『ある行旅死亡人の物語』
ルポルタージュ『ある行旅死亡人の物語』(共同通信大阪社会部 毎日新聞出版 2022)
「行旅死亡人」とは、病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所など身元が判明せず、引き取り人不明の死者を表す法律用語。
その共同通信遊軍記者は、官報に掲載された一人の女性の行旅死亡人の情報に関心を持った。
「国籍・住所・氏名不明。年齢75歳位。女性。身長約133センチ。中肉。右手指全て欠損。所持金現金3千480万円」
さっそく記者は取材を開始。
これはおもしろかった。一気読み。
アパートの契約者は男性名義ですが、入居者も大家も、男性の姿を見たことがないといいます。右手五指の欠損は、以前に勤務していた缶詰工場での作業中の事故が原因でした。しかし彼女は、労災が認定されたにもかかわらず、受け取りを断わっています。彼女には住民票がなく、医療も無保険でした。 遺産を管理する弁護士は探偵を雇って彼女の本籍を突き止めようとしましたが、徒労に帰しました。
遺品には星型のマークがデザインされたロケットがあり、中には意味不明の数列が記されていました。あるいは北朝鮮のスパイか。
これは「事実は小説よりも奇なり」というやつだな、とのめるように読み始めましたが、多くの謎が残ったものの、事件性はありませんでした。しかし、警察でも探偵でも突き止めることができなかった女性の身元が、執念の追跡の末、ついに明らかになります。ですから、ブン屋物語です。
https://mainichibooks.com/books/nonfiction/post-593.html
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