできない。が、要するに国民の7%程度が何らかの障害を有していると言える。
これは全国の名字ランキングベスト5の佐藤、鈴木、高橋、田中、伊藤が人口に占める割合に匹敵する。
みなさんの肌感覚とこの数値は一致するだろうか?
乖離があると感じる人が多いのではないかと思う。
今までの人生で出会った佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん、伊藤さんの数と、出会ってきた障害者の数がだいたい同じだなという方はそう多くはないはずだ。
少なくとも私にとってこの数値は衝撃だった。
自分の生活感覚では、障害をもつ人は1%ほどにしか思えなかったのだから。
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この事実を知って初めて、健常者の世界と障害者の世界との分断にリアリティが増した。
それまで見えていなかったこの「境界線」を私が解したのは、「既存の考え方にとらわれずに性別・国籍・年齢・身体・意識の違いによる課題をクリエイティブに解決していく」ことを目指し活動しているNPO法人 ピープルデザイン研究所の須藤シンジさんのお話をうかがったときだった。
だが、この境界を教えてくれた須藤さん自身もまた、あるときまでは同じように分断を感じずに生きてこられた一人だった。
須藤さんが健常者の世界から障害者の世界への「越境」を体験することとなったのは二人目のお子さんが生まれたときだ。
須藤さんの次男は生まれながらに重度の脳性麻痺を有しておられた。
ここに切実でアクチュアルな問題としての「障害」が立ち上がる。
即ち、自らの世界が閉ざされたものであったと認識し、その境界線を踏み越えたということ。
この体験が原点となり、ピープルデザイン研究所や超福祉展などの福祉分野での活動に力を注ぐに至っているというわけである。
しかし、もしこの越境体験がなかったら?
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私たちは分断された世界で、断絶の軋みに耳を閉ざし生きている。
この現実に、私たちはもっと自覚的にならねばならないと思う。
越境の瞬間は偶然にしか訪れぬものではない。
無知を自覚し、見聞を広め、想像力を働かすことで自ら引き寄せることが可能だ。
私たちは越境者になることを求められている。