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トランプ2.0で変わる世界──保護主義の再燃とAI時代の行方
1. 新たな幕開け:「トランプ2.0」がもたらす衝撃
2025年1月20日、トランプ氏が再び米国大統領に就任します。前回政権(2017~2021年)で培った“ディール外交”の手法が、今回はさらに戦略的・具体的に発揮されると見られています。たとえば在日米軍の駐留費負担をはじめ、同盟国に追加的な条件を突きつける展開は十分にあり得るでしょう。
一方、世界各国の首脳陣もこの数年で大きく顔ぶれが変わりました。ロシアによるウクライナ侵攻にどう対応するか、G7が一枚岩でいられるかなど、不確定要素は山積みです。政局が不安定化する欧州とも相まって、国際社会の秩序再編が加速しつつあります。
2. 米国優先主義が呼ぶリスク――ブロック経済への懸念
トランプ氏の“America First”は保護貿易にも色濃く表れます。中国からの輸入品に高い関税を課し、米国企業の競争力を高めようという考えはすでに打ち出されており、これが他の大国にも波及すれば、世界経済は再びブロック化の道をたどるかもしれません。
保護主義が浸透すると、新興国・途上国からの輸出が滞り、経済成長の失速につながる恐れが高まります。こうしたシナリオを回避するため、自由貿易を掲げる国々の動きに今後いっそう注目が集まるでしょう。
3. TPPの存在感が高まる――自由貿易圏が果たす役割
保護主義のうねりを和らげる防波堤として、イギリスが2024年12月に加盟した環太平洋経済連携協定(TPP)が再び脚光を浴びています。メンバー国同士で低関税や公正なルールを共有し、取引をスムーズに進めるこの枠組みは、ブロック経済化する世界でより強い価値を持つ可能性があります。
日本はTPPを主導する立場として、各国の利害調整や新興国の参加促進をどう進めるかが試金石となります。もしトランプ氏の保護主義政策が再度強まれば、TPPが世界貿易の新たな軸として確かな存在感を示す展開も見えてきます。
4. ビッグテック規制の行方――トランプ政権との駆け引き
前回政権から続いている、グーグルをはじめとする巨大IT企業(ビッグテック)への反トラスト法訴訟は、バイデン政権下で一段と強化されました。今回のトランプ政権が同じ路線を継承するのか、それとも緩和に転じるのかは予断を許しません。
一方、米国が企業分割などの規制に慎重な姿勢を見せる一方で、欧州や日本が厳格な規制を継続すれば、世界のIT産業の戦略はさらに複雑化します。イーロン・マスク氏の「政府効率化省(DOGE)」構想や、ビッグテックとの水面下での交渉も加速しており、今後の行方は大きな関心事です。
5. AIがもたらす変革――「社会実装」と新たな課題
2022年頃から急速に普及してきた生成AIは、2024年以降、社会実装が一気に進みました。マイクロソフトが端末上でAIを動かす「エッジAI」対応パソコンを発売し、アップルも「iPhone16」に自社生成AIを搭載。さらに、24年のノーベル物理学賞と化学賞でAI研究が同時受賞したことで、その技術的価値が国際的にも改めて評価されました。
しかし、一方で動画生成AI「Sora(ソラ)」の登場が示すように、映画やテレビ、アニメなど、クリエイティブ産業の雇用への影響が現実的な課題となっています。推定では26年までに関連産業の21%がAIによって雇用を失う可能性があるとも指摘され、業界の再編や新たな働き方の模索が求められています。
6. AI普及に伴う電力問題――脱炭素との両立は可能か
AIのさらなる普及に比例して、データセンターや端末での電力消費は急上昇していくと見込まれています。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、2026年には世界のデータセンターの電力消費が2022年比で2.2倍になるとの予測が出ています。
日本でも、経済産業省が2040年度までに原子力発電の比率を2割程度維持しつつ、再生可能エネルギーを4〜5割に拡大する新エネルギー基本計画の原案を公表しました。AIの膨大な電力需要を支えながら温暖化ガスの排出も削減するという二重の課題に、企業も国もどう対応していくのかが問われています。
7. まとめ――揺れ動く世界の舵取り
「トランプ2.0」の再登場により、国際情勢は急激に動き始めました。高関税や保護主義の広がり、ビッグテックをめぐる規制、さらに急速に社会に浸透するAI技術と電力問題──これらの複合的な課題は、国境をまたいで相互に絡み合っています。
なかでも、ブロック経済化のリスクが高まれば、新興国や途上国の経済成長は大きく制約されます。その意味で、イギリスが加盟したTPPをはじめ、自由貿易圏が果たす役割はますます重要性を増すでしょう。技術革新を活かしながら脱炭素社会を実現するために、各国や企業が連携し、積極的な対策を講じることが今こそ必要とされています。